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巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
【連絡先】
cosgyshow@gmail.com

あこがれ

2020-05-09 23:32:16 | 


太陽
灰色の雲の切れ目から
降り注ぐ光はすべてを照らすけれど
分厚い雲にはばまれては手出し無用
気づけばすっかり雨雲に覆われた夕空

季節
もうすぐ雨降りの日々がふえて
あじさいにかたつむりが現れる
はいつくばっていきてきた半生
うすのろだってゆるされますか
ねばりづよく、あなたのように

回想
もしも真っ暗な夜空が晴れたなら
あなたは一番星の名乗りをあげて
わたしの視界にぽっと灯るだろう
やり直すことなどできないけれど
あの頃と同じ夢をみていたいのだ
夢みる若者を応援していたいのだ

あなたはいつまでもあなた

やすらかな笑顔を
たやさなかったあなたの勝ち
やせほそった身体を
みせなかったあなたの勝ち

かなしみは海よりも深く
そして
おもいでだけが記憶を彩る

星が消えたのはいつ?
子どもたちは行き場を失った
あなたは今どこを泳ぐのですか
わたしは葉の上を這うかたつむり

熟した果実

2020-05-09 15:18:05 | 
大切なものは目に見えません

こころ

この世にうまれ出たときから
常に脈動し続ける胸の臓物が
目の前三十センチ四方の空気を
ぶるぶるとゆらす

脳内に搭載した顕微鏡を使って
その複雑な動きを分析する
入り乱れる感情が生むのは
滝のように雪崩落ちる罵詈雑言

幼い頃にはピンク色していた心のひだが
自分でも気づかぬうちに
怒りや苛立ちや焦りで
能面のようにツルンとしてきた今日この頃
誰かの感情のつぶてがすりぬけてゆく

かつてより美しくなくなった世の中にあらがい
わたしは自分史を再構築しようとする

老眼鏡が手放せなくなったわたし
歩くために杖が必要になったわたし

今よりほんの少し優しくなった社会を
先の未来に期待するけれども
わたしはわたし

庭先で熟した無花果の収穫時がわからない
縁側で座ってひとり考え込むわたし
もいで持ってきたのは隣家に住む少年だった
ありがとう
とどめを刺してくれて



ゆめうつつ

2020-05-09 00:37:12 | 
ゆめうつつ

はらはらと
細い指のあいだを
すりぬけてゆく
音がおどる
そして流れゆく時
先端が響くのか
カラカラと揺れる
かすかな気配をたどっては
朝の光のしぶきに目をそらし
そして
夕風はなきごえのように
ひゅるひゅると鳴いて
誰もたどりつかなかった夢世界へ
すべてをいざなう
答えはただひとつではないと
誰かが信じたのかもしれない
朝は空を見上げた
そして
夜は床に就こう
何気なく目に映った天井の歪んだ木目が
未来への入口だと子どもたちは知っている
気づいている
小さな寝音を立てながら眠りに落ちる母よ
あなたはどこへゆく
ゆらりゆらり
心地よく
そして私も
こくりこくり
ゆめうつつ



ここにいること(即興詩)

2020-04-30 23:40:02 | 
「ここにいること」

わたしは今生きている

それは、
前を向くこと
立ち上がること
朝焼けを眺めること
全身に日の光を浴びること
帰り道で雨に打たれること
濡れた髪をタオルで拭うこと
生暖かいコンビニ弁当と一人きりの晩酌
狭い湯船につかって鼻歌を歌い
ペタンコの布団に寝ころんで天井を眺めれば
普段より緊張感を増した私の心に眠気が襲う

今日一日ここにいることが許された
そう安堵して枕を抱きしめる
そんな狂おしい日々がまだまだ続く
振り返ると少しつらくなるから前を向く

ここにいること
ここにいること

かつて世界がこんなに狭いなどと思わなかった
逃げ場のない時間と空間の中で
唯一わたしの手のひらの中にある
それがここだった

ここにいること
ここにいること

いま世界はここでしかないのだから
世界中の人々とここを共有しよう
もしそこに行けずとも世界がなくなることなどない
たとえ今は会えなくてもあなたがそこの住人だから
そして私はここの住人だ

わたしたちは時折響く雷鳴に身をすくめながら
何事もなかったかのようにやりすごすのだろう
命ある限り、命ある限り

わたしは今生きている



ある夫婦の幸せ

2020-04-19 17:07:21 | 
精巧な積み木細工のような離島の家屋
想像力に満ち溢れた創造力の結集
今にも崩れそうな絶妙な均衡を保つ
島人達の驚く顔が最大級の賛辞

匠は呆然と立ち尽くす私に尋ねる
「アナタは何でできていますか?
私はコンビニの総菜コーナーに並ぶカレーパスタ
チープな食材でできています」

島を一回りして帰ってきた飼い猫
我が新居の軒先に寝転ぶ日日是好日
門出となる今日という日を夢見て
毎日を慎ましく暮らしてきた私達

匠の技で終の棲家を手に入れた
縦の糸はあなた
横の糸はわたし
紡ぎあげた絹のベールが君の表情を隠す

わずかな隙間から垣間見える唇の動き
「ありがとう」とつぶやいたのかい?
隣からじんじんと伝わる体温が
今日の幸せ、そして明日から永遠に続く幸せ