the other side of SmokyGitanesCafe
それとは無関係に・・・。
 




GITANES嗜好者と香水の関係~いたちごっこ。
それとは無関係に・・・。





夜、外出している家人から電話があり、「夕食の用意はなし。」とのこと。
仕方ないので車で出掛ける。
CD1枚と財布、胸のポケットにもちろんGITANESを入れて、
目指すのは、どこか近所ではないコンビニである。

GITANESにまず火をつけて運転を始める。
土曜日の車の流れはやはりいつもよりもゆっくりしている。
こちらも慌てる用事ではないので、別にどうということもない。
そう言えば、「タバコ屋」が減っているのだなあと考えながら、
昔のことを思い浮かべる。



中学・高校の頃は、どこで煙草を買うかが一大事だった。
何しろ、買ってはいけない身分だからだ。
自動販売機で買うのが普通なのだろうが、お金を入れてものが出てくるまで
まったく無防備でただ待機しているのは、かなりスリリングだった。
スリリングだけではなく、かなりリスキーでもある。
だからもっとも安全なタバコの買い方は、 こちらの身分を詮索したりせずに
タバコを売ってくれるタバコ屋を選ぶことだった。
それも、受付窓口でやり取りするのではなくて、店の中にまで入っていける所。
どこにでもあるような条件の物件ではなかったが、それでも学校の近くや、
家の近所に2,3箇所あったような気がする。

やがてタバコを買うだけでは検挙(補導か)されない年齢に達した。
そうなると、そんなタバコ屋で買うよりも販売機の方に比重が傾いた。
タバコの自動販売機など、どこでも労せずして見つけられるし、
第一、まだどこでも売っているようなタバコを吸っていたからである。
学生の身分では、いつもタバコのストックや、タバコを買う金があるわけではない。
周りの、さらに貧乏な友人達と同じようなタバコを吸うこと・それが生活の知恵だった。
なぜなら、「タバコくれ」と言われたら何も気にせず恵んでやれるし、
こちらの煙草がなくなったときは、何も気にせず恵んでもらえたからだ。

GITANESを吸い始めて10年になるが、今ではタバコが切れて知人に貰うのも躊躇する。
口に馴染みのない銘柄の煙草が、美味い訳ないからである。

GITANESを吸い始めたきっかけは、今となっては完全に忘れてしまった。
特にフランスに思い入れがあった訳ではないし、
有名人が吸っていたからという理由でも ないことだけはハッキリしている。
多分、皆と同じモノを選択するのが嫌だったのだろう。
タバコを選ぶ理由なんて、そんなもんだ。


会社から20歩 歩いたところにおばあちゃんがやっている煙草屋がある。
もちろんそんな店でGITANESを扱っているはずがない。
「今日からGITANESにしよう。」と決心した日から、仕方ないので 1,2分歩いて、
地元の百貨店のタバコ売り場に毎日通う日々が続いた。

百貨店のタバコ売り場というのは、別に百貨店が「タバコのエキスパートに育てよう」
という意図で人員配置をするわけではない。
だから、煙草の銘柄を全て憶えている係もいないし、第一コロコロ人が替わる。
「GITANESください。・・・あの・・・その後ろの棚の3段目、左端。」
というのが 日課になった。

いくらタバコに興味がない店員さんでも、変なタバコを毎日買いに来るヤツがいると、
そのうちにこちらの顔とGITANESのパッケージを憶えるものだ。
1年もしないうちに私がタバコ売り場に近づくだけで、
さっとカウンターの上に GITANESを用意してくれるようになった。
ちょっと困ったのは、タバコを買う気がなくてたまたま通りがかっただけでも
GITANESを用意してくれることだった。
 同僚とタバコ売り場付近を歩く時など、GITANESだけはさっと
用意してくれるので かなり羨ましがられた。
そう言われれば、確かに「得意客」気分にさせてくれたものである。
平日は黙って2つ、月曜日は3つがカウンターにすぐ出てくる。
火曜日が私の会社の定休日なので、その前日だけは3つ買う。
それを先方も学習してくれたのだ。

大体若い女性がその売り場の担当で、毎日行くうちに一言二言喋るようになる。
それでも人事異動で別の人が担当になると、また「棚の3段目、左端。」 に逆戻りする。
それはそれで、「この人はいつ覚えてくれるだろうか。」と、別の楽しみ方も生まれた。
時折女性の担当者が誰もいないときがあって、
そんな場合は林主任(こいつだけは実名だ) が偉そうにカウンターの向こうに立っていた。
「GITANESください。」 「えーっと・・・。」 棚の3段目左端にもない。
「売り切れですね。」 といって目を背ける。
カウンターの奥のストックスペースにGITANESは数カートン置いているはずだ。
いつもの係の人なら、棚になければ黙ってそこへ行き、カートンを開けながら
GITANESをカウンターに置き「〇〇〇円です。」と微笑むのだが、
林主任はそれが面倒なのだ。
彼は 最後までそんな調子だった。
ある時など、10時開店のその店に9時59分に入ろうとしたら
(もちろんタバコを買いに行ったのだ) とうせんぼされた。
「ちょっとちょっと、どこへ行くのですか!?」
「は?」
「まだ開店じゃないんですよ。」
私はシャッターを叩いた訳ではない。
開店準備が完了していて、扉も開いていたから入っただけのこと。
その上、入り口両脇にはすでに社員が来客出迎えのため整列していたのだ。
開店前に行った私が悪いのだが、両手を大きく広げてとうせんぼされた。
とうせんぼされたのは25年ぶりぐらいだった。
幸い、いつもサスペンダーをしている男性社員・かなり愛想が良くて てきぱきした、
私と同世代の店員さん(のちほどこの百貨店の組合の偉い人だということが判明した)
が異変に気付きすぐに対応してくれたので、
私が林主任の胸座をつかむような事態は避けられたが、
その日から林主任は私の「心の天敵」になった。


10年も吸っていると、その間に何回か値上げもあった。
ある女性係員は「大変ですね、GITANES高いですもんね。」と声をかけてくれ、
「その代わりにはなりませんが・・・。」と言って、粗品の灰皿を一つくれた。
その灰皿には「マイルドセブン」と書いており、現在も私の部屋にある。
絶世の美人と言うわけではないが印象の良い彼女は、
その後同百貨店の某ブランドショップ(その百貨店の中では売上上位だった)に 配置替えされた。
そりゃ、彼女をタバコ売り場に置いておくより、余程いいだろう。


林主任がたまに現れたりまた女性係員が替わったりと、いろいろ変化もあったが、
別に問題もなく私のGITANES生活は続いた。
百貨店と反対方向の商店街に、色々な銘柄を揃えたタバコ屋がある。
そこにもGITANESが売られていた。 いつもブース(?)に座っている女性は、こちらも愛想がよく、
世間話も好きなようだ。 何度となくタバコを買いに行くようになった。
正面に本屋があったからだ。
しかし、距離的には百貨店の方が近いため、 そのタバコ屋へ行く頻度はかなり低かった。
3ヶ月ほどぶりにそのタバコ屋へ行った時など、
「あら久しぶり。どうしてたの?」なんて尋ねられた。
まるで身内のような話振りである。
別の店へ行っていたと正直に言うことが出来ず、
「ちょっと身体を壊してまして、タバコを控えてました・・・。」 なんて嘘をつく。
「あらら大変。GITANESやめて軽いのにしたら?」と奨められた。




そうこうしているうちに百貨店を悲劇が襲った。
ある日を境にGITANESが品切れしていることが頻繁になり、
そしてとうとう「ごめんなさい。もうGITANESは入荷しないんです。」 と宣告される事態になった。
宣告したのは林主任ではなく、女性の店員さんだった。だからほんとうなのだ。

百貨店は倒産した。







私の勤務する会社から20歩の距離のタバコ屋。

そこのおばあちゃんにある日GITANESの空箱を一つ渡して、
「これを仕入れてもらえませんか?」と頼んだ。
「はいはい。これ、何て読むの?」

現在GITANESはその店で買う。
その店でGITANESを買うのは私一人なので、私に在庫責任があるのだ。
今は毎日通う訳ではなく、カートンで買っている。
カートンで買うとおまけに百円ライターが貰えるのだが、
百円ライターはそれほどすぐにガスが切れるものではない。
だからそうそう毎回ライターを貰っても仕方ないのだ。
「おばちゃん、このあいだ貰ったライター、まだ使えるよ。」
「あ、そう。私タバコ吸わんから、その辺わかりませんねん。なくなったらいつでも言うてな。」
「はい。」
今ではGITANESを買いに行くたびに、
「ライターまだいける?」
「うん、大丈夫。」
という会話が定着した。




胸のポケットのGITANESを取り出し、
何も感じなくなるほど既に慣れてしまった手順で、火をつける。
そして何も感じなくなったほど慣れた匂いと煙がにじみ出てくる。

でもたまに、すごく稀に 「お、GITANESが主張している・・・。」と思える瞬間があって、
美味さと不味さが同棲したような味がする。

そんなとき思い浮かぶのが、
隠れながらタバコを買っていた昔の自分の姿だったり、
林主任の横顔だったりする。

だから余計に複雑な味になる。




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