青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

カルミンカラーの渋いヤツ。

2024年10月08日 17時00分00秒 | 西日本鉄道

(矢部川夕照@西鉄中島~江の浦間)

もうちょっと矢部川の話。西鉄随一の撮影地である矢部川の鉄橋で、5000形の急行が撮影したくてずーっと待ってたんだが、待っていればなかなか来ないもので、矢部川にその姿を現したのは大牟田行きの特急の4本目。サクサクッと捕まえて、さっさと大牟田で居酒屋に入って冷たいビールでも飲もうかと思ってたんだが、特急が30分に1本なので捕まえるのには結局2時間かかったことになる。5000形の特急なんていつでもどこでも見れるもんじゃないの?と思わせておいて、3000形とか6000形が結構混じるんだよね。ここまで来て撮れないで終われんだろう!と思って待ってたんだけど。しかしまあ、何が言いたいかって言うと昭和50年代の車両が現役バリバリで最優等列車にぶち込まれてるのホントいいですよね。

矢部川に茜差す頃。大牟田で折り返してきた西鉄福岡行きの特急5000形は、有明の夕陽をベタベタに浴びて飛んで来た。これで時刻が午後6時半なのだから、流石に西の国の夕暮れは遅い。チャームポイントのアイスグリーンもほんのり茜に染まって、轟音とともに110km/hのトップスピードで西鉄中島の駅を駆け抜けて行った。九州来たらさ、JR九州の「ソニック」とか「かもめ」とか「ゆふいんの森」とかさ、それこそ「ななつ星in九州」とか、そーいう被写体いっぱいあると思うんですけどね。それをガン無視して西鉄電車を追いかけ回しているの、我ながら私鉄贔屓が過ぎると思う。それもこれも、西鉄5000形がカッコいいから、仕方がないことです。

西鉄中島から普通電車で20分。大牟田の駅に到着し、これで西日本鉄道の全線を完乗。改札を抜けて駅前に出た頃にはとうに太陽は有明海の向こうに落ち、残照が空を赤く染めていました。大牟田は、江戸時代より日本有数の大型炭鉱として産炭を続けた三井三池炭鉱によって繁栄した街ですが、炭塵爆発やガス噴出などの多くの事故と労働争議、そして国家のエネルギー政策の転換により衰退。石炭産業に並行して発展した化学産業(石炭による硫酸アンモニウムの生成)を中心とした工業都市として発展しています。鉄道趣味的には、三井化学工業専用線ですかねえ。元々は大牟田・荒尾の両市に跨る炭鉱から掘り出された石炭を運ぶ運炭鉄道でしたが、炭鉱の閉山後は三井化学工業大牟田工場の専用線として、大牟田駅と工場の間を2020年まで、超年代物の電気機関車が毎日行き来していました。【参考:さよなら5両の「炭鉱電車」 三井化学大牟田工場、専用線廃止で「引退」】そうそう、大牟田の隣の荒尾市には荒尾競馬があったんで一回来たことがあるんだけど、その時って何で来たんだっけか。クルマだったのかなあ。もう覚えてないけど、有明海に面した開放感のある馬場と、本場場入場の際のやたら勇ましい「五木の子守唄」のメロディは印象に残っている。荒尾競馬に限らず、北部九州の公営ギャンブルというのは非常に充実していると思うのだが、それも産炭地らしい「オトコたちへの娯楽の提供」の一環だったのかもしれないね。福岡県だけでもJRAの小倉競馬、小倉・久留米の競輪に、福岡・若松・芦屋のボート、そして飯塚オートといわゆる「三競オート」が全部揃っている。まあ荒尾競馬は熊本県だったのだが、大牟田と同じ筑後都市圏で実質福岡みたいなもんでしたので。佐賀競馬だってあるのは佐賀市ではなく福岡に近い鳥栖だし、小倉も関門海峡渡れば下関競艇、山陽オートだもんなあ。

この日の泊まりは福岡市内の温泉旅館。夕食は付けていなかったので、西鉄完乗記念のささやかな宴を駅前の居酒屋兼食堂でおこなうことに。とりあえず冷たいビールを頼んでメニューを見ると、「リュウキュウスギのお刺身」というのがあったのでこれを定食にしてもらうことに。スギという魚は、名前は知っていたけど食べたことはないんだよね。ちなみに私は旅先で名前も知らない魚を食べることに無常の喜びを感じる人なので、なんか九州っぽいものが食べたいなあなんて思ってたこともあってこれはベストなチョイス。スギという魚はあまり関東では目にすることはありませんけど、その成長の速さが注目され、沖縄なんかでは養殖魚となっている魚。一部ではカンパチの代用魚として注目されていて、「クロカンパチ」「リュウキュウカンパチ」なんて名前で回転ずしのネタにされたこともあったらしい。図鑑で調べると、シュッとした形の非常にスマートな魚で、見た目がカッコいい。食べてみると、結構なコリコリ感があって身質は筋肉質ながら、カンパチの代用とされただけはある青魚っぽい脂の旨味があって美味しい。ビールのあてに追加で頼んだシイラのフライもタルタルソースがたっぷりで非常に美味しい。何の気なしで入った店の食べ物が美味しいと、それだけで旅の幸せは約束されたようなものだ。本当ならもう一杯お酒を頼んで、もう一品くらいおつまみを頼んで・・・なんてやりたかったけど、時間もありますのでね。ごちそうさまでした。

ほろ酔い気分で西鉄の大牟田駅のホームに戻れば、帰りの西鉄福岡天神行きの特急電車は5000形。アイスグリーンのクールなボディを横たえて、私の帰りを待っていました。蛍光灯に照らされて夜に輝くその色味もいいものだ。そう言えば、アイスグリーンとボンレッドの組み合わせ、昔よく駄菓子屋に売ってたお菓子で「カルミン」ってありましたけど、あのカラーリングですよね。明治のカルミン。何となくこの色に郷愁を感じるのは、そんな幼き日の駄菓子屋の思い出がフラッシュバックするから・・・んなこたーないか。宿のある西鉄大橋までの一時間、ウトウトしながら筑後の闇を、円筒案内式の台車に揺られるのでありました。

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