現在、東京上野の国立西洋美術館において『ルーベンス展 バロックの誕生』が催されている。
イタリアの美術理論家のジョヴァンニ・ピエトロ・ベローリ(Giovanni Pietro Bellori)は
ルーベンスの躍動感を強調するやや粗い筆致を「絵筆の熱狂(The fury of his brush)」と
例えたのであるが、実際に鑑賞してみるとルーベンスの筆致は二種類あると思う。
それが一番はっきりわかるのは最後の「寓意と寓意的説話」のコーナーでルーベンスが
1616年から17年にかけて描いた「マルスとレア・シルヴィア(Mars and Rhea Silvia)」
というタイトルの大きさが違う同じ絵を見比べた時で、小さいカンバスは筆致が荒いのだが、
大きいカンバスには光沢があり丁寧に描かれているのである。
ここで問題となるのはルーベンスがどのような観点から筆致の使い分けをしているか
ということなのだが、カンバスの大きさによるものなのかと思って他の作品を見てみると
例えば、「ヘスぺリデスの園のヘラクレス(Hercules in the Garden of the Hesperides)」や
「『噂』に耳を傾けるデイアネイラ(Dejanira and the Rumour)」(共に1638年)は
大きなカンバスなのだが、筆致は荒く、結局ルーベンスが何をもって筆致を変えている
のか最後まで分からなかった。