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「水曜日の凱歌」乃南アサ

2018年08月08日 21時06分57秒 | 読書(小説/日本)


「水曜日の凱歌」乃南アサ

表紙を見て分かるように、戦後間もない頃が舞台。
昭和20年8月15日(水曜)から昭和21年4月3日(水曜)まで。
鈴子は14歳。
上の兄は死に、もうひとりの兄は出征して行方不明。
妹は東京大空襲ではぐれてしまい見つからない。
母と二人で生きていかねばならない。
いったいどうなるのか?

しかし母には意外な才能があった。
当時珍しく女学校を出ていて、英語が出来たのである。
進駐軍相手の特殊慰安施設で通訳として採用される。(つまりRAA)
鈴子は母とともに各地を転々とする。

進駐軍がやってくる…鈴子は安全の為、男の子の格好をさせられる
P204
「うちはね、今はおばさまと、この子の二人家族なの。戦争が終わってから、こっちに越してきて、やっと落ち着いてきたところ。ああ、それから、こういう格好をしてはいるけれど、本当はね、すうちゃんは鈴子ちゃんっていう名前。女の子なのよ」
 そのときの三人の顔といったらなかった。口をぽかんと開けて、あまりにも驚いた顔をしているから、鈴子の方が思わず笑い出しそうになったくらいだ。
「けれど、今は何かと物騒でしょう?これからアメリカ軍の兵隊さんたちもたくさんやってくるから、本人はものすごく嫌がったんだけど、おばさまがバリカンで、髪を刈ってしまったのね。だから、からかわないでやってね」

教育現場での教師同士の対立…当時「一億総懺悔」という言葉が流行った
P219
「生徒たちにまで、この戦争の責任をおわせようとなさるんですか?」
「それは――」
「こんな小さな子たちに、一体何の責任があると仰るんです」
「だから――」
「責任なら、きちんと負うべき人が他にいるんじゃありませんの。(後略)」

【感想】
これは、私の好みと言うか、ど真ん中。
ぜひ続編を書いて、大河作品にしてほしい。
ヒロインの鈴子もそうだけど、勝子ちゃんのその後も気になる。
ミドリさん、モトさんは、戦後をどう生きたのだろう?

【感想】2
「凍える牙」を読んだのが1997年頃と思う。
まさか、これほど進化を続けるとは思わなかった。
嬉しい驚きである。




【参考…特殊慰安施設協会・RAAの売春婦募集について】「昭和史 戦後篇」(半藤一利)より
P20
特殊慰安施設協会(RAA)がつくられ、すぐ「慰安婦募集」です。いいですか、終戦の3日後ですよ。
「営業に必要なる婦女子は、芸妓・公私娼妓・女給・酌婦・常習密売淫犯らを優先的に之を充足するものとす」
そういうプロの人たちを中心に集めたいということです。内務省の橋下政美警保局長が18日、各府県の長官(当時は県知事を長官と言いました)に、占領軍のためのサービスガールを集めたいと指示を与え、その命を受けた警察署長は八方手を尽くして、「国家のために売春を斡旋してくれ」と頼み回ったというんです。およそ売春を取り締まらなきゃいけない立場の警察が「売春をやってくれ」と頼み回ったなど日本ではじめてのケースだと思います。
(中略)
「池田さんの『いくら必要か』という質問に野本さんが『一億円ぐらい』と答えると、池田さんは『一億円で純潔が守れるなら安い』といわれた」これはあくまで「良家の子女」の純潔です。ちなみに池田さんというのは、当時の大蔵省主税局長でのちの首相、池田勇人です。(「昭和史 戦後篇」半藤一利

【ネット上の紹介】
昭和二十年八月十五日、男たちは戦争に敗れた。今度は女たちの戦が始まる! 敗戦国日本は、男を戦地に駆り出す代わりに、女たちを進駐軍に〈防波堤〉として差し出した――。十四歳の鈴子は、RAA(特殊慰安施設協会)の誕生に立ち会う運命となり、自分の母親を含む、さまざまな階層の女たちの変化と赤裸々な魂を見つめていく……。国家、女と男、アメリカ、自由、そして現在までを問う現代史秘譚刊行。

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