吐露と旅する

きっと明日はいい天気♪

2羽のカラス

2013-02-12 22:48:15 | インポート
昨夜は、さっちゃんの甘えん坊攻撃に屈し、甘え倒されてしまいました。

普段は鬼のような私なのに、さっちゃんには甘いなぁと思いつつ
ついべたべたと甘やかしてしまいました。

さっちゃんは、ふわふわぽちゃぽちゃしていて、温かいので
抱き枕とゆたんぽも兼ね備えていて、冬場はとても便利なのです。

さて、今日は火曜日、ソフトエアロビの日なので
お仕事を終えてから一旦家に戻り、ジャージに着替えて体育館へ向かう途中
通り道に面しているアパートの玄関の方から、1人の女性に声を掛けられました。

「すみません」

声のする方を見ると、色白の若い女性が、雪掻きスコップを持って立っています。
しかも、雪をすくいあげる方を上にしていて、顔は真顔。
少しばかり、異様さが漂います。
突然、雪掻きスコップを振り回しながら襲いかかってくるのではないか思うほど
彼女の顔は、妙な緊張感をたたえていました。

「どちらへ行くんですか?」
彼女は、真顔のまま聞いてきました。

いよいよ妙です。

「駅の方ですけど」

私がそう答えると、彼女の真顔が、少しほっとした様に見えました。
でも、まだやや緊張気味。

「すみません、一緒に歩いてもらってもいいですか?」
「え?」

この状況の中、私の反応は、とても当たり前のものだったと思います。

「あの…」
彼女が言いました。
「カラスが…」
「え?」
「カラスが追いかけてくるんです」

私は、直ぐに事態を理解しました。
彼女の真顔の訳は、「怯え」だったのです。

「カラスが、顔のすれすれを飛んだり
 通り過ぎたかと思ったら、また戻って来るんです」
「狙われているみたいってことですか?」
「そうです、そんな感じです」
「だから雪掻きスコップを?」
「はい、2羽もいるものだから…
 よそのお宅のものなんですけど、これで追い払おうと思って」
「2羽?」
「はい…」

彼女は安心したのか、雪掻きスコップを元々あったと思われる場所に戻すと
少しずつ、私の方へ近付いてきました。
そこで私は、やっと気付いたのですが、彼女は赤ちゃんをおぶっていました。
カラスの悪ふざけに怯えるのも、当然のことでしょう。

「私が後ろを歩いた方がいいですかね」
私は、赤ちゃんを彼女と挟むような形で歩くことを提案しました。
「そうですね、すみません、お願いします」
私たちが歩き始めると、彼女小さな叫び声を挙げて立ち止まりました。
「いる!」
そう叫ぶと、彼女は私の後ろに隠れるようにしました。

前をみると、前方の自転車置き場に1羽、その向かいにある塀にも1羽
こちらを伺うような様子で、カラスがとまっていました。
もっとも、彼女の話を聞いた後だから、そう思えたのかもしれませんが。
私が少しずつ近付いて行っても、カラスは逃げるどころか動く気配ゼロ。
これでは、彼女はここを通れない。

「多分」、ですが。
「しっしっ!」なんて追いやろうものなら、逆にカラスたちを刺激してしまって
逆効果になってしまいそうな気がする。
ここはひとつ、話し合いってことで。
カラスに人間の言葉が通じるかどうかは分かりませんが
カラスが頭の良い動物というのが本当なら
「聞く耳」くらいは持ってくれるのではないかと思ったのです。

「どうしたの?」
私はカラスに話し掛けました。
2羽のカラスは、知らん顔。
「ここ、通してくれないかな」
やはり、知らん顔。
やっぱり人間の言葉じゃダメかぁ。

さて、どうしたものか。

私は、なんとなく、本当になんとなく
イヌやネコを呼び寄せるときに使う合図を口にしました。
「ツッツッツッ」
すると、カラスが2羽とも、私の方に顔を向けました。

  お?

もしかして、いけそう?

「ツッツッツッ」に、思いをこめてみる。
「ツッツッツッ(すみません、通してください)」

すると、驚いたことに、2羽のカラスは、ほぼ同時に飛び立つと
近くの家の屋根の上にとまり、私たちを見下ろしました。
私は、なんとなく、「大丈夫」だと思ったので
後ろに隠れている彼女に、「今ですよ」と、声を掛けました。
そして、彼女に前を歩かせ、赤ちゃんを挟むように歩きました。
カラスは、黙って私たちを見下ろしています(そういう風に見えます)

無事に危険地帯を通り抜け、私たちは駅の方へ並んで歩きました。
「なんだったんでしょう」
「子育て中なら気が立っているという可能性もあるけど
 いまはまだそんな時期じゃないですよね」
「そうですよね」
「帰りは別の道を通ったほうがいいですね」
「そうですね、そうします」

私はふいに可笑しくなって、くすっと笑いました。
「さっきの姿、頼もしかったですよ」
「あ、雪掻きスコップの…」
私たちは、カラス対策を考えながら、暫く一緒に歩きました。
そして「じゃ」と、笑顔で別れました。

私は、彼女がいつから近所に住んでいたのか知りません。
多分、何処かで擦れ違っていたかもしれません。
そうだったとしても、それは、ただの擦れ違った人。
2羽のカラスの悪ふざけのせいで、ちょっとしたご縁をゲットしちゃいました。