原題：『Empire of Light』
監督：サム・メンデス
脚本：サム・メンデス
撮影：ロジャー・ディーキンス
出演：オリビア・コールマン/マイケル・ウォード/トム・ブルック/ターニャ・ムーディ/トビー・ジョーンズ/コリン・ファース
２０２２年/イギリス・アメリカ
８０年代の英国を支える芸術について
監督は違うのだが、まるで『ベルファスト』（ケネス・ブラナー監督 ２０２１年）の続編のような感じの作品である。
『バビロン』（デイミアン・チャゼル監督 ２０２２年）が映画を制作する側が描かれたのに対して、本作は映画を上映する映画館側の物語で、１９８０年のイギリスを舞台としている。主人公のヒラリー・スモールは「エンパイア・シネマ」の当直のマネージャーを務めており、さらにT・S・エリオットの詩集『荒地』の冒頭が「４月」だと知っているほど文学に対する造詣が深い。ヒラリーは支配人のドナルド・エリスと親密な関係なのだがエリスは既婚者で、そのことに悩んでいるのだが、黒人の青年のスティーヴンが映画館で働くことになってヒラリーはスティーヴンに惹かれていく。
１９８０年はサッチャー政権の時代で新自由主義を掲げ、失業率が高い時期だった。そんな時に売れていたバンドはスーパートランプ（Supertramp）のアルバム『ブレックファスト・イン・アメリカ（Breakfast in America）』などだが、スティーヴンが好んで聴いていたのは白人黒人混成バンドのザ・スペシャルズ（The Specials）で、そのような観点で聞いたことがなかったので、なるほどと思った。
ヒラリーがラストで映写技師のノーマンにリクエストして観賞したのは『チャンス』（ハル・アシュビー監督 １９７９年）なのだが、これは邦題に問題があって（チャンスは主人公の名前だから問題とは言い切れないが）原題は「Being There」で「そこにいること」という意味で、監督が意図していたニュアンスが微妙にズレていると思う。
しかしどうしても納得しかねるシーンがあって、映画館の外で若者たちがデモ行進をしており、危険だということでスタッフたちが映画館のドアの鍵を閉めようとするのだが、その中にスティーヴンもいた。デモ行進は失業に対する抗議で、それは黒人に仕事を奪われているという理由もあり、実際に鍵を閉めているスティーヴンをドア越しから見つけた若者たちがドアの鍵を壊してなだれ込んできたのだから、あまりの危機感のなさにここのシーンには疑問が拭えない。
ジョニ・ミッチェルの「恋するラジオ」を和訳しておきたい。
「You Turn Me On I'm A Radio」 Joni Mitchell 日本語訳
もしも暗雲が垂れ込める中
あなたが車で街に向かっているのならば
ラジオの周波数を合わせてみて
あなたを確実に愛してくれる人は誰なの？
恋人よ、あなたが私に合わせる（私をその気にさせる）のよ
私はラジオで
私は地方局
私はちょっと田舎者で
原生林に咲いている私は
あなたになびいている
私は放送塔で
あなたに波動を送っている
そして私はここでこのシグナルを
あなたに送っている
あなたがこのシグナルをはっきりと鮮明に
受け取ってくれるように私は願っている
あなたがか弱い女性が好きではないことは分かっている
すぐに退屈してしまうからね
でもあなたの手口に精通している強い女性も
あなたは好きではない
いずれにしても不正な手口では不正なものしか得られないけれど
あなたが口笛を吹いて優しくて思いやりがある時
私が来ることはあなたには分かっている
でもあなたがとても疑い深くなって
私を上手に迎え入れられないのならば
私を消してくれればいい
誰が雑音を必要とするの？
頭痛がするだけでしょう？
あなたは熱分解してしまい
「バーニーで朝食を」から放送終了のお祈りまで
その日はずっと陰鬱なまま過ぎて行く
何て情けない顔をあなたはしなければならないの
私はもう一度あなたに言うつもりよ
もしもまだそこであなたが聴いているのならば
もしも暗雲が垂れ込める中
あなたが車で街に向かっているのならば
ラジオの周波数を合わせてみて
あなたを確実に愛してくれる人は誰なの？
もしもあなたがトランジスタラジオをつけたまま
ビーチで寝転んでいるのならば
周囲の蠅を追い払って
愛はまだ流れているから
もしもあなたが頭の中で「忘れよう」と思っていても
あなたの心がまだくすぶっているのならば
ラジオ局の私に電話をしてきて欲しい
電話によるリクエストはいつでも受け付けているから
Joni Mitchell - You Turn Me On I'm A Radio (Official Audio)
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