この物語は谷崎潤一郎の「細雪」が下敷きになっている。古びた洋館に暮らす4人の女たちにゆるやかに流れる日々をペーソスとユーモアでつづる小説。ときおりくすっと笑わせるフレーズもありすいすいと読み終えた。登場人物は若い日に不甲斐ない入り婿を追い出した母親と刺繍作家のその娘の家にひょんなことから20代と40前の女二人が同居する。それぞれの個性がすぐにつかめて毎日楽しくゆるやかな連帯感で結ばれた生活を展開する。このひろい洋館には昔から住みついている門番のような爺が今もひっそりと暮らし、遠くからこの住人達を見守っている。骨董好きな入り婿ははじめてのわが娘(刺繍作家)の誕生日に河童のミイラを買ってくるという変わり者だったが、最後にはこのミイラに父親の(死亡)魂が乗り移って娘の危機を救う場面はミステリアスだ。4人の女たちの抱く孤独感をしずかにほぐす同居生活を描いているのだが、読後感はこんな生活ができたら最高だなんて思うことしきり。現実にはとうてい実現できそうにもないがね。久しぶりにほっこりした心の癒される小説にであった。
漫画「大家さんと僕」の大家さんが亡くなったと夕刊に出ていた。