MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『はじまりへの旅』

2017-09-29 00:32:42 | goo映画レビュー

原題:『Captain Fantastic』
監督:マット・ロス
脚本:マット・ロス
撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ
出演:ヴィゴ・モーテンセン/ジョージ・マッケイ/フランク・ランジェラ/キャスリン・ハーン
2016年/アメリカ

現代のヒッピーとしての覚悟の甘さについて

 主人公のベン・キャッシュはワシントン州の森の奥で6人の子供と暮している。ノーム・チョムスキーを信奉するベンは資本主義やテクノロジーに背を向けて独自の教育方針で子供を育てている。古典とされる書籍を読ませ食用の鹿を狩りで捕らえ山間を走り回ることで体を鍛えさせている。ところが数ヵ月前に一緒に暮らしていた妻のレスリーが精神を病んで入院していたのであるが、自ら手首を切り自殺したことを知らされる。レスリーが埋葬されることになる彼女の地元のニューメキシコ州へキャッシュ一家はバスの旅をすることになる。
 原題の「キャプテン・ファンタスティック」とはベンを指し、おそらく「空想家の長」という揶揄した意味を持ったものだと思うが、どうもヒッピーとしての覚悟が甘いような気がする。レスリーは1974年4月23日生まれで2015年7月15日の41歳で亡くなっており、おそらくベンも同じくらいの年齢であろうが、キャッシュ家がどのように生活費を稼いでいるのかがよく分からない。ベンが一度銀行からお金を引き出しているシーンがあるから銀行口座はあるのだろうし、レスリーは元弁護士で実家が裕福だから援助を受けていた可能性もあるのだが、それでは反旗を翻した資本主義に頼ってしまっているいつまでも自立できない人間たちでしかないのである。
 ナイが太っている人たちに奇妙に眼差しを向けるシーンがある。それは贅沢な暮らしで食べ過ぎによる肥満を暗に批判するニュアンスがあったはずだが、今では肥満は栄養の偏りによる貧しさの象徴にもなっており、ここに偏見があるような気がする。要するに感覚が「アメリカンニューシネマ」時代のままで2015年に敢えてヒッピー生活を送ろうという覚悟がベンには感じられないのである。そりゃ失敗するだろうと思う。バッハしか聴かないのかと思ったら、ラストで急にガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N' Roses)の「スウィート・チャイルド・オブ・マイン(Sweet Child o' Mine)」を家族全員で歌うのも違和感が残る。

Guns N' Roses - Sweet Child O' Mine


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