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巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
【連絡先】
cosgyshow@gmail.com

ラストピース

2021-02-07 12:28:43 | 
「ラストピース」

希望という名のついた太陽が 今日を燃やして生きていく

触れたくて 走ったあの日
手を伸ばし ため息ついた
なりたくて なれなかった
情けなくて 自分を恨んだ

人が夢を追うから儚いなどと
つまらない辻説法を聞くうち
時代という不可抗力がドタバタと集団占拠
世論という同調圧力がバタバタと民族大移動
誰もが駆けだすように今から消え去った
いや、僕だけが目的地を持たなかった
自分が悪いのか、周囲が悪いのか、誰も悪くないのか
わかりきっている答えを見つからないふりして探して回る
そうやって毎日暮らしてきた、今もこれからも

公園のベンチ脇に一匹だけ取り残された猫
何もひとりきりになりたかった訳じゃない
僕は真剣、いつも真剣勝負
でもいつもひとりぼっちなんだ
誰も気づかないけれど
心はSOSを常に発している

完成には程遠いけれど、なんとなく結末が見えた
すべてを埋め尽くす義務はないから
終わりはこの僕が決めるジグソーパズル
そろそろギブアップしても体裁は整う、そうだろう

まだ見ぬ終わりでも、その近づく足音がかすかに聞こえる

緑、黄、赤と色鮮やかに生きた日々も今いずこ
何一つわからないまま、朽ちるのを待つ落ち葉
春夏秋冬一巡した挙句、色を失い、地に落ちて
いつ枯れてもよいと太陽から言い放たれた僕は
ラストピースをこの手に右往左往する一匹の猫

終わらない、終われない、終わらない、まだ終われない
逡巡の日々がもう少し続く
そして、いつか突然幕を降ろす

春を待つ

2021-01-31 12:38:07 | 
「春を待つ」

つぎつぎと朝が来る
冬の夜を越えて
春の宵を呼んで

いつか、かの人は消えた
知らぬ間に天まで届いた
あの大樹の先端を追って

一瞬の空白が
無限の余白を埋め尽くす

同じように誰かが去った
抜け殻になってしまった
少しだけ狭くなった世界

走ってしまった
焦ってしまった
未知の存在で

迷ってしまった
悩んでしまった
無知の状態で

呼び戻そう、すべてを

頼りないただの呼吸
わかっているけど

甲斐ないただの鼓動
わかっているから

悲しくなれないなら
寂しくなくて
幸せでなくて
楽しくもなくて
それなら
消え去ってしまえ
無価値だから

うねった長い道の果てに
希望の未来があるのなら
這ってでも目指すけれど
足元に咲いた一輪の花が
ちっぽけな勇気を配って
諦めた陽がもう一度昇る
そして何とか一日が回る
そんな毎日をただ過ごす

ぐっと
君が言葉を飲み込んだ
その一瞬の空白が
無限の余白を埋め尽くす

冬よ去れ
春よ来い

ら、ら、ら

2020-12-31 00:41:04 | 
「ら、ら、ら」

働いて、働いて
朝から晩まで働いて、働いて
衣服に染み付いた汗のにおい
わずか三日間、束の間の休息
ゴロゴログルグルゴロゴロと
心地よさそうな寝息を立てて
働き者の猫は夢の世界に浸る

想像が、希望が、未来が
山麓の石清水のように
こんこんと湧いてくるよ
そして、
昔から変わらない歌を
子供たちがくちずさむ
ら、ら、ら
ら、ら、ら

目に映るすべてがまばゆくて
そう、あれはちょうど一年前
あの白い雲のようになりたいと
ふもとの祠に通った回数は
優に一千回を数えた

ああ、我が町に雪が降る
あの町にもこの町にも雪が降るよ
そして、あなたの足元一面に
舞い降りる白く冷たい花びら
少し積もって、ぜんぶ覆って
精一杯の愛情であなたを包もう

ら、ら、ら
ら、ら、ら

冬の使者に告ぐ

2020-12-28 23:58:55 | 
「冬の使者に告ぐ」

響きという響きが町じゅうを埋め尽くし
匂いという匂いが体じゅうに染みわたる

どこまで続くのだろう
この目で確かめたくて朝一番で飛び起きた
澄んだ空気の先に緩やかな弧を描く山の稜線
子供の頃、端から端まで駆けた夏の日の浜辺
辿りつかない終点を、先端を目で追うばかり
そんなとき、どうしても思い出すのだ
もう一歩踏み出す勇気を持てなかった冬の日を

冬の使者に告ぐ、耳を澄まして聴くがよい

春よ早く来い

目の前の真実を何ひとつ打ち消せぬまま
許されるものと許されないものが
入り混じって濁りきった黒の墨汁で
毒と愛の混ざった言葉を並べていく

耐えて、ただひたすら耐えて
果てしないこの歌の終わりまで耐えて
誰の目にも映らぬよう秘かに懺悔する
本当はとても小さな小さな道端の草花
それが私だ、摘んでくれ

グシャリと砕けたガラスの心
崩れ切った身を宙に委ねたまま
精いっぱい種を撒き散らしつつ
冬の使者に告ぐ

春よ来い、早く来い

12月の風はとても冷たい

春を愛す

2020-12-28 23:36:32 | 
「春を愛す」

響きという響きが町じゅうを埋め尽くし
匂いという匂いが体じゅうに染みわたる

先行く者の背中を追う視線
振り返った腰のひねり具合に
つられるように歩幅をずらして
終いには後ずさりする、そうだろう

冬の使者に告ぐ、耳を澄まして聴くがよい

春よ早く来い

どこまで続くのだろう
この目で確かめたくて朝一番で飛び起きた
澄んだ空気の先に緩やかな弧を描く山の稜線
子供の頃、端から端まで駆けた夏の日の浜辺
辿りつかない終点を、先端を目で追うばかり
そんなとき、
どうしても思い出すのだ
もう一歩踏み出す勇気を持てなかった冬の日を

ほら、誰かが踏破しようしているあの境目
指をくわえてぽかんと見守っている間に
臆病者は子供のまま大人になってしまった

目の前の真実を何ひとつ打ち消せぬまま
許されるものと許されないものが
入り混じり濁りきった墨汁のように
毒と愛の混ざった言葉を並べていく
ただただ文字を書きなぐるだけならば
デタラメにも慎重にもなれるものだが

耐えて耐えて
果てしないこの歌の終わりまで耐えて
誰にも見えぬよう大きな懺悔を潜めて
本当はとても小さな小さな道端の草花
それが私だ、摘んでくれ
瞳をそっと閉じたまま
預けた体は軽々と持ち上げられ
ガラスの心はグシャリと砕けた

宙に崩れ切った身を委ねたまま
いま種を精いっぱい撒いて
冬の使者に告ぐ

春よ来い、早く来い