映画と本の『たんぽぽ館』

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判決 ふたつの希望

2018年09月27日 | 映画(は行)

敵対する立場ではあるけれど、抱える心の傷は同じ

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本作はレバノンが舞台。
ジアド・ドゥエイリ監督の実体験をもとにしているそうです。
さて、レバノン・・・。
恥ずかしながら私、中東の国々の内戦のことはおぼろげにわかっているという程度で、
本当はこの作品理解のために、多少の予備知識を入れておくべきであったと反省しました。
民族や宗教の違いで紛争が繰り返されている地域。
そこでここに二人の男性が登場します。
キリスト教系・レバノン人のトニー。自動車修理工。

ムスリム系・パレスチナ難民のヤーセル。住宅補修工事の現場監督。

この二人がふとしたことで口論になり、やがて裁判にまで発展してしまいます。
これはすでに個人対個人ではなく、
それぞれの立場、レバノン人対パレスチナ難民の対立の様相を表します。
そして、その裁判に飛びついたメディアの報によって、
やがて国中を不穏な空気が覆い始めるのです・・・。

二人にそこまでの憎しみの感情を駆り立てたのは、互いのタブーに触れる言葉。
つらい過去を耐え、ここまで生きてきて、過去はもう忘れたいと思っている。
それなのになお、心の底の深い部分をナイフでえぐり出されるような、残酷な言葉。
表面はなんとか取り繕いながら生きていてもなお、
人々は心の底に様々な内戦時の恐怖やや、差別や、悲しみの記憶を抱いているのです。
立場の違いに関わらず。



本作では、最後の判決が出る前に、すでにこの二人はそういう事に気づいていて、
言葉はかわさずとも、どこか共感めいたものを持つに至っていた、
と、そういうところがすごくいいなあと思いました。
人の心までは法では裁けない。
本当の解決はこういう方法でしかありえないのだと思います。
互いの弁護人が、親子ー父と娘であったというのもいいですよね。
敵同士という立場にありながら、
互いの弁論に聞き入って、敬意を表しているふうに見受けられるところがいい。
結局人と人の心をつなぐのは、やはりこうした真摯な態度なのでしょう。
暴力はなんの役にも立ちません。

<シアターキノにて>
「判決 ふたつの希望」
2017年/レバノン・フランス/113分
監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル・バシャ、リタ・ハーエク、クリスティーン・シュウェイリー、カミール・サラーメ

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆



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