映画と本の『たんぽぽ館』

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理想郷

2024年05月15日 | 映画(ら行)

さびれた村と移住者の軋轢

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「理想郷」という題名とは裏腹に、なんとも緊迫感に満ちたサスペンスとなっています。
スペインで実際に起きた事件を元に映画化したもの。

フランス人夫婦アントワーヌとオルガ。
スローライフを求めて、スペインの山岳地帯にある小さな村に移住してきます。

さびれたその村は、若い人は皆都会に出ていて、
残された者たちが貧困問題を抱えながら細々と暮らしています。
アントワーヌ夫妻の隣人の兄弟も同様の暮らし向き。
新参者の夫婦を嫌い、嫌がらせをエスカレートさせていきます。

そしてまた、村にとっては金銭的な利益となる風力発電のプロジェクトを巡り、
夫婦と村人の意見が対立。
隣人兄弟との軋轢はますます増大していき・・・。

片や自然豊かな地で有機野菜を作り、第二の人生を送ろうとするインテリ夫婦。
そしてもう片や、イヤでもこの地に生を受けて生きていくほかなかった
独身の兄弟とその母親。
この家族にとっては、趣味のように野菜を作ろうとする
お気楽なこの夫婦に我慢がならなかったでしょう。
もう少し家が離れていればまだ良かったのだけれど、
隣同士というのがいかにもマズい。
互いの様子がイヤでも目に入ってしまいます。

そこへ持って、風力発電のプロジェクト。
プロジェクトを受け入れれば、補助金が入る。
そのことだけが「希望」の地元の人々。

対して、せっかくの景観が風力発電のプロペラで台無しになることを恐れる新参者の夫婦。
しかしこの夫婦も、古民家をリフォームしたり有機野菜を売り物にしたりという
新たな都会人向けの需要で、村を活性化できると考えてはいるのです。

どこまで行っても折り合いがつかない。
夫婦がプロジェクトを反対しているために話が進展しないので、
村人、特に隣人兄弟の憎しみは増大していきます。

舞台が日本でも十分通用する話。
世界中似たような状況があふれているのだなあ・・・。

さてさて、物語の後半は、この夫婦の妻が主体となっていきます。
地元フランスで暮らす娘がやって来て、こんな所はもう引揚げるべきだと主張。
ただ父の言いなりになってこんな所までついてきただけだったのでは?
と母を問い詰めます。
この母子の壮絶な激論がまた強烈な見所となっていました。

けれど彼女は夫のいいなりになってこの地に来たわけではない。
彼女自身の主体性を見せるところがまた、本作を骨太のものにしています。

なかなかの力作でした。

<WOWOW視聴にて>

「理想郷」

2022年/スペイン・フランス/138分

監督:ロドリゴ・ソゴロイェン

脚本:ロドリゴ・ソゴロイェン、イサベル・ペーニャ

出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン

 

ヒリヒリ度★★★★★

満足度★★★★☆