青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

神流の流れ、秋深し。

2022年11月24日 17時00分00秒 | バス

(奥多野線の最奥へ・しおじの湯行き@鬼石郵便局前)

旧・鬼石町の中心街を申し訳程度にブラブラしてから停留所に戻ると、ほどなくして後続の奥多野線バスがやって来た。「上野村・しおじの湯」行き。これが正真正銘、奥多野線の終点まで行くバスである。新町駅8:30発・しおじの湯11:23着なので、所要時間は2時間53分。流石に黙ってバスに3時間も揺られ続けるのもしんどいので、とりあえず区間便で鬼石まで来ておいて良かったという気もする。しおじの湯行きバスの先客は2人。私を加えた3人が終点へ向かうバスの乗客だったのですが、先客のうち1人は鬼石市街のバス停ですぐ下車してしまいました。

鬼石市街を出ると、バスは狭まる神流川の谷に沿いながら、徐々に坂道にかかってポンチョのエンジンが唸りを上げます。この先にある下久保ダムの堤体が見えて来ました。利根川水系の神流川最大のダムで、堤体の高さは約130m。この堤体の上へ出るために、国道は右へ左へカーブしながら高度を稼いでいきます。この辺りまで来ると、周辺の山々も紅葉が盛りへ向かっているようで、色付く木々が見えて来ます。乗客は自分ともう一人、明らかに乗りバスに来たという風体の若い兄ちゃんだけが残された車内、おそらく終点までご一緒するのかな、といった雰囲気。

下久保ダム。一応「神流湖」という名前が付いているらしい。朝は少し曇っていた神流川流域ですが、ここに来て薄日が差すようになって来ました。湖畔のイチョウの黄葉が美しい。ダム湖の水ってどうしてこんな感じで青く映るんでしょうね。一説によると、水の分子は赤い光の波長を吸収するので、特に水深が深いとより赤の波長が吸収され、結果的に青とか緑色系の色だけが残る・・・という事らしいのだが。

神流湖の秋景色。ドライブであればちょっと路肩にクルマを寄せて、カメラで少し撮り歩いてみたくなる湖畔の風景ですが、路線バスなので車窓から風景を眺めるのみ。フリーパスを購入しているとはいえ、一本落としたら一時間半くらいは待ち時間が出てしまうローカル路線ではなかなか下車はしにくいですね。湖畔の国道は湖の形に添ってくねくねと屈曲し、バスは岬の突端をトンネルでくぐりながら、さらに神流川の谷を往く。湖畔の美しい風景を愛でる訳にもいかない運転士氏は、アクセルワークとバスのハンドリングにも慎重さを求められる区間だろうなあ。

旧鬼石町から多野郡神流町に入ると、やがて車窓に湖は尽きて、神流川の流れがありのままの姿を取り戻します。そしてダム湖の人工的な風景とは打って変わって、いかにも日本らしい山里の風景が戻って来ました。神流町の大寄という集落。Google Mapで見ると、高台に見下ろすようにお寺さんがあって、おそらくそこの御神木であるらしい大イチョウが集落を見守っている。神流川を渡る赤い橋。小春日和の日差しの下、重々しい黒瓦屋根の家が立ち並ぶさまは、誠に正しい日本の秋景色を見る思い。

鬼石から走る事45分、バスは神流町の中心部である万場に到着。総走行時間3時間の長距離バス路線なので、ここで10分少々のトイレ休憩を挟みます。私を含めた車内の3名がバスを出て、トイレに行ったり腰を伸ばしたり。流石に朝から電車とバスに乗り続けてケツが痛い(笑)。バス停のベンチに腰掛けて缶コーヒーを飲みながら、日野ポンチョのボディを愛でる。この小さなバスが新町と上野村の70kmを毎日往復しているのだからエライものだ。座席数で言えば10人も乗ったら一杯になるような小さなバスなのだが、輸送量と燃費を考えるとこのくらいの小型車で運行するのが一番経済的なんだろうな。

鬼石と比べて、また少し山深くなった神流町は、里に比べると紅葉もだいぶ進んでいた。この辺りまで来ると、既に大手企業のチェーン店などの物流ルートからは外れているのか、未だに地元民が開く商店が街の生活を支えているようだ。バス停の前の個人経営の食料品店の軒先に、白菜と柿が積まれている。これから冬を迎えるに当たって、保存食である白菜漬けのシーズンなのだろう。最近、白菜なんか冬場でも1/4カットで買うのがせいぜいだが、そうそう、昔の八百屋は冬が近づくと、こうやってでっかい白菜を二つ並べて荒縄でくくったような豪快な売り方をしていたものだ。売り方一つでも郷愁を感じる事があるのだな、と心のウロコがポロリと落ちた。

そろそろ出発の時間である。ぼんやりしていたら置いて行かれてしまう。観光バスではない、当たり前だがれっきとした路線バス。添乗員さんがバスに戻らないヤツを呼びに来たり、発車前の点呼などはないのだ。休憩所から戻ってきた運転士氏が、短くひと言「発車します」と言ってドアを閉めた。再び、関東山地の山の中へ。神流川の谷をさらに奥へ詰めてゆくバスの旅が続きます。


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