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巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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か弱きものへ

2020-08-15 19:44:19 | 


「か弱きものへ」

人生は勝ち負けではなくて、入れ替わりがあり、移り変わりがあって、私の立ち位置に誰か他の人が座り、私は行き場を見失って、だから何処かへ行かねばならず、さまよい、移ろいながら、年齢を重ね、なんとなくそれらしい気分でこの世の中でひっそりと暮らしていて、そんな自分でも生きていていいのかと、誰もが自然に思うことを変に難しく考えて、自分の存在価値なんてどこにも転がっていなくても誰かが拾い上げてくれるかもしれないし、自分でひねりだしてしまえばいいし、相容れない誰かをゆるすことだって我慢することではないし、放置することだって、無視することだって、忘却することだって、誰かの目からすれば「ゆるし」なのかもしれないし、私が紡ぎあげる未来がたとえ美しくなかったとしても、誰もそんなことに関心を示すことなく、ひとり落ち込んだところで何も変わらず、自分だけが惨めな思いをするのかもしれないし、こんな風に疾走し、遂には失速することですら、珍しいことでなく、誰にでもあることかもしれないし、とはいえ自分がこんな木偶の坊であることを認めることはやはり不本意なことではあるけれども、他人の目からすれば至極当然のことなのかもしれないし、無駄口を叩くこともなく、自分の駄目さ加減を早く認めれば、少しは楽に生きることができるかもしれない

そんな自意識過剰な人間存在である私は鎮魂の歌を七十五年のときが経ってもやはり唄おうと思うのだ

人間という、か弱きものへ

肩の荷を少し降ろそう

針路

2020-07-23 16:22:30 | 



「針路」

ゆらり指先で優しくなぞって
形を確かめた小さなかかと
いまその足は一歩外に踏み出し
室内に残ったのは半身の私と黒い猫

どこへいくのだ

誰かが発した言葉が脳内に再生される
反響、残響、反響、残響
どこというどこが大量生産される
右足に続かない軸足がバランスを保つ
黒猫は招き猫のように目のそばで腕をこねる

いくのか、それとも戻るのか

空は放っておいても翳り、そして白む
私の向かう先など誰の関心も惹かない
赤い夕陽の沈没を風見鶏が嘲笑したとき
百万、千万の民がその過ちを糺すだろう
反響、残響、反響、残響
無責任極まれり、ここに

そして微動だにせず汗を垂らすばかりの中途半端
いつまでも描かれぬ道が脳内ですっと消えた

ただひとり(即興詩)

2020-06-27 13:53:06 | 


「ただひとり」

街中をひとり急ぐ
私の足音をかき消す不自然な夜闇
存在は消されてしまった
ありきたりな日常
私の目に映る異常
戻ってきてしまった
雨音は涙を連想させる
Youの神経は愚鈍ですか
吐息は歩数と湿度の乗数で増える
上昇する体温が私の生の証
街中をさらに急ぐ

気づいたら
明日は我が子の誕生日だった
気づいたら
今日は我らの結婚記念日だった
気づいたら

すべてが過去の断面であった

今日と明日の狭間であなたは何を思う
ラジオが奏でるサザンオールスターズ
脳内にあふれ出す幾多のメロディー
それぞれイントロから再生してみる
これも過去、すべて過去
そうでしょう

失ったのは未来だったのか、感性だったのか
今をつかもうと必死すぎたゆえに失った明日
ただひとり
リビングでなまぬるい缶ビールをあおる

先のみえない苦しさなんて
今この瞬間のわびしさとくらべれば
クソみたいなものなどという
当たり前のことにさえ気づかず
ただひとり
すべてを失った欲張りな人間がひとり

今日がある、明日がある



風が笑う
空は遠い

らら、ららら

2020-05-10 16:41:10 | 



昼下がりの少し眠気が襲う頃
そろそろ届く、母さんの好きな花かご
あなたの趣味を思いながら子どもの頃を思い出したよ
ワガママだった僕はずいぶん手がかかる子どもだったろう

母さん、あるときはとても気弱で寝込むこともあったね
姉さんと二人で、布団に横になっているあなたを案じた
家族を養うプレッシャーがどれほどかなんて知ることなく
愛情をいつも求めていたその重さに気づかない子供の特権

あのひ、僕はちっぽけな我が家の庭で椅子にすわって
あなたがさばくハサミの奏でる音に聴き入っていた
なんの不安も抱かず、なんの苦労もせずに
このままいつか大人になるのだろうと無神経に思ってた

リズミカルに、ラララ、時計は幸せを差して止まってた

今遠い異国にいる僕はふるさとの大地を踏めないけれど
スイッチひとつであなたの声や表情を知ることができる
それは味気ないコミュニケーションかもしれない、でも
ゼロコンマ数秒の遅れならその絆に影響なんかないよね

あのさ、ありふれた言葉だけど「げんきかい?」
あのころよりも少ししわがれたあなたの声が聞きたい
いま僕はあの頃のあなたの年齢を大きくこえて
あなたの年齢の半分をとっくに割ったんだ

近づいてるようで、決して追いつくことはない、それが親子

母さん、いま僕は子供を持って、いわゆる親になって
あのころのあなたの気持ちが少しだけわかるようになったかな
大切なものを懸命に守ってきた気苦労を理解してるかな?
少しずつ、少しずつ、あなたの大きさに気づいてきたかなあ?

思い出アルバムは二階の物置部屋に散らかしたままだよね
記憶という思い出を胸の中にフルカラーですべて持ってます

らら、ららら、らら、ららら
るる、るるる、るる、るるる

あこがれ(改稿版)

2020-05-10 00:46:46 | 



灰色の雲の切れ目から
すべてを照らそうとする光の筋
分厚い雲に行く手をはばまれて
夕空はすっかり雨雲に覆われる

もうすぐ雨降りの季節
あじさいの花びらのうえ
一匹、二匹
懸命にはいつくばっている

もしも真っ暗な夜空が晴れならば
あなたは一番星の名乗りをあげて
わたしの視界にぽっと灯るだろう

うすのろだってゆるされますか

星がいつ消えたのかさえ知らず
わたしは懸命に緑葉の上を這う