MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『華氏119』

2018-11-21 00:55:53 | goo映画レビュー

原題:『Fahrenheit 11/9』
監督:マイケル・ムーア
脚本:マイケル・ムーア
撮影:ジェイミー・ロイ/ルーク・ガイスビューラー
出演:マイケル・ムーア/ドナルド・トランプ
2018年/アメリカ

オバマ大統領の高尚なパフォーマンスについて

 マイケル・ムーアによるならば、ドナルド・トランプがアメリカ大統領選に出馬をするきっかけを作ったのは、歌手のグウェン・ステファニーより自分のNBCテレビ出演料が低いことを知ったかららしい。そこで自腹で人を雇ってトランプタワーのキャンペーンを行って自分の人気の高さをアピールしたものの、メキシコ系移民に対する差別発言を理由にトランプは契約を解除されてしまう。
 ところがトランプがアメリカ大統領選に共和党候補として出馬したことをテレビメディアが面白おかしく報道をし始め、特にNBCは今までのように報酬を払わずにトランプを出演させることができるということで、各社例えトランプが遅刻をしても主役がいない演説会場を映し出し続けていたのだが、この過度な報道がそもそも選挙資金がなかったトランプに逆に有利になってトランプ大統領という悪夢を現実のものにしてしまったというアイロニーは強烈すぎてもはや笑えないものである。
 もうひとつ印象的なシーンを挙げるならば、ミシガン州のフリント市の水道水汚染問題に対するオバマ大統領の「パフォーマンス」である。ミシガン州知事は共和党のリック・スナイダーであるが、2016年5月4日、フリント市を訪れたオバマ大統領はろ過した水道水は安全であるということをアピールするために飲んで見せるのであるが、オバマは唇を浸した程度で水を飲んでいないことをムーアは問題視する。しかしこれは微妙な問題で、オバマは2度も同じパフォーマンスを演じてみせ、確かに地元住民たちはがっかりしたであろうが、議会で不利な状態の民主党の大統領が州知事が所属する共和党に「貸し」を作ったというふうにも見えるし、同時に住民のために「この水を飲んではいけない」と暗にメッセージを送って見せたとも言える。あくまでもコンテクストを見るべきであろうが、この高尚な政治的パフォーマンスは理解しづらく、今回の中間選挙で民主党が伸び悩んだ理由を垣間見る瞬間だった。
 本作がヒットしていない理由はトランプ大統領のようにその場しのぎで敵味方をはっきりさせて攻撃できない立場に「保守」が置かれているという不利な現実があると思うのだが、これは対岸の火事ではない。2018年11月18日付毎日新聞「日曜くらぶ」の「松尾貴史のちょっと違和感」によるならば、「今、政府が水道の民営化に向かって動き始めているという。」「注目されたのは麻生太郎財務大臣の発言からだったが、何故あの人が水道事業の改変に熱心なのだろう。」「浜松市はすでに昨年、下水道部門の運営権をフランスの企業が代表する特別目的会社に売却した。」そのフランスの企業に麻生氏の娘婿が役員を務めているというきな臭い話があるからだ。


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