出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

既得権

2007年07月17日 | 出版の雑談
関西のある出版社の社長から、営業に連れてってくれるというありがたいお言葉をいただき、大阪に行ってきた。私としては、その方の営業にくっついて回って勉強しよう…というくらいの軽い気持ちで行った。が、書店でうちの本のジャンルの店員さんに声をかけてくださったりして、私のことで1日使わせてしまった。感謝。

その方の営業トークは素晴らしく、気乗りしてなさそうな店員さんにもスラスラと本を紹介し、売れ行きを尋ね、注文を取り、今後のことを話し合い・・・。また関西弁というのは「非常に親密に話している」っぽくて、まったく圧倒されっぱなしだった。

100万年たっても私が同じようにできるとは思えない。なので、「これをきっかけに営業の鬼になる!」なんてことはなくて、逆に「営業が弱くてもどうにかする」方法を考え直すというところで落ち着いた。

で、関西の出版社が集まる会にも連れてってもらったんだが、そこですごいことを聞いた。巷では知られたことかもしれないが、知らなかった私はビックリしてしまった。

関西の出版社は、返品手数料だけでなく返品送料を払っているということ。おそらく、関西以外の地方の出版社もそうじゃなかろうか。

計算書に同封されてくる請求書には、「返品運賃」と書かれている。運賃が何を指すのか考えたことはない。返本おじさんが持ってきてくれて、すべて完了する。うちの場合、1冊10円しない。本の価格を考えれば痛い出費だが、売れなかったこっちが悪いのであって、払うべき手数料と納得できる。

が、返品送料と彼らが言うのは、こちらで言う「返品運賃」とは別のものらしい。例えば、「よくわからない社長が、1冊の返品に送料を払っていて大赤字になった」なんてこともあるという。つまり、取次に払う返品手数料以外に、運送屋に着払いの送料を払っていたのである。ちなみに普通は「まとめて返してくれ」と交渉するらしい。

前の記事で「取次のトラックを高速で見かけない」と書いて、「実は走っている」というコメントをいただいてそうかとわかったんだが、今回の出張で地方にも取次のデポがあることを知った。東京に納品するわけじゃないらしい。(が、関西に限ったことかもしれない)

デポがあるなら、東京の返本おじさんみたいな人がいないのかと疑問に思うが、そうじゃなくて運送屋が持ってくるという。

恵まれているというのはわかった。

が、話はその先のことである。

よく出版の本や業界人の書いたものを読んでいると、「大手や老舗の既得権」について批判的に書かれている。

私としては、これまで努力をしてきて勝ち取った「よりよい条件」は当たり前と思う。が、「成績という意味では足を引っ張っているような出版社も、古いというだけで条件がよくなっている」とか、「その条件が、いつまでたっても変わらない」とか、「大手に払う金をどこそこに回したら、業界全体がもっとどうのこうの」とかの話には、なるほどと思う。

つまり、今までは自分のところを「条件がいちばん悪い出版社」だと思い込んでいたので、あまり既得権についていいも悪いも考えたことがなかったのだ。

しいて言えば、「最近の口座開設申込では掛け率がどうのこうの…」という話は耳にしていて、あら意外とOKじゃんなんて思ったりはしていた。

話は飛ぶが、その関西の出版社の社長に『日本でいちばん…』を読んで「よくあそこまで書けると思った」と言われたが、何がどう「あそこまで」なのかきくのを忘れた。私としては、口座取得の経緯を別にすれば、書いちゃいけないことを書いたつもりはない(エラそうなのはわかってるし、それで怖かったんだが…)。出版の本には掛け率の数字も出てくるが、こちらこそ守秘義務があるので書いちゃ(本を書いた人に話しちゃ)いけないことのような気がする。でも、掛け率の話は業界の集まりでよく聞く。

で、今回「返品送料を払っている」という関西の出版社の方々に会って、最初に頭に浮かんだのが、「うちは絶対払えないぞ」ということ。

採算的に払えないのもそうなんだが、「払えと言われたら取りに行こう」とか、「払えと言われたら、他の出版社と一緒に反対運動をしよう」とか考えてしまったのである。ついでに、「桶川の件も、絶対折れるのはやめよう」とか。。。

これって、「既得権にしがみついている」以外の何物でもない。いや、東京のうちよりあの関西の出版社の方々のほうが古いだろうから、古いほうがお得ってのとはちょっと違うかもしれない。けれども「既に得た権利」にこだわってるのは事実である。

さあ、どうしよう。いや、どうしようも何もなくて、今までだって既得権について文句を言ったことはないんだけど、立場が逆になると、しがみついてしまうではないか。

戦後のヤミ物資を手に入れることを潔しとせず餓死した人(誰だっけ、忘れてしまった)の話を思い出す。

生き残るには、既得権を潔しとしなければならない。

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (トロア)
2007-07-19 11:12:43
「既得権」というのは「権益」というニュアンスが強く、「既得権をふりかざす」とか「既得権にしがみつく」とたいていは悪い意味に使われます。
しかしよく考えると文書であろうと口頭であろうと約束した取り決めに基づいて実績を重ねてきた場合、それがルールであり取引慣習となります。もし一方がそれを強引に変えようとしてきたら、「既得権」で頑張るべきです。変更の理由が合理的であり納得できるものであれば、今までより部分的に(金融上とか作業が増えるとか)改悪の側面が含まれていても変更に応じるべきでしょう。
既成のルールには合理性が含まれていることが多いわけで、それを「既得権」というのはおかしいと思います。
返信する
トロアさん (タミオ)
2007-07-24 17:13:41
変更の理由が、「おっしゃることが本当なら納得できなくもない」くらいのことなのか、業界全体として「合理的」なことなのか、なかなか解かりづらいのです。所詮民間企業同士の契約ですから、ある程度の抵抗はしてしまうだろうな、と。今までは、あまりそんなことは考えなかったのですが。。。
返信する

コメントを投稿