こんな本を読んでいる

日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

再会~ヘクトルとアンドロマケの別れ

2006年05月07日 | Weblog

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 これが3回目の大原美術館。久々に,お気に入りのキリコ『ヘクトルとアンドロマケの別れ』に再会した。今回は絵葉書にスタンドを買って机の上に飾ることにした。無機質で壊れそうなロボットのような二人が,幾何学的な構図とは裏腹に,しっくりと寄り添う様は,結末を知るものには,アキレスに倒されるヘクトルを示唆するかのようで物悲しい。

 古代トロイ。プリアモスの治世は平和と自信に満ち満ちていた。その隆盛を象徴するかのようなヘクトルの徳に裏打ちされた知性と勇気。寄り添うアンドロマケ。

 だが,第2王子パリスが,スパルティ王メネラオスの妃,ヘレネを寝取ってトロイに連れ去っるところから,栄光のトロイの歴史に暗雲が垂れ込める。メネラオスの兄,ギリシア(ミケーネ)王にアガメヌノンの参戦による10年戦争の火蓋が切って落とされる。

 それでも,さすがは地中海の覇者トロイ。ヘクトルを先頭に緒戦を優勢に闘い奮戦する。だが,ヘクトルに打たれた盟友パトロクロスの仇討ちに剣豪アキレスが参戦し,トロイの英雄ヘクトルを亡き者にしたことが,戦況を一遍させ,やがては,木馬の奇計・トロイの陥落へと誘いとなる。
 もちろん,誰もカッサンドラの声には耳すらかさない

 キリコの描いた『ヘクトルとアンドロマケの別れ』は,ギリシア屈指の剣豪アキレスとの一騎打ちを前に,死の予感を漂わせ,不安におののくアンドロマケの心中を余すところなく描いた秀作である。

 「キリコの絵は夢みたいな世界だけど,物凄くはっきりしている。目の前にあるものは妙なもので,何のことだかわからないのだけど,その妙な物の一つ一つに,手にとるような実感がある。」とは赤瀬川源平の評だが,

 今回ミュージアムショップで買った岡山文庫の『大原美術館』では,「マヌカン人形が各部分を脈絡もなく組み立てられて,非合理な遠近法による古代都市のなかに長い影をひいて立っている。ここは言い知れぬ不安な雰囲気と息のつまるような静寂な空気につつまれていて,神秘と幻想を漂わせている。(P82)」と評している。

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