MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

2017-05-28 01:44:47 | goo映画レビュー

原題:『Manchester by the Sea』
監督:ケネス・ローナガン
脚本:ケネス・ローナガン
撮影:ジョディ・リー・ライプス
出演:ケイシー・アフレック/カイル・チャンドラー/ルーカス・ヘッジズ/ミシェル・ウィリアムズ
2016年/アメリカ

お互いの「歯車」が嚙み合わないもどかしさについて

 2015年、主人公のリー・チャンドラーはアメリカのボストンで便利屋として働いている。有能ではあるが性格に難があり、たびたび客と揉め事を起こしてしまうのだが、それだけではなくバーで飲んでいる時も客の喧嘩を吹っかける有様である。
 何故このような性格になったのかは、やがて故郷のマサチューセッツ州の「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に住んでいる兄のジョーが持病の心臓病が原因で突然亡くなったことでリーが帰郷したあたりから徐々に明かされていく。
 ジョーには16歳になるパトリックという息子がおり妻のエリスと別れた後に一人で育てていたのであるが、遺言書にパトリックの養育をリーに託す旨が書かれており、それを知ったリーは酷く動揺する。リーは故郷で生活したくない深刻な理由があったのである。
 しかしそのことは敢えて伏せておこう。本作で肝心なことは、とにかくお互いの「歯車」が嚙み合わないところである。例えば、リーが車で高校まで行ってパトリックを迎えにいき、ジョーがいる病院に行くかどうか訊ねた際に、曖昧な返事をしたパトリックは病院に行かないものだと誤解したリーが車を動かそうとして車から降りようとしていたパトリックを危うく車で轢きそうになったり、リーの妻のランディが救急車で運ばれる際に、ストレッチャーの車輪がなかなか収まらず救急車が発車できないという細かな齟齬の連なりを観客は噛みしめなければならなくなるだろうが、それこそ「生き抜く」という本作のメッセージなのではないだろうか。だからラストで下手なりにもリーとパトリックがキャッチボールをする姿は明るい未来を予感させるのである。


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