原題:『水俣一揆 - 一生を問う人々 -』
監督:土本典昭
撮影:大津幸四郎/高岩仁
1973年/日本
優秀な悪役
1973年3月20日、熊本地方裁判所が水俣病患者たちの訴えを初めて認め、チッソに慰謝料の支払いを命じる判決を出した後に、患者たちを会社に入れないように社内に取り付けられた鉄柵が取り払われ、チッソ本社で水俣病患者たちと会社側との間で生涯の医療と生活の補償を求めた直接交渉がくりひろげられる様子が映し出される。
本作がただの記録映像に留まらない、緊迫感のある「見せ物」となっている理由は、人生を賭けた水俣病患者たちの取り乱した様子とは裏腹の、あくまでも冷静さを装う当時のチッソの島田賢一社長(写真下)の、まるでロバート・ヴォーン、あるいはゲイリー・オールドマンばりの佇まいである。皮肉なことにこの‘優秀な悪役’の存在こそが、本作にいまだに観賞に耐えられるものとしての価値を付加しているのである。
ユージン・スミス(Eugene Smith)撮影