きらく堂日記

鍼灸師の喜楽堂が日々の出来事、過去の思い出、趣味にまつわる話などを綴った日記帳(=雑記帳)です

思い出探し(32)・待ちに待った歩行訓練

2010年10月02日 | 思い出探し


当時入院していた病棟。2階に病室がありその前のベランダで歩行練習をした。昭和39年・夏

梅雨明けまでにはまだ少し間があった。
手術後もベッドに寝たままの生活が続いていて、ベランダの水滴で曇ったガラス戸を通して見える向い側の病棟と、上の方に少しだけ見える灰色の空と、教室兼病室だけが、僕の見える世界の全てで、ベッドの上だけが生活範囲という、そんな閉塞感の中での生活ももうじき1年になろうとしていた。

「そろそろ歩いてみようか。」医師があまりに唐突にサラッと言うものだから、「エッ、エッ、ホントですか?」、「歩いていいんですか?」とビックリした。
「どんどん歩いていいよ。ただ順序があるから、看護婦さんの指示に従ってね。」と医師。
この瞬間をどれだけ待っていたか、このために一年間の寝たきりの生活にも耐えてきたのです。

すぐにでもベッドを離れたくて、看護婦さんに頼んで、まずはベッドに寝たまま横向きになる練習から開始。
ところが、ギプスごと横向きにさせられたとたん、天井が、部屋がぐるぐる回りだして、いわゆる回転性めまいが襲ってきて、「ダメ、ダメ、ダメだ~。」。
なにしろ1年間天井を見たままの姿勢で寝ていたのだから、三半規管の機能も狂っているし、視覚や体性感覚との同調も巧くできないようで・・・こりゃ、大変なことになってしまった。

3~4日横向き練習をして、これをクリアしてから、今度はベッドの上に胡坐をかいて座る練習開始。
看護婦さんに背中を支えられて座る姿勢を取って、看護婦さんが手を離したとたん、「なんだ、なんだ、この頭の重さは!」、「誰か背中を引っ張ってるの~!?」という感じで、後ろにバタンと倒れてしまう。
単に座ることさえも出来ないとは・・・なんで~!!!???。
思えば腹筋も背筋も何もかもヘナヘナの身体になっているわけで、座位に必要な筋力が全くなくなっていたのでした。
自分の意思で思うように身体が動かせない不思議な感覚、感じたことのない、耐えられない程の自分の体の重さ、というものを始めて経験した。

その数日後、ベッドの上で座れるようになってからあらためて自分の身体を調べてみたら・・・。
身体全体がポニョポニョ、ふにゃふにゃ。
上肢は日常生活で使っていたし、バーベルを使って多少は筋トレしていたので気が付かなかったがその他の各部の筋肉は、いわゆる退行性萎縮状態・・・つまり、使わなければ衰えるということ。
胸は、胸郭が前後から押しつぶされたようにペッタンコ。
かかとは普通は厚い角質層が今は手のひら並みに薄くなって、まるで赤ちゃんの足のよう。
こりゃ全く厄介なことになったもんだ。

身体はフラフラするが、とにかく歩こうと言うことで、まずはベッドにつかまって立つ練習からスタート。
「かかと、痛~い。」、「足首、痛~い。」、「膝、痛~い。」に耐えての血のにじむような・・・実際、かかとや膝は内出血したのだが・・・歩行訓練は主にベランダで、朝から晩まで行って、痛みはあるけれども、寝たきりの生活に較べれば、何もかもが爽快で、歩行距離と体力は日に日に回復していったのだった。


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