MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲』

2018-11-24 00:56:09 | goo映画レビュー

原題:『Johnny English Strikes Again』
監督:デヴィッド・カー
脚本:ウィリアム・デイヴィス
撮影:フロリアン・ホーフマイスター
出演:ローワン・アトキンソン/ベン・ミラー/オルガ・キュリレンコ/エマ・トンプソン
2018年/イギリス・フランス・アメリカ

「繊細」なギャグ映画について

 例えば、主人公のジョニー・イングリッシュが昔からの相棒のアンガス・ボフを引き連れて敵方の船舶「ドット・コム(Dot Calm)」に侵入したものの、鉄の扉が閉まったために出られなくなった際に、イングリッシュは綿棒状の爆弾を鍵穴に忍ばせて、爆破させて表に出られたのはいいものの、爆音で耳がおかしくなったイングリッシュが大声をあげてボフに語りかけるというギャグや、G12の会合にイギリス、フランス、アメリカ、日本などに紛れてパキスタンや南アフリカの首相が出席しているというギャグなど、本作で使われるギャグはどれも地味なもので、前作『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』(オリヴァー・パーカー監督 2011年)が隠して持っていた「悪意」も感じられず、邦題のようにアナログが逆襲している感じもないのは、前作に比べて予算が削られたためなのだろうか?


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『デス・ウィッシュ』

2018-11-23 00:44:45 | goo映画レビュー

原題:『Death Wish』
監督:イーライ・ロス
脚本:ジョー・カーナハン
撮影:ローヒエ・ストファース
出演:ブルース・ウィリス/ヴィンセント・ドノフリオ/エリザベス・シュー/ディーン・ノリス
2018年/アメリカ

シカゴとテキサス州の文化の違いについて

 主人公で外科医のポール・カージーが殺された妻のルーシーの葬儀のために訪れたテキサス州の彼女の実家へ義父のベンが運転する車に乗っていたのであるが、突然、車を停めて降りるとベンはライフル銃を持って密猟者たちに発砲し、その後、ベンは瀕死の状態の鹿を撃って止めをさす様子を見て驚いている。
 ところが間もなくしてポールがたまたま手に入れた銃を持って女性が運転する車を乗っ取ろうとしていた2人の男の一人をベンが鹿を撃つようにして仕留めてしまい、イリノイ州シカゴに住んでいた男がテキサス州の男と同じ身振りを演じてしまうのであるが、今どき南北でこれほど文化の開きがあるとは思えないし、インテリと非インテリの構図だとしても、インテリがこのような安易な行動に走ってしまうのだろうかという疑問も生じる。このようなポールの「正当防衛」がアメリカ現代社会においてマジなのかアイロニーなのかは人によって評価が分かれるであろう。
 ポールの娘のジョーダンを演じたカミラ・モローネに華を感じる。
 ところでメインテーマとして使われているAC/DCの「バック・イン・ブラック」は「死者が戻って来る」と捉えるべきだと思う。以下、和訳してみる。

「Back In Black」AC/DC 日本語訳

真夜中に戻って来た俺は眠る
時間はかかったが戻ってこられて嬉しく思う
俺の首にまとわりついていた縄から
俺は解き放たれた
俺はただ空を見つめている
俺の気分はますます高揚する
あの霊柩車のことは忘れてくれ
俺が死ぬことなんかありはしないのだから
俺は猫のような目を持ちサバイバル能力を身につけた
俺は誰彼かまわず虐待し勝手きままに振る舞うんだ

俺が戻ってきたのだから
そう、俺は戻ってきた
俺は戻ってきた
そう、俺は戻ってきた
俺は戻ってきた
俺は喪服で戻ってきた
俺は喪服で戻って来たんだ

キャデラック(=霊柩車)の後部座席に乗って戻って来た
俺は最高の銃弾で俺自身がパワーパックなんだ
ギャングと一緒に暴れまくるんだ
もしも俺を絞首刑にしたいのならば
奴らは俺を捕まえなければならない
俺は正々堂々と戻って来て激しい非難を浴びせているのだから
別の容疑で俺を捕らえることもできないだろう
やりたい放題の今の俺を見てみろよ
おまえらは調子に乗って無理をしようとするな
ただ俺の目の前から消えてくれればいいんだ

俺が戻ってきたのだから
そう、俺は戻ってきた
俺は戻ってきた
そう、俺は戻ってきた
俺は戻ってきた
俺は喪服で戻ってきた
俺は喪服で戻って来たんだ

俺が戻ってきたのだから
そう、俺は戻ってきた
俺は戻ってきた
そう、俺は戻ってきた
俺は戻ってきた
俺は喪服で戻ってきた
俺は喪服で戻って来たんだ

AC/DC - Back In Black (Official Video)


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『ピッチ・パーフェクト ラストステージ』

2018-11-22 00:30:23 | goo映画レビュー

原題:『Pitch Perfect 3』
監督:トリッシュ・シー
脚本:ケイ・キャノン/マイク・ホワイト
撮影:マシュー・クラーク
出演:アナ・ケンドリック/レベル・ウィルソン/アンナ・キャンプ/ブリタニー・スノウ
2017年/アメリカ

最高の曲の最高の映画化について

 例えば、中島美嘉が歌った「雪の華」のようにヒット曲をモチーフに映画が制作されることがあるが、さしずめ本作はブリトニー・スピアーズの2004年のヒット曲である「トキシック」の映画化といったところであろう。アカペラグループ「ザ・ベラーズ(The Bellas )」のメンバーたちの起死回生を狙った再結成と世界ツアーと、『ダイ・ハード』ばりのアクションシーンも加えた映像は期待を裏切らないと思う。

Britney Spears - Toxic (Official Video)

  ところが不思議なことがあって主人公のベッカ・ミッチェルたちがラストで歌うジョージ・マイケルの「フリーダム!'90」の字幕和訳の主人公が「僕」になっているのである。女性が歌っているのに何故「僕」なのか、穿った見方をするならば秋元康の悪影響と言えなくもない。ここでは女性を主語にした和訳を試みてみたい。

「Freedom! ’90」 The Bellas 日本語訳

私はあなたをがっかりさせるつもりはないし
私はあなたを見捨てたりするつもりもない
周囲に惑わされないように信頼は保たなければいけない
それが私が持っている最良のもの
私があなたをがっかりさせることはないから
どうか私を見放さないで欲しい
だって私は本当にそばで待っていることが好きなのだから

私が普通の少女だったということは神様なら知っているはずだけれど
私が何になりたかったのかは知らなかったみたい
私は飢えた学校の男の子たちの自慢の女の子で
私にとってはそれで十分だったと思っている
このレースに勝利するためにはもっと可愛くならないとダメなの?
あなたのロックンロールテレビで
真新しい服を着て厚かましく場所を専有するけれど
今日、私のゲームのやり方はいつもと違っている
何てこと!

私は幸せを掴むつもりなの

あなたには知っておくべきことがあると思う
私はあなたにそう言うべき時が来たから
私の心の奥底に何かがある
私がなるべき他の誰かが
フレームがついたあなたの写真を取り戻す
雨の中で歌うあなたを取り戻す

あなたが理解してくれればいいと思う
身なりだけでは取り繕えない時がある

今私たちがしなければならないことは
どうにかしてそれらの嘘を真実に変えることだけ
私たちが知らなければならないことは
私たちがお互いに属さないこと
それは自由
私はあなたをがっかりさせるつもりはない
自由
私はあなたを見捨てたりするつもりもない
自由は周囲に惑わされないように信頼は保たなければいけない
(あなたは奪っただけのものを与えなければならない)
それが私が持っている最良のもの
自由
私があなたをがっかりさせることはないから
自由
だからどうか私を見放さないで欲しい
自由
だって私は本当にそばで待っていることが好きなのだから
(あなたは奪っただけのものを与えなければならない)

間違いなく私たちには面白い女の子たちがいる
私とあなたは何て元気なんでしょう
私たちにはツアー中の大物の愉快なバンドがいた

私たちは空想の中で生きていた
私たちはレースに勝って
この場所から飛び出した
家に帰った私はMTVに出ている少年たちのために
新しい相貌になった

でも今日、私はゲームをするいつものやり方を変えなければならない
今私は自分自身を幸せにするんだ

あなたには知らなければならないことがあると思う
私がそのショーを止めさせる時が来たんだ
私の心の奥底に何かがある
私が成ることを忘れている人物がいる
フレームがついたあなたの写真を取り戻す
私がまた戻って来ると思わないで欲しい

あなたが理解してくれればいいと思う
身なりだけでは取り繕えない時がある

今私たちがしなければならないことは
どうにかしてそれらの嘘を真実に変えることだけ
私たちが知らなければならないことは
私たちがお互いに属さないこと
それは自由

私はあなたをがっかりさせるつもりはない
自由
私があなたをがっかりさせることはないから
自由は周囲に惑わされないように信頼は保たなければいけない
(あなたは奪っただけのものを与えなければならない)
それが私が持っている最良のもの
自由
私があなたをがっかりさせることはないから
自由
だからどうか私を見放さないで欲しい
自由
だって私は本当にそばで待っていることが好きなのだから
(あなたは奪っただけのものを与えなければならない)

それは天国への道のように見えるけれど
地獄への道にようにも感じる
どちら側が私の人生に必要だったのか私が知った時
私は新たな写真を撮るためにポーズを取るように
ナイフを手にした
誰もが商売をしなければならないけれど
でもあなたがお尻を振るならば
誰もがすぐに目を向ける
いつまでも尾を引く間違いがあった
それはあなたが引き受けなければならない
それはあなたが引き受けなければならないのよ
あなたの考えを変えるために
結局、今回は
あなたが理解してくれればいいと思う
身なりだけでは取り繕えない時がある
私は自分の自由を離しはしないだろう
それはあなたが私から奪いたいものではないだろう
ただあるべきように
今面目を無くしても
私は生きていかなければならない

George Michael - Freedom! ’90 (Official Video)


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『華氏119』

2018-11-21 00:55:53 | goo映画レビュー

原題:『Fahrenheit 11/9』
監督:マイケル・ムーア
脚本:マイケル・ムーア
撮影:ジェイミー・ロイ/ルーク・ガイスビューラー
出演:マイケル・ムーア/ドナルド・トランプ
2018年/アメリカ

オバマ大統領の高尚なパフォーマンスについて

 マイケル・ムーアによるならば、ドナルド・トランプがアメリカ大統領選に出馬をするきっかけを作ったのは、歌手のグウェン・ステファニーより自分のNBCテレビ出演料が低いことを知ったかららしい。そこで自腹で人を雇ってトランプタワーのキャンペーンを行って自分の人気の高さをアピールしたものの、メキシコ系移民に対する差別発言を理由にトランプは契約を解除されてしまう。
 ところがトランプがアメリカ大統領選に共和党候補として出馬したことをテレビメディアが面白おかしく報道をし始め、特にNBCは今までのように報酬を払わずにトランプを出演させることができるということで、各社例えトランプが遅刻をしても主役がいない演説会場を映し出し続けていたのだが、この過度な報道がそもそも選挙資金がなかったトランプに逆に有利になってトランプ大統領という悪夢を現実のものにしてしまったというアイロニーは強烈すぎてもはや笑えないものである。
 もうひとつ印象的なシーンを挙げるならば、ミシガン州のフリント市の水道水汚染問題に対するオバマ大統領の「パフォーマンス」である。ミシガン州知事は共和党のリック・スナイダーであるが、2016年5月4日、フリント市を訪れたオバマ大統領はろ過した水道水は安全であるということをアピールするために飲んで見せるのであるが、オバマは唇を浸した程度で水を飲んでいないことをムーアは問題視する。しかしこれは微妙な問題で、オバマは2度も同じパフォーマンスを演じてみせ、確かに地元住民たちはがっかりしたであろうが、議会で不利な状態の民主党の大統領が州知事が所属する共和党に「貸し」を作ったというふうにも見えるし、同時に住民のために「この水を飲んではいけない」と暗にメッセージを送って見せたとも言える。あくまでもコンテクストを見るべきであろうが、この高尚な政治的パフォーマンスは理解しづらく、今回の中間選挙で民主党が伸び悩んだ理由を垣間見る瞬間だった。
 本作がヒットしていない理由はトランプ大統領のようにその場しのぎで敵味方をはっきりさせて攻撃できない立場に「保守」が置かれているという不利な現実があると思うのだが、これは対岸の火事ではない。2018年11月18日付毎日新聞「日曜くらぶ」の「松尾貴史のちょっと違和感」によるならば、「今、政府が水道の民営化に向かって動き始めているという。」「注目されたのは麻生太郎財務大臣の発言からだったが、何故あの人が水道事業の改変に熱心なのだろう。」「浜松市はすでに昨年、下水道部門の運営権をフランスの企業が代表する特別目的会社に売却した。」そのフランスの企業に麻生氏の娘婿が役員を務めているというきな臭い話があるからだ。


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『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』

2018-11-20 00:59:59 | goo映画レビュー

原題:『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』
監督:波多野貴文
脚本:吉田恵里香
撮影:小松高志
出演:波瑠/西島秀俊/岡山天音/深水元基/戸田昌宏/朝倉えりか/濱田マリ/橋本愛/柄本明
2018年/日本

「笑顔の魔法」のぎこちなさについて

 そんなに上手く事が運ぶのかと思うくらいにほのぼのとしたストーリー展開に文句を言うつもりはないのだが、主人公の小塚慶彦を演じた西島秀俊の演技が気になる。小塚が振る舞う「明るさ」がわざとらしく見えるからで、小塚はヒッチハイクを経て熊本県にある「グリーンランド」という遊園地にたどり着いてそのまま就職したようで、当然、小塚のわざとらしい「明るさ」の背後に隠れている暗そうな過去を掘り下げるのかと思いきや、小塚のみならず波瑠が演じた主人公の波平久瑠美やその他の登場人物の過去も語られないまま表面を取り繕うだけで物語は終わってしまい、そうなると小塚の「明るさ」のわざとらしさがコメディアンとしての西島の演技力の拙さのように見えてしまうのである。


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『あの頃、君を追いかけた』

2018-11-19 00:56:27 | goo映画レビュー

原題:『あの頃、君を追いかけた』
監督:長谷川康夫
脚本:飯田健三郎/谷間月栞
撮影:柴主高秀
出演:山田裕貴/齋藤飛鳥/松本穂香/佐久本宝/國島直希/中田圭祐/遊佐亮介
2018年日本

リメイクに相応しくないスーパーバイザーについて

 主人公の水島浩介の冒頭のモノローグを信じるならば、本作は「東京スカイツリーラインが着工された年」だから2008年ということになる。
 ところがその後2008年の日本が感じられる場面が少なく、校則が異常に厳しい水島たちが通っているような高校が存在しないことはないとしても、水島たちがいつまでも夏用の服装であることが不自然で、センター試験の時期も怪しい。地震のシーンに関しても、台湾版では「921大地震」を想起させリアリティーを持たせているのだが、本作の地震は夜7時過ぎに起こった架空の地震のためにリアルが欠けてしまっているのである。
 台湾映画のリメイクをする理由は、言うまでもなく設定を現代日本に移し替えることで日本人の観客により身近に感じてもらえるようにするためのはずなのだが、多くの点で台湾版の設定を踏襲してしまっているために違和感だけが残る。
 例えば、歌の歌詞ならば日本語を英語などの外国語に翻訳する際に、言葉を変えるだけで「設定」など気にする必要はないだろうが、物語はそういうわけにはいかないはずで、そういう意味ではスーパーバイザーとして秋元康は相応しくなかったのではないだろうか。個人的には齋藤飛鳥にアリストテレスを語らせるシーンは嫌いではないけれども。


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『あいあい傘』

2018-11-18 00:45:19 | goo映画レビュー

原題:『あいあい傘』
監督:宅間孝行
脚本:宅間孝行
撮影:鈴木雅也
出演:倉科カナ/市原隼人/入山杏奈/高橋メアリージュン/やべきょうすけ/立川談春/原田知世
2018年/日本

無理なオチで台無しになった作品について

 過去をモノトーンの細かいカット割りで、現在をカラーの長回しで描くところなど演出はかなり凝ったもので、欲張りすぎて多少のぎこちなさはあるものの、例えば、松岡玉枝の娘の麻衣子を演じた入山杏奈を軸とした2度の場面転換は素晴らしいのではないだろうか。
 しかし作品前半から炸裂するスベり気味のコテコテの関西のノリに個人的には付いていけずに困ったものだと思って観ていたのだが、主人公で横浜から亡くなったはずの父親の六郎を探しに来た高島さつきを演じた倉科カナがメインとなったあたりから関西色が薄まり、長回しでこそ実力が発揮されるその巧みな演技力で俄然面白くなる。
 ところがラストに驚嘆するシーンが挿入されている。死に場所を探していた六郎は傘をかざしてくれた玉枝と一緒に暮らすことになるのだが、何とそこに当時5歳だったさつきも雨の中父親の後を追ってきていたのである。六郎が娘に気がつかないまま玉枝と立ち去った後に、さつきは迷子になるのだが、その時助けてくれたのが市原隼人が演じていた若き雨宮清太郎だったというオチなのだが、どう考えても設定に無理があると思う。


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『日日是好日』

2018-11-17 22:57:51 | goo映画レビュー

原題:『日日是好日』
監督:大森立嗣
脚本:大森立嗣
撮影:槇憲治
出演:黒木華/樹木希林/多部未華子/郡山冬果/荒巻全紀/南一恵/鶴田真由/鶴見辰吾
2018年/日本

最良の演出と巧者たちの幸福な出会いについて

 主人公の典子が好きな映画としてフェデリコ・フェリーニ監督の『道』(1954年)を挙げているのだが、女子2人の日常の淡々とした風景描写は明らかにエリック・ロメールの「喜劇と格言劇」や「四季の物語」シリーズを意識した演出であろうし、最後で海辺で主人公の典子が亡くなった父親に遭遇する場面などはアンドレイ・タルコフスキーの作風を想起させる。
 いずれにしてもブルース・リーが唱えるような「考えるな、感じろ」という茶道の本質を理解する上で本作ほど良質なものが他にあるのだろうかと思わせるほど良くできていると思う。特に樹木希林の「最初から茶道の師範でした」感の醸し出し方は尋常ではない面白さがある。
 樹木希林が演じた武田先生は裏千家だったはずだが、エンドクレジットで表千家が協力していると表記されているのが興味深い。つまり別に派閥争いという意味で分裂しているのではないということであろう。
 端役でよく見る顔があると思ったら山下美月だった。


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『犬猿』

2018-11-16 00:30:18 | goo映画レビュー

原題:『犬猿』
監督:吉田恵輔
脚本:吉田恵輔
撮影:志田貴之
出演:窪田正孝/新井浩文/江上敬子/筧美和子/健太郎/竹内愛紗
2018年/日本

「利益」に左右される「兄弟想い」について

 幼い頃には仲が良かったにも関わらずそれぞれ性格が対照的であるが故に大人になった兄弟と姉妹がいがみ合うようになりながら、結局はお互いを認め合ったかと思ったら、最後に次の「ラウンド」が始まるという秀逸なブラックコメディ映画だと思う。
 印象的なシーンを挙げるならば、それぞれの年上の方が怪我をした際の年下の行動である。兄の金山卓司がかつて暴行した相手に襲われて重傷を負って家で倒れていたところに遭遇した弟の和成はすぐに救急車を呼ぼうとスマートフォンを手にするものの、それまでの兄の素行の悪さに辟易していた和成は思いとどまってしばらく外をさまよっていたのだが、また思い直して救急車を呼ぶ。一方、人生に絶望して自ら手首を切った姉の幾野由利亜が倒れていたところに遭遇した妹の真子はすぐに救急車を呼ぶのである。
 一見するならば真子の方が和成よりも兄弟想いのようなのだが、「生産性」のない卓司と小さい印刷会社ながらも社長である由利亜と比べるならば、それぞれの対応は理に適っているのではある。

 それにしても冒頭のシーンは秀逸なのだが、これは映画館で観るから成立するギャグでありDVDで観たのでは分からない類のものである。


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『ヒメアノ~ル』

2018-11-15 00:28:59 | goo映画レビュー

原題:『ヒメアノ~ル』
監督:吉田恵輔
脚本:吉田恵輔
撮影:志田貴之
出演:森田剛/濱田岳/佐津川愛美/ムロツヨシ/駒木根隆介/山田真歩/大竹まこと
2016年/日本

無力な「良い思い出」について

 上映開始後45分あたりで奥手な岡田と同僚の安藤と、カフェで働くユカのほのぼのとした三角関係から岡田とユカが付き合うようになり、ユカのストーカーで岡田の高校の同級生だった森田正一がそれをユカの部屋の外で確認した後に、唐突にタイトルクレジットが流れストーリーは森田の猟奇的な殺人ショーへと劇的に変化する。
 高校時代に自分をいじめていた河島を一緒にいじめられていた和草浩介と共に卒業時に復讐として殺戮して以来、父親の後を継いでホテルで働いている和草に金を無心しながらダラダラと生きていた森田はユカに目をつけており、ユカと付き合うようになった岡田を殺すために和草に電話をして一緒に殺そうともちかけたのであるが、それを知った和草の恋人の久美子が和草と共に森田を殺そうと企んだものの、逆に殺されてしまう。
 森田は歯止めが効かなくなり赤の他人の家に入り込んで夫婦を殺害し、食事を取り、訪ねてきた警官も殺して拳銃を奪い、ユカの隣人も射殺し、安藤も撃たれて重傷を負う。岡田の母親から岡田の住所を聞いてユカを襲うのであるが、そこへ岡田が戻って来て取っ組み合った2人はガラス窓を割って二階から落ちてしまう。
 森田は岡田を人質にとって車を奪って、逃走をはかるのであるが、道路の真ん中にいた犬を避けようとしたためにハンドルを切り損ない、2人の乗った車は電柱に激突してしまう。あれだけ平気で人を殺せる森田が何故犬を避けようとしたのか。それはかつて森田が飼っていた犬にそっくりだったからで、同時に森田はかつて岡田と一緒に自分の家でゲームをして遊んでいた頃を思い出す。それまで森田は岡田が河島に加担して自分をいじめていたことを忘れていたのである。それは森田にとって岡田が数少ない「良い思い出」のままにしておきたかったからに違いないのではあるが、「良い思い出」が森田の中に芽生えた要因は森田が右足を失い他人に危害を加えられなくなったからなのであり、決して「良い思い出」が森田の狂気を止めた訳ではないのである。


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