こんな本を読んでいる

日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

官僚とメディア

2007年07月30日 | 読書ノート
官僚とメディア
魚住 昭
角川書店

このアイテムの詳細を見る

 

blog Ranking へ

 メディアも企業である。飯を食わねばならぬ。1面トップを飾る。点数を稼ぎ業績をあげ稼ぐ。当たり前の経済行動である。
 ところが,この当り前の行動様式が,いつしか凶器に変わることがある。とりわけ,官僚の失策隠蔽の具に利用されたとき,メディアというものが,空恐ろしい凶器と化してしまうことを,この本は,如実に示している。

 記憶に新しい耐震偽装の姉歯事件。あの事件も,結局のところ,姉歯個人の犯罪であったことが,後日の裁判の過程で明らかにされた。イーホームズの藤田,ヒューザーの小嶋,木村建設の篠原といった面々が逮捕される必要があったかどうか,事件発覚時の狂騒は一体何だったのか,考えさせられてしまう事件である。

 魚住は言う。「姉歯の一審判決が指摘したように事件の最大の責任は姉歯にある。しかし,もし建築確認システムが正常に機能していれば,姉歯の犯行が10年間も見破れないというような事態にはならなかったはずだ。
 事件があらわにしたのは,建物の安全を支えるはずの建築確認のシステムが完全に形骸化し,機能しなくなっていたということだった。国交省の官僚たちはおそらくそのことに薄々気づいていながら,何の手も打たずに放置してきたのだろう。
 いや,それどころではない。彼らは1998年の建築基準法改正に際して検査業務の民間委託と限界耐力法の導入によって建築確認システムを破綻させたのだった。
 この事件で問われるべきは国交省の官僚たちの責任だった。だが,それを問う声はあまりにもか細く,官僚たちはほとんど無傷のまま生き残った。その代わりに生贄として差し出されたのが小嶋であり,木村,篠塚であり,藤田たちだった。
 では国交省の官僚たちはどうやって自らの責任回避に成功したのか。もう言うまでもないだろう。情報操作である。事件発覚から強制捜査着手までの約五ヶ月間,メディアを通じて流された情報の大変は国交省を発信源としている。国交省の担当記者たちはそれと気づかぬまま(多分いまだにそうだろう)官僚たちの生き残り戦略に加担されたのである。(同書P107~108)


  折りしも夏休み。図書館に行けば,過去の新聞は容易に閲覧できる。佐藤に対する国策捜査といい,姉歯事件の処理といい,事件収束後,事の真実が明らかになった段階で,事件当時の報道を読み直すのも,学生さんの夏休みの宿題としては,格好の素材ではあるまいか。

blog Ranking へ


最新の画像もっと見る