原題:『恋のつむじ風』
監督:鍛冶昇
脚本:才賀明
撮影:山崎善弘
出演:松原智恵子/梶芽衣子/長谷川照子/杉良太郎/丘みつ子/和田浩治/山本陽子
1969年/日本
忘れられがちの「伝説」について
松原智恵子の初主演作品として辛うじて知られているのかいないのか、DVD化していないらしい本作における私の興味はストーリーよりも、例えば、内田裕也とザ・フラワーズの演奏シーンや、いしだあゆみが「ブルー・ライト・ヨコハマ」をフルコーラス歌っていたりと出演しているミュージシャンの方が気になってしまう。
あるいは久万里由香が演じたマリ子が立ち読みしていた雑誌のページを破って持って行ってしまうのであるが、その記事は「音の風俗史」という見出しの「デイヴ・ディー・グループ(Dave Dee Group)」のメンバーが写っているものである。このミュージシャンを知っている人が今何人いるのか定かではないが、ザ・ジャガーズがカヴァーした「キサナドゥーの伝説(The Legend Of Xanadu)」のオリジナルを歌っていたバンドだと言えば思い出す人もいるだろう。
ここで本当の「キサナドゥーの伝説」を記しておきたい。オリビア・ニュートン=ジョンが1980年にヒットさせた「XANADU~ザナドゥ(Xanadu)」という曲がある。この「Xanadu」と「The Legend Of Xanadu」は同じ「ザナドゥ」なのであるが、何故か「キサナドゥー」と訳されている理由は「in Xanadu(ザナドゥの中で)」という歌詞を聞こえたままカタカナに変えてしまったからである。誰が訳したのかと思ったら何となかにし礼が日本語訳をしており、フランス語が分かるのに英語が分からなかったとは考えにくくどうしてこのように訳してしまったのかいまだによく分からない「伝説」なのである。
しかしさらに驚くべきシーンはマリ子と友人の会話である。雑誌の記事を読みながら彼女たちはヴァージンを失うのは17歳が一番多いと知り、マリ子が「ヴァージンは減ってるけれど、童貞は増えてるんでしょう?」と問いかけると友人は「男の子の場合は『特定銘柄』が何人もの女の子を奪ってるって訳さ」と答えるのである。本作は最近の作品ではなく1969年の作品であり、要するに最近「草食系男子」などと謳われているが、それは多くの若者が自身が「草食系」であることに恥ずかしさを感じなくなっただけであり、昔から基本的な傾向は変化しておらず、とかく私たちは風俗的事実を忘れがちなのである。