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【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「岬にて」乃南アサ

2018年10月04日 21時15分00秒 | 読書(小説/日本)


「岬にて」乃南アサ

乃南アサ・ベスト短編集、第2弾。
著者は心理描写に定評がある。
その中でも、特に女性の心理描写が際立つ短篇が選ばれている。
本書が編まれた時点で、著者は新潮社から10冊(74篇)の短篇を上梓されている。
他社(祥伝社、文春、講談社、文春)から5冊(30篇)ある。
つまり、新潮社からの出版がダントツに多いことが分かる。

泥眼について
P265
嫉妬や怒りの情念が、あまりに膨らみすぎたために、まさに正気を失おうとしている瞬間の女の顔、理性が感情によって吹き消されようとする表情、それが泥眼だった。この顔が、もっと執念深くなり、理性をかなぐり捨て、感情を昂ぶらせていくと、髪は乱れ、口は裂けて牙を剝き、角さえも生えてきて、生成、般若、蛇の面へと変わっていく。泥眼は、目には金泥を施すものの、女が執念の鬼、怨霊の化物となり果てる寸前の、最後の人間の表情といって良かった。

【感想】
過去の短編集に未収録の作品が、1編収録されている。
「最後の花束」でもそうだったけど、収録作品の中でも、レベルがかなり高い内容になっている。
「最後の花束」では、「くらわんか」、本書では、タイトル作品「岬にて」が、それに相当する。
また、短編集「行きつ戻りつ」から5篇収録されている。
どれも「旅」と絡めて描かれている内容で、おもしろく感じた。

【ネット上の紹介】
かつての恋人の故郷でその不在を想うキャリア・ウーマン。寒い土地への転居を境に狂い出す「じゃぱゆきさん」。整形して若い男と結婚し、離別した娘を従妹として引き取ろうとする母。夫の子を産むと決めた女のもとを訪ねる妻。次々と夫が死ぬ魔性の女。彼女たちはさまざまに熟れていく。女性の心理描写が際立つ短編を精選し、単行本未収録作品を追加したベスト・オブ・ベスト第二弾。


「最後の花束」乃南アサ

2018年10月03日 20時45分39秒 | 読書(小説/日本)


「最後の花束」乃南アサ

乃南アサさんの短編集を読んだ。
短編集を読むのは初めて。
この短編集のテーマは若い女性の狂気。
なかなか良かった。
特に、「くらわんか」が良かった。
大阪の枚方が舞台。

P43
ベランダに出ても川の流れそのものは見えないが、その向こうに広がる町はよく見える。
「なかなかええ景色やんか」
「ねえ、あっちも大阪?」
(中略)
「あっちは高槻。この淀川をな、あっちに上がっていくと京都に行くんや、でもって、こっちに下ると、大阪市内な」

枚方には自転車で時たま行く。
私市に行くための交野線が、枚方市駅から出ているから。
枚方の描写も大阪弁の駆使も巧い。

【ネット上の紹介】
色恋をめぐる狂気は、その女たちを少しずつ蝕み、少しずつ壊していった…。ある女は大阪に引っ越してまで愛人を追いかけ、またある女は親友の婚約者を欲しがる。職人の夫の浮気を疑った妻は夫の作る提灯に火を仕込み、OLは見る間に垢抜けた同僚への嫉妬に狂う…。サスペンス・ミステリーの名手による短編を、単行本未収録作品を加えて精選したベスト・オブ・ベスト第一弾!


「しゃぼん玉」乃南アサ

2018年10月02日 20時25分40秒 | 読書(小説/日本)


「しゃぼん玉」乃南アサ

人生再生の物語。
犯罪を繰り返し、逃走をしてる主人公。
偶然、宮崎県の山深い村で、老婆と出会い、住みつくことに。
村での生活、人間関係を通して、自分を見つめ直すことに。

P241
本当の伊豆見翔人という奴は、もはや帰る家もなければ頼るべき家族も持ってはいない。仕事もない。通っている学校もない。何の肩書きもない。「あいつなら」と言ってくれるような友だちも親戚も、知り合いすらも、何一つとして持っていない、ただ漂うように生きているだけの、しゃぼん玉のような存在に過ぎなかった。

【ネット上の紹介】
女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返し、自暴自棄な逃避行を続けていた伊豆見翔人は、宮崎県の山深い村で、老婆と出会った。翔人を彼女の孫と勘違いした村人たちは、あれこれと世話を焼き、山仕事や祭りの準備にもかり出すようになった。卑劣な狂犬、翔人の自堕落で猛り狂った心を村人たちは優しく包み込むのだが…。涙なくしては読めない心理サスペンス感動の傑作。


「ジャパネスク・リスペクト! 氷室冴子『なんて素敵にジャパネスク』トリビュート集」松田志乃ぶ他

2018年09月30日 19時53分55秒 | 読書(小説/日本)


「ジャパネスク・リスペクト! 氷室冴子『なんて素敵にジャパネスク』トリビュート集」我鳥彩子/ 後白河安寿/岡本千紘/松田志乃ぶ/山内直実/後藤星

氷室冴子さんが亡くなられたのが2008年。(10年が経つのですね……)
本作品は、氷室冴子さんの名作「ジャパネスク」へのトリビュート作品。
即ち、集英社公認、禁断の二次創作集である。

P171
「瑠璃姫の?」
 由良姫はこくりとうなずいた。
「鴛鴦殿でお別れしたとき、瑠璃姉さまはね、由良に、こうおっしゃったの。『心の傷が癒えるまで、辛いだろうけど、頑張るのよ、由良姫。愚痴でもなんでも煌姫に吐きだして、支えてもらいなさいね』って。『煌姫がそばにいると思えば、あたしも由良姫のこと、安心できるわ。なんだかんだで、煌姫は、頼りになる、信頼できる人なんだから』って」
「ま」
 たまには、瑠璃姫も、気のきいたことをいうではないの。
「『煌姫はド貧乏な暮らしのせいで、倫理観がぶっ壊れているし、人間性その他にはなはだ問題の多い守銭奴拝金主義者だけど、そのぶん、根性があって、頼りになるわよ。意外に裏表がないし、清々しいほど物質主義者だから、割り切ってつきあえば大丈夫だわ。姿かたちは花のようだけど、中身は踏まれるほどに強くなる麦のようなしぶとい人だから、余計な気遣いもいらないし、友人としてつきあうには、気軽な相手よ』……って」
「……」

【感想】
本作品で面白かったのは、松田志乃ぶさんの「ジャパネスク・ネオ!」。
そのためにだけでも、購入する値打ちがある。
改めて、氷室冴子さんの後継者は、松田志乃ぶさんと感じた。(+荻原規子さんも入れたい)

【蛇足】
読んでいて、だんだん煌姫が馨子と重なってくる。
さらに、由良姫が宮子に見えてくる。
ここは賛否両論分かれるかもしれない。
まぁ、両者のファンとしては、馨子と宮子のルーツは煌姫と由良姫、と。
それが分かったのが収穫、と。

【ネット上の紹介】
少女小説の名作『なんて素敵にジャパネスク』を愛する作家が夢の競演! 現代を舞台に、とある姉弟の大事件を描く『じゃぱねすく六区』、 幼い吉野君とのエピソード『み吉野に 春は来にけり』、 結婚から10年経った瑠璃姫・高彬夫妻の物語『女郎花の宮』、 由良姫を励ます煌姫の、名推理が冴え渡るミステリー(!?)など、 ジャパネスクファンが楽しめるトリビュート作品をこの1冊に! コミカライズを手掛けた山内直実のコミックエッセイ、1999年版のイラストを担当した後藤星が描く“名場面”も収録。


「火のみち」乃南アサ

2018年09月25日 20時05分10秒 | 読書(小説/日本)


「火のみち」乃南アサ

満州・奉天で終戦を迎えた一家。
昭和22年に引き揚げた時には、7人いた兄弟は4人になっていた。
長男は終戦直後の暴動で、三男は疫痢で、末っ子の邦子は引き揚げ船の中で息を引き取る。
父は満州で招集され戦死しているので、母・きよゑがいたが、帰国後、衰弱死。
残されたのは、次の4人。
19歳の長女・昭子。
次男・次郎は14歳。
9歳の満男は知能の発達に遅れがあった。
君子は6歳。

昭子は東京へ一人で行き、身を売って仕送りする。
次郎は乱暴者で短気、人を殺して刑務所へ。
満男は工場に働きにでて行方不明。
残された君子は施設へ。
この一家が戦後をどう生きたのか?
あらすじのように書いたが、ここまでが序章にすぎない。
P20から第一章、ここから物語が始まる。

P69
「養女、ですか」
 君子は目を丸くした。急に何を言い出すのかと思ったが、先生は、真剣そのものの表情で、はっきりと頷いた。
「あなたのことを思って言うの。これから先の、南部さんの人生を考えた場合にもね、それがいちばんなんじゃないかと思うのよ」

P207
 火のみちを読む。読んで、支配できれば、人間の勝ちだ。そして窯出しの瞬間は、その勝敗が分かるときだった。

【感想】
重厚な大河ドラマである。
読み終わって、疑問が残るのが2点。
昭子はどうなったのか?
八重子はどうなったのか?
昭子に関しては、「水曜日の凱歌」に引き継がれたのだと思う。
もしかして、八重子も、どこかで登場するのかも?


【ネット上の紹介】
妹を守るために人を殺した男。空洞が埋まらない心。欲したのは、古の焼物の「天空の色」。それは奇跡の美か、悪魔の色か。愛と憎悪。美と妄想。憧憬と執着。「許されざる領域」に踏み込んだ男の、凄絶な人生を描いた新たな代表作、ここに誕生!


「インジョーカー」深町秋生

2018年09月10日 20時39分47秒 | 読書(小説/日本)


「インジョーカー」深町秋生

今回のテーマは、外国順労働者の劣悪な労働条件問題。
警察内部の権力闘争と共に描かれる。

P298
「おれもカネを奪還するアイディアを練っている」
「どうする気だ」
 ファンが怪訝な顔をした。呂が右手に巻かれた包帯で口を拭う。
「そりゃ脅しと暴力だ。おれたちにそれ以外、なにがある」

【感想】
「アウトバーン」シリーズは、前作で一件落着。
でも、人気作品なので、続編が出たのでしょうね。
めでたいことだ。
本作もバイオレンス炸裂、深町節が楽しめる。
レギュラーのひとり・里美も登場。
出てくるだけで嬉しい。



【ネット上の紹介】
躊躇なく被疑者を殴り、同僚にカネを低利で貸し付けて飼いならし、暴力団や中国マ
フィアと手を結ぶ―。その美貌からは想像もつかない手法で数々の難事件を解決してきた警視庁上野署組織犯罪対策課の八神瑛子が、外国人技能実習生の犯罪に直面する。日本の企業で使い捨ての境遇を受けたベトナム人とネパール人が、暴力団から七千万円を奪ったのだ。だが、瑛子は夫を殺した犯人を突き止めて以来、刑事としての目的を見失っていた。そんな彼女に監察の手が伸びる。刑事生命が絶たれる危機。それでも瑛子は事件の闇を暴くことができるのか。「このまま、お前も堕ちていくのか?」


「ザ・ファブル」(15)南勝久

2018年09月08日 20時06分38秒 | 読書(小説/日本)


「ザ・ファブル」(15)南勝久

シリーズ15巻目、最新刊。
今回は特に山場がなく、地味な展開であった。
でも、この伏線箇所がないと、山場もないのでしかたない。

「ただいま!」
「あ――もうすぐできる。キムチ鍋だ――」
「助かる――あったまるねぇ~~!」

「はいクロちゃん前ゴメン――」
(この団らんの雰囲気がいい…本シリーズは飲食シーンが多いが、それが緩急をつけている)


「花だより みをつくし料理帖 特別巻 」高田郁

2018年09月05日 19時54分48秒 | 読書(小説/日本)


「花だより みをつくし料理帖 特別巻 」高田郁

シリーズ完結後の特別巻。
4篇収録されている。
花だより
涼風あり
秋燕
月の船を漕ぐ

①「花だより」は、つる家の旦那・種市、坂村堂、戯作者・清右衛門の3人が大坂に向かおうと旅に出る話。
②「涼風あり」は、御膳奉行の小野寺数馬と妻・乙緒との生活が描かれる。
③「秋燕」は、舞台が大坂に移動。大坂での野江の暮らしぶり。
④「月の船を漕ぐ」も大坂が舞台。源斉が病に倒れる。食欲がなくなり、澪もどう対処したものか途方に暮れる。夫婦の絆にも微妙に亀裂が…。

私は②が面白く感じた。
p148
「お前と俺は似ている。実に似ている」
 何を考え、どんな感情を抱こうと、周囲にそれと悟られぬよう振る舞う。他人に誤解されたとて一向に意に介さず、言葉を尽くして理解されようと思わない。似た者同士だから乙緒もそうなのだ、と決めてかかっていた。

著者あとがき【みをつくし瓦版】
続編の予定はあるか、との質問に対して
(前略)名残惜しいのは私も同じですが、この特別巻ののちは、皆さまのお心の中を、澪たちの住まいとさせてくださいませ。
(中略)
シリーズは完結しましたが、辛い時、悲しい時、試練の時に、澪たちがあなたの人生の伴走者となれますように。

【ネット上の紹介】
澪が大坂に戻ったのち、文政五年(一八二二年)春から翌年初午にかけての物語。 店主・種市とつる家の面々を廻る、表題作「花だより」。 澪のかつての想いびと、御膳奉行の小野寺数馬と一風変わった妻・乙緒との暮らしを綴った「涼風あり」。 あさひ太夫の名を捨て、生家の再建を果たしてのちの野江を描いた「秋(しゅう)燕(えん)」。 澪と源斉夫婦が危機を乗り越えて絆を深めていく「月の船を漕ぐ」。 シリーズ完結から四年、登場人物たちのその後の奮闘と幸せとを料理がつなぐ特別巻、満を持して登場です!


「ナオミとカナコ」奥田英朗

2018年09月02日 18時59分56秒 | 読書(小説/日本)


「ナオミとカナコ」奥田英朗

直美と加奈子は大学時代からの親友。
直美は老舗百貨店の外商部、加奈子は専業主婦。
直美は、加奈子が夫からDVを受けているのを知る。
二人は夫を殺す為の完全犯罪を計画するが…。

奥田英朗さんは巧い。
現在の日本作家の中でもトップクラスの筆力と思う。
これほどはらはらして読んだのは久しぶり。
知らず知らずの内に、二人を応援している。
逃げろ、逃げろ、と。
結末は読んでのお楽しみ。

直美がDVを知るシーン
P28
「お願い。教えてよ。何があったの」
 直美が肩を揺すると、それがスイッチだったかのように、加奈子が嗚咽を漏らした。
大粒の涙がスカートに落ちる。
 親友のただならぬ事態に激しく動揺した。

上海から来た李朱美さんと直美の会話
P129
 打ち明けついでに、仲のいい友人が夫から暴力被害を受けていて、悩んでいることを話した。
 このときは朱美が表情を険しくし、「殺しなさい」と言い放った。
「そんな男に生きている価値はないのことですね。殺されても文句は言えません」

【おまけ】
この李朱美の造形が生き生きとしてすばらしい。
ところで、読んでいて「いつか陽のあたる場所で」を思い出した。
これに登場する綾香がDVを受けて、ついにキレてしまい、夫を殺し服役、という過去の持ち主。
「いつか陽のあたる場所で」乃南アサ
「すれ違う背中を」乃南アサ
「いちばん長い夜に」乃南アサ

【ネット上の紹介】
望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美は、あるとき、親友の加奈子が夫・達郎から酷い暴力を受けていることを知った。その顔にドス黒い痣を見た直美は義憤に駆られ、達郎を排除する完全犯罪を夢想し始める。「いっそ、二人で殺そうか。あんたの旦那」。やがて計画は現実味を帯び、入念な準備とリハーサルの後、ついに決行の夜を迎えるが…。


「ヴァラエティ」奥田英朗

2018年08月26日 09時45分10秒 | 読書(小説/日本)


「ヴァラエティ」奥田英朗

短篇を中心に、対談、ショートショートも収録。
対談は、イッセー尾形氏、山田太一氏。

山田太一氏との対談
P212
奥田:何か起きたときに人はどう感じるか、どう行動するのか。それがつぶさに描かれるものを読んだり見たりする喜びが、もっとあってもいい。

あとがきより「夏のアルバム」について
P270
自分で言うのもなんですが、わたしの短篇では五指に入る出来だと思います。

【感想】
「ドライブ・イン・サマー」がスラップスティック。
70年代の筒井康隆氏を彷彿される出来。
「夏のアルバム」は小さな子どもが主人公。
子どもの視点で語られる。

【ネット上の紹介】
「奥田英朗はぜんぶ読んでる」という人にも、じつはまだ読んでいない作品がある!かも。単行本初収録の短篇をはじめ、現在入手困難となっているアンソロジーの短篇、唯一のショートショート、数少ない貴重な対談などを収録。コアなファンからちょっと気になった人まで、レアな奥田英朗を楽しめるスペシャル作品集!


「これは経費で落ちません」(4)青木祐子

2018年08月19日 19時39分20秒 | 読書(小説/日本)


「これは経費で落ちません」(4)青木祐子

シリーズ最新刊。
本作品が面白いのは、「こう言う奴、会社にいるよな」、ってキャラが多数登場すること。
オフィスあるある満載。
今回の特筆点は、経理部に新入社員(中途採用)美華が入ってくること。
なかなかクセのあるキャラだ。(面白い)

P28
美華は何を考えているのだ。言いたくても言わないほうがいい言葉というものはあるではないか。たとえ、みんなが考えていることであっても。
 入ったばかりの会社で、全方位にケンカを売ってどうするのだ。
 無理にフレンドリーになる必要はないが、信頼をなくしてはならない。嫌われるのは、親しくなりすぎるのと同じくらい始末が悪い。

P96
「ご意見承っておきます」
 沙名子は言った。
 いったい美華はどんな本を読んだのだ。経理部員が社内不倫の責任までとれるか。
 と言いたいところだが、今は生々しい義論はしたくない。

P226
「どうして決定的な失態をすると?」
「有本さんは頭が悪いからです。アンフェアです。あんなやり方が、社会に通じるわけがないです。彼女はどこかでつまずくはずです。そうじゃなきゃおかしい」
(中略)
 あちこちでつまずいているのは美華のほうではないか。マリナと美華、頭がいいのはどっちだ。正しければ勝つわけではないのなら、正しさに何の意味がある。

【ネット上の紹介】
経理部の新入社員・麻吹美華は、なんでも率直にものを言う。オブラートに包むということがない。おかげで波風立てずに会社員生活を送りたい沙名子は、気苦労が絶えない。私生活では太陽とつきあいはじめたものの、初めての恋愛にペースを乱され戸惑い気味。そんなときも、面倒事は遠慮などしてくれない。沙名子はよく知る社員同士の不倫現場を目撃してしまい…?


「ジョン万次郎」マーギー・プロイス

2018年08月17日 20時18分30秒 | 読書(小説/日本)
「ジョン万次郎」マーギー・プロイス

ジョン万次郎というと井伏鱒二さんの作品を思い出すが、こちらはアメリカ児童文学作家による作品。
私が井伏作品を読んだのはだいぶ前だけど、こちらの方が面白く感じた。
アメリカでの差別、クラスメートとの生き生きとした会話。
なかなか楽しめた。

P316
万次郎とホイットフィールド船長の子孫はふたりの友情を受け継ぎ、毎年、日本とアメリカで交互に開催される「日米草の根交流サミット」に参加している。

P326(あとがきより)
幕末から明治にかけて、日本に海外事情を伝え、開国を勧め、また英語教育に努め(教え子に福沢諭吉、大鳥圭介、津田真道、西周、後藤象二郎、岩崎弥太郎ら)、アメリカの科学技術の紹介などにも尽力する。

P329(あとがきより)
さて、万次郎については、いろんな人がいろんなことをいっているが、ほとんどの人が口をそろえていうのは、奇跡的といっていいほど運がよかったということだ。
 まずなにより、アメリカのよいところを集約したような船長に養子にしてもらったことだろう。ホイットフィールド船長は南北戦争前の人種差別の激しかったアメリカで、野蛮な国と思われていた日本の男の子を養子にし、心から愛し、十分な教育を受けさせた。

【ネット上の紹介】
鎖国をしていた江戸末期。漁に出たまま遭難し、捕鯨船に助けられてアメリカに渡ったジョン万次郎(中濱万次郎)。言葉や習慣も異なる地で、いじめや差別にくじけることなく、強く生き抜いていった秘訣は、何だったのだろう?のちに幕末日本を救うことになる少年のアメリカ青春時代を、史実をもとに瑞々しく綴った物語。「差別」や「多様性」を考えさせる本として、全米で注目された話題の書!アメリカの小中学校で教材として取り上げられた名作。優れた児童文学に贈られる、ニューベリー賞オナーを受賞!


「手のひらの音符」藤岡陽子

2018年08月10日 20時13分12秒 | 読書(小説/日本)


「手のひらの音符」藤岡陽子

デザイナーの水樹は、40歳半ばにしてリストラ対象となる。
勤めている会社が復職業界から撤退するから、と。
いったいどうしたものか?
そんなある日、世話になった恩師の入院の知らせが入る。
物語は、現在と過去をカットバックしながら進行する。
それにつれ、人物造形が深まり物語の奥行きが増してくる。
家族問題の様々な問題が描かれる。
発達障害、貧困、離婚、いじめ、ギャンブル依存と重いテーマ目白押し。
最後まで目を離せない展開だ。

P86
人と人との繋がりは、出逢いの一点はいつも明確なのに別れの一点はたいてい曖昧で、後から思えば伝えたいことはたくさんあったのに最後にどんな言葉を交わしたのか、思い出せない。

【おまけ】
京都が舞台なので親しみがもてる。
東向日と西向日の間に西国街道がある。
競輪場、向日神社もある。
そのあたりが舞台となっている。

【ネット上の紹介】
デザイナーの水樹は、自社が服飾業から撤退することを知らされる。45歳独身、何より愛してきた仕事なのに…。途方に暮れる水樹のもとに中高の同級生・憲吾から、恩師の入院を知らせる電話が。お見舞いへと帰省する最中、懐かしい記憶が甦る。幼馴染の三兄弟、とりわけ、思い合っていた信也のこと。“あの頃”が、水樹に新たな力を与えてくれる―。人生に迷うすべての人に贈る物語!


「水曜日の凱歌」乃南アサ

2018年08月08日 21時06分57秒 | 読書(小説/日本)


「水曜日の凱歌」乃南アサ

表紙を見て分かるように、戦後間もない頃が舞台。
昭和20年8月15日(水曜)から昭和21年4月3日(水曜)まで。
鈴子は14歳。
上の兄は死に、もうひとりの兄は出征して行方不明。
妹は東京大空襲ではぐれてしまい見つからない。
母と二人で生きていかねばならない。
いったいどうなるのか?

しかし母には意外な才能があった。
当時珍しく女学校を出ていて、英語が出来たのである。
進駐軍相手の特殊慰安施設で通訳として採用される。(つまりRAA)
鈴子は母とともに各地を転々とする。

進駐軍がやってくる…鈴子は安全の為、男の子の格好をさせられる
P204
「うちはね、今はおばさまと、この子の二人家族なの。戦争が終わってから、こっちに越してきて、やっと落ち着いてきたところ。ああ、それから、こういう格好をしてはいるけれど、本当はね、すうちゃんは鈴子ちゃんっていう名前。女の子なのよ」
 そのときの三人の顔といったらなかった。口をぽかんと開けて、あまりにも驚いた顔をしているから、鈴子の方が思わず笑い出しそうになったくらいだ。
「けれど、今は何かと物騒でしょう?これからアメリカ軍の兵隊さんたちもたくさんやってくるから、本人はものすごく嫌がったんだけど、おばさまがバリカンで、髪を刈ってしまったのね。だから、からかわないでやってね」

教育現場での教師同士の対立…当時「一億総懺悔」という言葉が流行った
P219
「生徒たちにまで、この戦争の責任をおわせようとなさるんですか?」
「それは――」
「こんな小さな子たちに、一体何の責任があると仰るんです」
「だから――」
「責任なら、きちんと負うべき人が他にいるんじゃありませんの。(後略)」

【感想】
これは、私の好みと言うか、ど真ん中。
ぜひ続編を書いて、大河作品にしてほしい。
ヒロインの鈴子もそうだけど、勝子ちゃんのその後も気になる。
ミドリさん、モトさんは、戦後をどう生きたのだろう?

【感想】2
「凍える牙」を読んだのが1997年頃と思う。
まさか、これほど進化を続けるとは思わなかった。
嬉しい驚きである。




【参考…特殊慰安施設協会・RAAの売春婦募集について】「昭和史 戦後篇」(半藤一利)より
P20
特殊慰安施設協会(RAA)がつくられ、すぐ「慰安婦募集」です。いいですか、終戦の3日後ですよ。
「営業に必要なる婦女子は、芸妓・公私娼妓・女給・酌婦・常習密売淫犯らを優先的に之を充足するものとす」
そういうプロの人たちを中心に集めたいということです。内務省の橋下政美警保局長が18日、各府県の長官(当時は県知事を長官と言いました)に、占領軍のためのサービスガールを集めたいと指示を与え、その命を受けた警察署長は八方手を尽くして、「国家のために売春を斡旋してくれ」と頼み回ったというんです。およそ売春を取り締まらなきゃいけない立場の警察が「売春をやってくれ」と頼み回ったなど日本ではじめてのケースだと思います。
(中略)
「池田さんの『いくら必要か』という質問に野本さんが『一億円ぐらい』と答えると、池田さんは『一億円で純潔が守れるなら安い』といわれた」これはあくまで「良家の子女」の純潔です。ちなみに池田さんというのは、当時の大蔵省主税局長でのちの首相、池田勇人です。(「昭和史 戦後篇」半藤一利

【ネット上の紹介】
昭和二十年八月十五日、男たちは戦争に敗れた。今度は女たちの戦が始まる! 敗戦国日本は、男を戦地に駆り出す代わりに、女たちを進駐軍に〈防波堤〉として差し出した――。十四歳の鈴子は、RAA(特殊慰安施設協会)の誕生に立ち会う運命となり、自分の母親を含む、さまざまな階層の女たちの変化と赤裸々な魂を見つめていく……。国家、女と男、アメリカ、自由、そして現在までを問う現代史秘譚刊行。


「 臨床真理」柚月裕子

2018年08月01日 22時05分50秒 | 読書(小説/日本)


「 臨床真理」柚月裕子

第7回『このミステリーがすごい!』大賞受賞。
ヒロインは臨床心理士・佐久間美帆。
自分の担当する患者の青年が「共感覚」の持ち主で、感情や言葉を色で認識するという。
彼は真実を語っているのか?
二人は、知的障害者施設で起こった少女の自殺の真相を追う。

失語症患者がパソコンをなかなか使わない理由のひとつに、漢字よりもひらがなのほうが判別しにくいということがある。漢字ならば文字を見ただけでイメージが頭のなかに浮かびやすいが、ひらがなは単純な作りの文字を、ひとつひとつ読んでいかないと意味がわからない。

【感想】
共感覚と言うと、「天空の犬」のシリーズ、南ア署山岳救助犬ハンドラーの夏実を思い出す。
(私の好みは、樋口明雄作品だけど)
また、病院を舞台にして精神科医、臨床心理士が登場する作品としては、「症例A」を思い出す。
(これも、私の好みは、多島斗志之作品だけど)
それでも、「 臨床真理」は、どちらよりも、先に発表されている。
そういう意味で、先鞭で価値がある、と思う。


【ネット上の紹介】
「新人作家とは思えぬ筆力」「醜悪なテーマを正統派のサスペンスに仕立て上げた腕前は見事」と、茶木則雄、吉野仁両氏がそろって大絶賛! 応募総数が過去最高を記録し、大激戦となった第7回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作がついに文庫化です。 新進気鋭の臨床心理士・佐久間美帆と、神から与えられたとも言われる「共感覚」を持つ青年・藤木司が、声の色で感情を読み取る力を使い、知的障害者施設で起こった少女の自殺の真相を追う!