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巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
【連絡先】
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道端の草花

2020-12-28 23:12:45 | 
「道端の草花」

響きという響きが町じゅうを埋め尽くし
匂いという匂いが体じゅうに染みわたる

ふと背中を追う誰かの視線
振り返った腰のそのひねり具合に
つられるように歩幅をずらして
終いには後ずさりする、それは秋、それとも冬?

春よ早く来い

どこまで続くんだろう
この目で確かめてみたくて朝一番で起きた
澄んだ空気の先に緩やかな弧を描く山の稜線
子供の頃、端から端まで駆けた夏の日の浜辺
辿りつかない終点を、先端を目で追うばかり
そんなとき、
どうしても思い出すんだ
もう一歩踏み出す勇気を持てなかった冬の日を

ほら、誰かが踏破しようとしているあの境目
指をくわえて見守っている間に
子供のまま大人になってしまったよ

許されるものと許されないものが
入り混じった濁った墨汁のように
毒と愛の混ざった言葉を並べていく
ただ文字を書きなぐるだけならば
デタラメにも慎重にもなれるものだが

耐えて耐えて
果てしないこの歌の終わりまで耐えて
誰にも見えぬよう大きな懺悔を潜めて
本当はとても小さな小さな道端の草花
それが私、摘んでくれ
瞳はそっと閉じたまま
預けた体は軽々と持ち上げられ
ガラスの心がグシャリと砕けた

いま種を精いっぱい撒いて

春よ来い、早く来い

今宵雪を待つ

2020-12-20 17:44:25 | 


「今宵雪を待つ」

この大海原で
溺れかけている
手を思い切り伸ばして
救いの船を掬う
色とりどりのボール
水面を流れる流れる
波紋は端まで広がり
辺り一面を漂うばかり

船首から見える光景は冬
舞い散る白粒を指でつまむ
頼りなく崩れるカタチ
触れただけで消えるツブテ
粉々に砕けたあとは
空を飛ぶことさえ
難しくなってしまった

はるか斜めから差し込む
光の筋を数えあげるうち
誰かの年齢を偶然言い当てた
それが幸せなのか不幸なのか
わかるはずもない苛立ち
明日が近いから焦り怯え
昨日が尊いから立ち尽くす
美しい晴れ空は
いつまでも続きはしないのだと
鼠色の空が鼻をならしながらつぶやいた

春を愛する人は夏を愛し、秋を愛し、冬を愛す
四季を愛する人、その人は
その変わり目の名もなき季節の中にすら永遠を見る
目の前の一束の空気がいつかこの季節の代名詞となって
誰かの手のひらの上にそっと舞い降りるだろう

今宵雪を待つ

しんしん
しんしん

手のひらのうえ

2020-12-13 08:53:54 | 



手のひらのうえ

まわり、まわり、まわりつづける

いくつかの音を立てて
幾千の色をなして

いくつもの余韻を残し
次から次へとやってくる
わずかよっつしかない季節は
その変わり目も手伝って
万華鏡のように色鮮やか

お前は、
天使の矢が恋人たちを射抜く
そんな季節に産まれたのだ
この地球に、大宇宙に

あれからいま時は流れて
お前はとうに忘れてしまっただろう
この世に生まれ落ちたばかりの感情を

お前は確かに人間だった
均しく美しく尊い存在
もうすぐ天国から使者が参る
その者に伝えるがよい
我が人生は素晴らしきかな、と

鱗状の雲が彼方まで続いている
朝日が差すこの部屋で
お前は物思いにふける
愛しきもの
それは辺り一面を覆う霧深い朝の光景
それは一日の終わりを告げる漆黒の闇
それはじりじりと身を焦がす太陽の光
それは身を引き裂くほど凍てつく寒さ

空想の世界から届いた一通の手紙を
お前は後生大事に抱きかかえ
今日という一日のすばらしさを
心の底からかみしめる

まわり、まわり、まわりつづける

誰にも止めることのできない時、そして季節

お前は季節に踊り、踊らされつづけるのだ

まわれ、まわれ

天体観測(即興詩)

2020-11-23 09:32:58 | 
「天体観測」

多くの葉をまとった大樹よ
しなびた花びらを手放したまえ
忘れてしまえ、季節を外れた色なんて
すべてが地面へ向かう秋だから
緑から赤、黄へと色を変えて
落としてゆけばよいのだよ

紅く色づく大樹の葉
わたしのふるえる指先が
あなたの枝先に振れたとき
涙が止まらなかったのはなぜだろう

目に見えない悲しみが
先端から伝わって
わたしの心を凍らせたから?

あなたの頂部が差す先にある
あの星の大地は限りなく広いこと
私は知っている、そして
この星のいのちが残り少ないこと
誰もが気づいている

企てている、誰もが脱出を
行くべきか、残るべきか
いずれが正しいかもわからず
今日もまた日が暮れる

私はずっとこの星で暮らしてきた
こうやってひっそり年老いて
いつかひとりっきりになったら
あの星が廃れゆくさまを
見届けることになるのだろうなぁ
この星が安泰である限り

水が流れるがごとく
あの星に人があふれて
光が差すほうに誰もがもがいて
その暖かなぬくもりの中で
微笑みながら消えていく

それでよいのかもしれない

大樹は勇壮に立って
この星に300年間
どこへも行かず
この大地を踏みしめる
私は大樹と一体になって
いつか動かぬ化石となって
この星の最後の住人になるのだろう

今、目の前をまた別の星が
昨日までの隣人を乗せて流れていった
空を舞う鳥達は鳴く
さみしや、さみしや
私の心も連れだって泣く
さみしや、さみしや
大樹が私のちっぽけな体躯をつよく抱きしめた
このまま大樹が私を取り込んで
私はその一部になってしまえばいい

包み込む外気が呪文をかけ
私たちはひとつになった
そうして、
いつまでもあの星をともに指差す
今やたくさんの人がにぎわうあの星は
この星を離れられない私たちの憧れなのかもしれない

目を凝らせば
あの星で生きる我が子たちの姿が見える
それだけで十分だ、それだけで
大樹と化した私はこの星の最後の住人
何も求めず、毎日ただただ星空を見上げるのだ

夏色

2020-08-23 16:38:09 | 


「夏色」

ある穏やかな日
風の子をとらえた
てのひらに渦巻く暴れん坊
すぐにでも飛び出しそうな荒々しさ
まるできかん坊のような騒ぎっぷりに
やわらかな視線を向ける私

にちようび
まちの穏やかなひととき
行き交う人々は別世界とともにある
あの人が好きだった季節は何色?
日の光は人の好みに合わせ七変化
再び歩き出した私は風の子を握りつぶす
風の子は私の指の隙間を滑り抜け
親なる大空のもとへ駆けていった
カラカラと夏の音がする
カラカラと笑う声がする