「蟹工船」日本丸から、21世紀の小林多喜二への手紙。

小林多喜二を通じて、現代の反貧困と反戦の表象を考えるブログ。命日の2月20日前後には、秋田、小樽、中野、大阪などで集う。

国語教材となった小林多喜二

2010-06-24 23:54:37 | 多喜二研究の手引き

ふるさとの作家を学ぶ 

太宰、賢治…教科書以外で取り組み 秋田 青森 山形

2010年6月24日

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宮沢賢治の「虔十公園林」を解説する柏倉弘和准教授=山形県天童市の羽陽学園

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秋田県の高校教師らが作った「秋田―ふるさとの文学」。右のページでは「人権のため、ペンを武器に命がけで闘った秋田の人」と小林多喜二の生涯を紹介している

 太宰治、宮沢賢治、小林多喜二……。文学史に大きな足跡を残す東北ゆかりの作家を教科書以外でも取り上げる学校が目立つようになった。授業で生涯を学んだり、作品を鑑賞したりするほか、ゆかりの地を訪ね、地域活性化に生かそうとする例もある。職業意識の育成や読書離れへの対策にもつながっている。(江川慎太郎)

 ●高校で教材に

 秋田県にかかわりのある作家の作品をまとめた「秋田―ふるさとの文学」(無明舎出版)が今年度、県内のいくつかの高校の授業で使われ始める。明治から現代まで54人が登場。小林多喜二の「蟹工船」、石川達三の「蒼氓(そうぼう)」、高井有一の「北の河」といった作品を生涯とともに紹介している。

 高校教師らでつくる県高校教育研究会国語部会が教材にしてもらおうと編集した。部会長で、県立大館国際情報学院中学校・高校の三浦基校長は「生徒にふるさとの心を伝えていきたい」と話す。

 同学院高校の吉原彩教諭は「蟹工船」を授業で取り上げる。多喜二を「弱い人、貧しい人を救いたいと、言葉の力を信じて命がけで闘った人」と受け止めており、「生徒たちもやがて社会に出る。自分とかかわる点が出てくるだろう。そういう視点で『蟹工船』を読んで欲しい」と力を込めた。

 秋田高専で日本文学を教えている工藤一紘・非常勤講師は、「蟹工船」の読書感想文の執筆を生徒たちに呼びかけたことがある。生徒たちは社会の矛盾への怒りなどを素直に書いていた。「地元の目から見ることで得られる発見が必ずある。秋田に生まれた人間の感性で作品をとらえ、風土とのかかわりを掘り下げていって欲しい」

 宮城県では約30年前、教員らが冊子を作成。その後、大きな改訂を重ね、現行の副読本「高校生のための みやぎの文学」が編集された。井上ひさしの「青葉繁(しげ)れる」や北杜夫の「どくとるマンボウ青春期」などを紹介している。学校現場からは「生徒と文学作品との距離を縮めるのに役に立っている」との感想が聞かれる。

 ●ゆかりの地訪問

 太宰治の生家「斜陽館」がある青森県五所川原市(旧金木町)の県立金木高校は、「太宰治学習会」の授業を続けている。太宰ゆかりの地を訪ね、太宰を通して地域の歴史や文化を学ぶ。

 授業は毎年秋、総合学習の時間を使って1年生を対象に開く。生徒たちには、夏休み期間中に小説「津軽」や「斜陽」を読んでおくように伝えておく。

 去年は10月にあり、約70人が参加。斜陽館見学の後、中泊町小泊の「小説『津軽』の像記念館」で学習した。生徒たちは、太宰の子守を務めたタケと太宰との深いつながりに心を動かされていた。

 2年前の授業で訪れた3年生の田中可南子さん(18)は「授業がきっかけで太宰を好きになった。読み込むほど深い味わいが感じられる。太宰の生まれ故郷で学べることを誇りに思う」と話した。

 生徒たちはさらに、太宰ゆかりの場所をとっかかりに北津軽地域の観光を調査・研究し、地域活性化を目指す活動にも取り組んでいる。観光客に聞き取りをしながら観光マップを作ったり、新商品の開発を提案したりするものだ。

 石戸谷繁校長は「生徒たちには、地域とともに生きていく、地域作りに自分たちも積極的に参加していくという姿勢が生まれた」と話している。

 ●短大でも授業

 山形県天童市の羽陽学園短期大学では、柏倉弘和准教授(国語教育)が一般教養の授業で岩手県花巻市生まれの宮沢賢治を取り上げている。「東北の作家で教科書にも登場し、学生も親しみを感じている」との考えからだ。

 「よだかの星」や「どんぐりと山猫」のほか、柏倉准教授がとりわけ思い入れを強くしているのが「虔十公園林(けんじゅうこうえんりん)」だ。

 主人公の「虔十」という少年が馬鹿呼ばわりされながらも野原に杉の苗を植える。育った杉林は子どもたちの遊び場となり、虔十が若くして死んだ後も人々の安らぎの場であり続ける物語。登場人物の「まったくたれがかしこくたれがかしこくないかはわかりません」という発言が象徴的だ。

 柏倉准教授は学生たちに「お笑い番組を見て笑うことはあるけれど、虔十のように、風景の美しさを見てうれしくなり、笑う機会はありますか」などと問いかける。

 初めて読んだという学生も多く、「自分が幸せと感じることができれば、それが幸せなんだ。心から分かりました」「季節の変化や美しい風景に敏感な、虔十のような人間になりたい」という感想が寄せられている。もっと賢治の作品を読みたいとの声も届く。

 柏倉准教授が強調するのが、杉林で遊ぶ子どもたちが喜んでいる様子を見て虔十もうれしそうにしている場面だ。同短大は幼稚園教諭や保育士、介護福祉士を生み出している。柏倉准教授は「人の喜びを自分の喜びと感じている虔十の姿は、保育や介護の現場で働く人間の理想像だ」と考えている。

 ◆東京・江戸川区、読書科を導入へ

 授業に読書を本格的に取り入れる動きがある。東京都江戸川区教育委員会は、全国でも珍しい独自科目「読書科」を区立の全小中学校に導入する。

 今年度は学習指導要領に基づく教科とは別に、朝の時間を中心に年間千分程度の読書時間を確保。どんな本を取り上げるか、どんな授業の進め方になるか、課題を探りつつ、2012年度の創設を目指す。

 「感受性豊かな時期に多くの本を読んで、生きる力を養って欲しい」と区教委。読み聞かせや学校図書館の整理も実施、読書環境の充実を合わせて行う。

 難題は、教科となれば「成績評価」の対象となること。創設までの2年間で検証する方針だ。


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