吐露と旅する

きっと明日はいい天気♪

いつも優しい

2017-03-17 18:26:58 | 日記
私の勤め先の、サービス付き高齢者住宅に、2ヶ月ほど前から住み始めたMさん。
口数は少ない方ですが、気さくで穏やかな方です。

以前は、音楽関係のお仕事をされていたそうです。
身体を動かすのがお好きだそうで、プライベートでは、ご主人と山登りなどもされていたそうです。

ご主人を見送ってからは、すっかり元気が無くなってしまったらしく
なにもする気になれないとおっしゃっています。

私や、私と親しいお友だちは、うひゃっほー!とばかりに、好き放題するでしょうに。

今のMさんは、話し掛けても表情の変化が薄く、話す声もあまり抑揚がありません。
普段の会話も、こちらが聞いたことにMさんが短い言葉で答えるだけのやり取りになっています。

そんなMさんと、どんな会話をしたら少しでも楽しい気持ちになってもらえるのかと
先日の入浴介助では、Mさんが興味のありそうなことをいくつか質問して
Mさんが、どんなことを話してくれるのか聞いてみました。

Mさんのご主人はとてもおだやかで優しい人だったそうで
喧嘩をしたことなど一度もなかったそうです。
それどころか、Mさんは、ご主人が怒ったところを一度もないそうで、Mさんによると
「私が悪いことしても、全然怒らなかった」
そうです。

ここで、私は思わず突っ込んでしまいました。

「ちょっと待ってください
『悪いこと』って、Mさん、いったいなにをしたんですか?」
「蹴飛ばしたの」

Mさんの背中を洗っていた私の手が、一瞬止まりました。

「えっ?」
「旦那を蹴飛ばしたの」
「Mさんがですか?」
「そうだよ」
「どうしてそんなことを?」
「蹴飛ばしてみたかったの」
「ご主人に何かされたんですか?」
「なにもしないよ」
「なにもしないのに蹴飛ばしたんですか?」
「寝てるとこを蹴飛ばしたら怒るかなと思って、試したの」
「それで、ご主人は怒らなかったんですか?」
「怒らなかったよ」
「本当に、怒らない方だったんですね」
「そう」
「優しい方だったんですね」
「優しかったよ」

本当に、私の質問に答えるだけの
時々は、私の言葉を繰り返すだけの
そんな。Mさんとの会話でした。

でも、ご主人のことを話すとき、Mさんの声はいつもよりほんの少し抑揚があり
微かですが、昔を懐かしむような表情をしていました。

仲の良いご夫婦だったんだろうな。
何十年も、仲良し。

大好きな人との時間や思い出は、いつも優しい。