「コリアン世界の旅」野村進
大宅壮一ノンフィクション賞・講談社ノンフィクション賞ダブル受賞作品。
ずっと気になっていた作品。
今さら、と言われるかもしれないが、読んでよかった。
レベルが高く、面白かった。
次の3章からなる。
1 コリアンとは誰か
2 コリアン世界の旅
3 コリアン 終わりと始まり
第2章が特に面白い。
アメリカ、ベトナム、韓国での取材。
私は以前から、ロサンゼルス暴動で、なぜ韓国人商店街がターゲットになったのか?、と言う疑問を持っていた。
100%ではないが、回答を得られた。
1992ロサンゼルス暴動について、チェ・ソンホ氏の証言
P187
「ロドニー・キング事件の評決があったのが、1992年4月29日の2時半頃だったよね。そのニュースを、俺、知らなかったんだよ。そしたら、向かいの黒人のおじいちゃんが、『なんか大変なことになりそうだから、早く店を閉めたほうがいいよ』って言いにきてくれたんだ。(後略)」
ミドルマン・マイノリティとしてのコリアン
P192
移民としては後発組でも、教育程度や経済水準が高い彼らは、必然的に白人と黒人・ヒスパニックとのあいだに組み込まれることになった。
(中略)
ヨーロッパのユダヤ人や東南アジアの華人、東アフリカのインド人などが、しばしばこの範疇に属し、支配層と従属層との橋渡しや緩衝役を果たす反面、攻撃対象やスケープゴートにされやすい不安定な存在であることも指摘されてきた。
「謀略説」も根強くある
P197
いわく、ユダヤ資本の大手チェーン・ストアが、韓国人商店から顧客を奪い返すために仕組んだのだ。いわく、火付け役となって暴れた黒人ギャングたちは、白人からカネをもらっていた。
なぜアメリカに移民したのか?
P189-190
朝鮮戦争――、この日本では忘れられかけている戦争が朝鮮半島の人々にもたらした惨禍は、日本の敗戦直後の比ではなかった。家族も財産も生きる場所も失い、民族全体が難民化したと言っても過言ではない。アメリカは戦争の一方の当事者だったのだが、韓国人の目には食料や物資を惜しみなく与えてくれる“救世主”と映った。かつての支配者・日本とは、天と地ほども違うではないか、と。『美国(あめりか)幻想』がこのとき醸成され、韓国国民のあいだに広がっていく。
1992ロサンゼルス暴動以外でも、興味深い話が盛りだくさん。
済州島出身の韓国人の話
P311
「朝鮮の地域差別は、日本人にはちょっとわからないと思うくらいひどいんですよ。『陸地』でも慶尚道の人間は全羅道の人間を差別するけれど、それは『人間として』差別するんでね。慶尚道の人間も全羅道の人間も、済州島の人間を人間扱いしなかった。牛や豚の同類として差別したんです。済州島ではむかし人糞をえさにして豚を飼っていたから、僕らは『くそブタ』と呼ばれていたんですよ」
現在、日本にいるコリアンたちは、強制的に連れてこられたのか?
P321
次の二点を明記しておきたい。強制連行された朝鮮人のほとんどは、戦後まもなく日本政府の計画送還で帰国していること。在日一世の大半は、戦前から日本に住みつづけているか、戦後、密航で来たかのどちらかであるということ。
高史明の言葉
P373
旧ユーゴスラビアの民族紛争などを見ても、民族の熱い絆そのものが、導火線の役割を果たすようになってしまったというのである。
「血のつながりだけで人間の連帯を説いても、現代の世界に出口は見えないわけですよ。逆に、血のつながりが人間の存在そのものを脅かしかねないようになってきているのが、いま人類が直面している重い課題だと思います」
我々・・・というか私は、あまりに隣国について知識がなさ過ぎた。
大変勉強になった。
私が今まで読んだノンフィクション作品の中でも、屈指の面白さ、と思う。
【ネット上の作品】
日本に住む韓国・朝鮮系の人々が、なぜ日本人の目に「見えない」存在になってしまったのか。この謎に果敢に挑む著者の旅は、日本、アメリカ、ベトナム、韓国に広がり、再び日本に戻る。私たちのすぐ隣にある「コリアン世界」を真摯に描いた、大宅壮一ノンフィクション賞・講談社ノンフィクション賞ダブル受賞作品。
[目次]
1 コリアンとは誰か(“帰化”―歌手にしきのあきらの場合
焼肉はどこからきたか
日本人が知らない「民族教育」 ほか)
2 コリアン世界の旅(世界で最も危険な街に生きる在米コリアン
サイゴンに帰ってきた韓国兵たち
韓国人ボクサー父と子の拳 ほか)
3 コリアン 終わりと始まり(金日成は生きている
大震災のあとで―神戸市長田区の人々
Jリーグのコリアンたち ほか)