出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

震災特需

2011年05月02日 | 出版の雑談
このブログの更新がほとんどない理由は、昨年の始めに書いたこちらのエントリをご覧下さい。

本日は、東日本大震災の影響について記録しておこうと思いまして。。。 ちなみに、不謹慎なタイトルとか言われそうで悩みましたが、わかりやすいのでこのままいきます。「お見舞い申し上げます」とかも今さらなので省略させてください。私なりにできることは商売とは別にちゃんとしてますので、ここでは「商売」の話を。

<3.11 Fri>

普段から備えているタイプなので、ほとんど被害なし。消しゴム作戦前の「適当に積んである返本」が20冊くらい崩れていたが、それ以外は倉庫も事務所もびくともせず。きちんと積んである「出荷用在庫」は、1ミリのズレもなし。

<3.12 Sat>

懇意にしてもらっている、ある版元の営業マン氏より電話。帰宅の苦労話の後、今こそ『非常本』を売れ!とのアドバイス。この本はそれまで、防災週間などのたびに動くが地震で!というほどではなかった。が、営業マン氏曰く「東京も怖い思いをした今回はイケる」とのことで、都内の書店さんの担当者名をいくつか教えてくれる。

<3.13 Sun>

教えてくれても営業にいくのが本当は苦手なんだが、勇気を出して都心(うちから近いとこ)の書店にチラシを持って営業に行く。まだ棚の整理中など大変そうで申し訳なく、チラシを渡してそそくさと帰ってくると、FAXにて即返信されていた。

<3.14 Mon>

近いからと前日の注文分を直納したら非常に喜んでいただけたので調べてみて、物流が止まっていることがわかった。他社の類似本も入ってこないんだと思って、本格的に動くことにする。よく言えば、「このテの本を必要としている読者に届けるために!」、ぶっちゃけて言うと「この隙に…」。あるオンライン書店の人からツィッターでメッセージが来たが、肝心の注文は取次で止まっている様子。

<3.15-17>

都内中心にFAXを送る。返ってきた注文分を直納する。ガソリン問題が発生したので、100冊近い量を抱え、かつ停電のタイミングを見ながら電車に乗る。どこでも大変喜んでいただけて、「今のうちに!」感が強くなる。

<3.18 Fri>

通常の搬入の旅の前に、オンライン書店向けにいかが?とビクビクしながら取次に電話してみる。電話の向こうでタタタッと端末を叩いている音が聞こえ、「確かに動いてますね。では…」と大量受注。納品後、倉庫から在庫補充して帰ると、例のツィッター経由の注文を取次から受注。エラい大量で、ビビる。

<3.21の週>

エラい大量と思った注文のケタを間違えていたことが発覚。とはいえ、私のビビリと発覚の連絡をくれた取次の人の態度からして、間違えたのはあちらの様子。動きがいいので、返品しないでしばらく在庫として抱えてくれることに決まってホッとする。大量の返本を避けるために、同じ帳合であればリアル書店からの注文もそこから出してもらうことにする。書店はともかく、社内の別の部署から注文が来たりして、あまりの「縦割り」にビックリする。

前の週に送ったFAXへの返信も途切れず、取次納品と直納と倉庫の往復の繰り返し。オンライン書店で類似本をチェックすると、品切れのものが増えている。「今のうちに!」感、ますます強くなる。が、ふと、他の本が一切動いていないことに気づく。

<3.28の週>

類似本の品切れが追い風になっているのか、創業以来の忙しさ。震災後すぐ直納した書店からも追加注文。

<4.4の週>

他社の類似本、だんだん「予約扱い」になってくる(重版決めたのであろう)。在庫が乏しくなってきたので、重版の検討を始める。知り合いに頼んでパブラインを見てもらったり、先輩の中で「いちばん悲観的に考える人」に電話して意見を聞いたり。この震災で法律改正があると想像できるので、できれば重版して在庫を抱えるより改訂版を出したい。が、法律ってのはすぐには決まらないもんだ。見積りを取るが、大量納品した分の返本が不安で、様子見。相変わらず、他の本は動かない。

<4.11の週>

重版の判断材料は「納品数の何割がまだ市場在庫になってるか」、「読者の興味が原発に行っちゃうんじゃないか」、「類似本が出来てきた」、「安い本なので、少部数重版しづらい」、「これを売らないと全社的売上が…」とかだが、その他に著者の忙しさがネック。本業で力を発揮してほしい、本は後でいい。考えている間も、オンライン書店向けの大量補充など。

<4.18の週>

物流的には通常に戻ってきた気がするが、他の本の動きが悪いのは同じ。

<4.25の週>

他の本、だいぶ戻ってきた。

ーーー

おそらく、イケイケ!タイプの版元なら重版したんだろうが、うちはやめた。売り逃しという観念もわかるのだが、相場で言う「未実現の得」みたいなことより「実損を抱えない」ことを取った。ちょうど決算期すぎで、在庫が多いのは構わなかったんだが、いつも以上に損得に敏感だったからかもしれない。

あと考えたのは、宣伝について。それは別のブログで書いたので、よろしければ読んでください。

それにしても、「急にみんなが興味を持つ」ことの凄さにビックリした。時事ネタをパッと本にできる出版社は、こうして商機を作っているのであろう。震災という意味では、他の本がピタッと止まったのが恐ろしかった。とはいえ、うちは止まってしまったが、急に売れまくった防災本(生活ジャンル)と一緒にランキング上位の常連だったのが料理本やアイドル本。他の版元は普通に商売続いてるんだ~と、感慨深かった。

2 コメント

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お金をかけずに本の宣伝をするのはどうすればいいのでせうか。 (積 緋露雪)
2011-07-30 00:16:04
旧仮名遣ひで失礼します。私は筆名、積 緋露雪で自腹を切って本を出版してゐるものですが、貧乏故の本の宣伝の仕方がありましたならお教へ願ひないでせうか。
よろしくお願ひいたします。
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Unknown (タミオ)
2011-08-16 17:40:37
出版社は、次の課題とする「意味ある失敗」になりますが、個人は難しいですよね。が、自身への反省こめて言いますが、(ある程度)売れる予測もつかずに本作ったって、売れないということです。

小予算故の本の宣伝方法はこちらが知りたいぐらいです。地道に知り合いに買ってもらうのが第一歩と思います。
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