ケンのブログ

日々の雑感や日記

ガンジスの水

2017年10月08日 | 日記
一年ほど前、僕は自宅最寄り駅のすぐ近くにある
インドカレーのお店に足しげく通っていた。
そこでインドカレーの大盛りを食べていた。
独特のとろみのあるカレーでやっぱり本場のカレーは
違うなと思っていた。
インドカレーのマスターはお水を出してくれるとき
「この水はガンジス川の水です」といつも言っていた。
僕は「ガンジス川の水おいしい」と言っていた。
「でも、ガンジス川のことみんな汚いと言うんです」とマスターは
本当に悲しそうな顔をして言った。
「いやそんなことはないこのガンジス川の水はおいしい」と僕は言った。
「そういうふうにいってくれると嬉しいです」とマスターは言った。
それで、いつもマスターはガンジスの水ですと言って
お水を出してくれた。
僕はいつもおいしいと言っていた。
今年に入ってからインドカレーの店に行く機会は
2ヶ月に一回くらいになってしまった。
しかも、僕が行ったときはいつもマスターの補助の人か
アルバイトの方がお店の番をしていて
今年に入ってから一度もマスターと話をしたことがなかった。
今日、M神宮のお茶会に行ったあと少し時間に余裕があったので
久しぶりにインドカレーの店に行ったら今日はマスターがいた。
「マスターひさしぶりですね。今年に入ってから何度か
ここに来ているけど
お店でマスターに会うのはじめてです」と僕は言った。
「いつも留守しててごめんなさい」とマスターは言った。
「いや、いつもお店の前を通ったとき外からマスターの
顔見てるからいいですよ」と僕は言った。
「そういえばお店のまえに10月17日からインドツアーと
張り紙がしてあったけれどもうすぐですね」と僕は言った。
「いや、今年はインドツアー行かないんですよ」とマスターは言った。
「そうですか。じゃあ今年のインドツアーは別の人が引率
するんですね」と僕は言った。
「そうじゃなくて人が3人しか集まらなかったんです
ツアーは5人以上で行くんです。でも3人しか集まらなかった。
今の時期はインドはお正月で飛行機代が高いんです。
来年の3月にもう一度募集します
3月の方が飛行機代安いです」とマスターは言った。
「そうですね。飛行機代シーズンによって違いますね」と僕は言った。
「そうなんです」とマスターは言った。
「でもマスター久しぶりにお店で見たけど、やっぱり近くで
見るとマスター若いし男前ですね」と僕は言った。
本当にマスターは男前できれいな目をしている。
マスターはちょっと照れ臭そうに笑って
「今日、僕の誕生日です。37才になりました」と言った。
僕は素早く頭の中で計算して
「それはおめでとうございます。マスター1980年生まれですね」と言った。
「そうです」とマスターは言った。
「日本の年号で言うと昭和55年ですね」と僕は言った。
「そうです」とマスターは言った。
「今日もインドのお正月を教えてもらったし
去年は日本の戦争が終わった日とインドの独立の日が
同じ日と言うこともマスターに教えてもらった
それに0の発見がインドと言うこともね。
本当にインドの歴史はすごい」と僕は言った。
マスターはしばらく何も言わずレシートの束のチェックをしていた。
「これガンジスの水」とマスターはしばらく間をおいて言った。
「そう、ガンジスの水おいしいですね」と僕は言った。
「ガンジスの水」とまたマスターが言った。
「そう、ガンジスの水知ってますよ、去年マスターが
教えてくれた」と僕は言った。
「これ、ガンジスの水じゃない」とマスターは言った。
「ええ、僕はいつもガンジスの水と思って飲んでましたよ」と僕は言った。
「ガンジスの水、汚い」とマスターは言った。
「ガンジスの水、汚い。それはインターネットの画像を見て
僕も知ってますよ。だからこの水はガンジスの水が
岩にしみたりしてきれいになったものと思ってました」と僕は言った。
僕は本当に心の中でそう思っていた。
「そうじゃないです」とマスターは言った。
「ええ、じゃあこれ水道の水ですか」と僕は言った。
「そうです。ガンジスの水と言っていたのはジョークです」とマスターは言った。
「そうだったんですか。僕はずっとガンジスの水と信じて
飲んでましたよ」と僕は言った。
マスターはだまってにやけていた。
「まあ、ここの水道水は地下水でおいしいからいいですよ」と僕は言った。
「でもガンジスの水も下の方は汚いけど上の方はきれいです」とマスターは言った。
「ああ、上流と下流ね。それは上の方はきれいでしょう
川はどこもそうです」と僕は言った。
「でも、そういう上の水なんかをマスターがインドから
特別に仕入れてみんなに出していると僕は思ってましたよ」と僕は続けた。
本当にそう思っていた。
「いや、ガンジスの水はジョークでした」とマスターは言った。
「そうなんですね」と僕は言った。
インドのマスターにまでジョークでからかわれるなんて
どう解釈したらいいんだろうと僕は思った。