(「返される眼差し(Reversed Gaze)」2008/2017)
現在、東京六本木にある森美術館では「N・S・ハルシャ展 : チャーミングな旅(N.S.Harsha :
Charming Journey)」が催されている。
1969年、南インドの古都マイスール生まれのハルシャはその出身地のためなのか人口の過密さ
を利用した作風が目立つのであるが、だからと言って個性が無い訳ではない。例えば、2009年に
制作された「罪なき市民を探せ(Spot an Innocent Civilian)」においてもキャンパスにアクリルで
多数の人物を描きこんでいる。
一見整然と並ぶ人物たちの中、画面右側に自爆している女性が描かれているのである。
これは1991年にインドの元首相であるラージーヴ・ガーンディー(Rajiv Ratna Gandhi)が
タミル人のテロ組織「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」の自爆テロから始まったテロの
連鎖を問うものである。
ハルシャの魅力は、このような観点と正反対の観点からも作品が描けるところにある。例えば、
2013年の「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ(Again Birth, Again Death)」という、
キャンパスにアクリルで地球を描いた作品がある。
しかしこの作品の全体を見渡すと、全長24メートルを超える巨大な一筆書きのような星の
連なりと化すのである。
このように生まれ故郷のマイスールと世界、個々の人間の営みと急成長で発展するインド国家、
つまりミクロとマクロが融合する絶妙なバランス感覚がハルシャの持ち味なのである。
(「タマシャ(Tamasha)」2013)