新・臨床検査の光と影

人の命を測る臨床検査に光を!

医療崩壊「かわら版」(6)

2009-05-30 12:01:37 | 医師不足の深層探究

                    医療崩壊「かわら版」(6)Photo_2

 奇策に溺れる管理者

  医師を病院内で当直勤務につかせることは、医療法によって、病院管理者の義務になっています。

 ところが、この当直勤務は、患者の急変等に備えたもので、日勤中のような通常診療を継続して行うものではありません。休憩も休息も、睡眠をとることもできるよういな軽度の労働でなければなりません。

 だからこそ、定額(低額)の当直料を支払うことで、夜勤手当や残業代を支払う必要はありません。

 ところが、病院経営の権限を持った「管理職」には、「管理職手当」が支給されていることから、残業手当支払いに関する労働基準法で云うところの「36協定」は適用されないのです。

  このことに抜け道を見つけた北九州市立医療センターの管理者は、110名の医師のうち、実に70名を「管理職」に仕立て、次々と部長を発令、部下のいない課長を泡のごとく増やて、「タダ働き」をできる管理職をふやしました。

          コンビニの「名ばかり店長」

 おりしも、マスコミによってコンビニの「名ばかり店長」が問題になりました。臨時雇用や非正規店員を「店長」とは名ばかりに仕立てて、あたかもコンビニ経営の全権限を持たせたように見せかけ、長時間夜勤労働にもなんの保証も代償も手当ても払いません。

 このように、残業手当や夜勤手当の支給を免れようと、法の隙間を利用する奇策によって、何時間でも「ただ」同然に医師を働かせることができる、と考えたのでしょう。


医療崩壊「かわら版」(5)

2009-05-26 11:39:57 | 医師不足の深層探究

    医療破壊Photo_2「かわら版」(5)

   激務に、命絶つ医師続く

 仕事も家庭生活も、そして小児科医としても心身ともに充実した44歳、1999年8月16日の早朝、3人の幼子と愛妻を残し、投身自殺によって自らの命を断ちました。

 遺書は「私には医師という職業を続けていく気力も体力もありません」と。

 右上の画像は、死の直前1ヶ月の、過酷な勤務実態を示したものです。1ヶ月にほぼ60日分、昼夜を分かたず病院で診療にあたった結果、うつ病を発症し、投身自殺にいたったものです。

  特異的な1例を挙げたのではありません。たまたま「3人の愛し児」が胸を打ったためで、このような過酷な勤務に曝されている医師は枚挙に暇はありません。

 ここまで追い込んだ過酷な勤務。病める患者、傷ついた患者を目の前にして、医師としての使命感、責任感が自からの健康を蝕み、29歳、39歳、43歳、26歳、働き盛りの命を絶っています。

 東北大・国際保健学・上原教授は、「日本の医療は、医療者の自己犠牲的努力に依存している」とコメントしています。 


医療崩壊「かわら版」(4)

2009-05-23 10:05:48 | 医師不足の深層探究

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 当直勤務か交替制勤務か?

 挿入画像は、直近の調査データであります。

 周産期救急医療も、小児科の救急医療も、労働基準法を大きく逸脱した法律違反の上に、辛うじて成り立っている状態です。

  とくに周産期母子医療センターでは、97%が土・日・祝祭日はもちろん、医療法の定めによって、医師の宿直・日直勤務でしのいでいます。

 医療機関における宿日直勤務、本来のあり方は、通常勤務が終わってから翌日の始業まで、原則的には通常の業務はおこなわないで、病院内に待機させ、電話の応対や火災等の予防の巡視であって、本来業務の延長はしないし、常態として、ほとんどする必要がないところから、労基署の許可を受ければ、割増賃金を支払う必要もなく、低額の当直料で院内に待機させることができます。

 ところが、現場は、そんな状態ではない。

 ひっきりなしに急患が次々に運び込まれ、休憩も休息も、もちろん寝る間もなく結局朝まで、翌朝は、手術や外来診療が待っていて、帰宅するどころか、残業勤務がまた深夜まで。

            厚労省も経営側も「パンドラの箱」

 厚労省は、「交替制勤務にしなさい」と、通達だけは手ぬかりなくだしても、交替制にするでけの医師数が足りない、診療報酬が追い付かない、人件費は増える、結局「パンドラの箱」になっているのが現状です。

 かくして10年20年、労基法違反が延々と続いてきました。

 とどのつまりは、奇妙奇天烈な勤務形態がはびこってきます。


医療崩壊「かわら版」(3)

2009-05-16 09:54:05 | 医師不足の深層探究

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      「命」落とす医師たち

 この表は、日本医労連と東洋経済の調査によるもので、希望と使命感に満ちた新進気鋭の若き医師たちから、最も働き盛りの医師に至るまで、この欄に収まりきれないほどの尊い命を、自ら落とし、あるいは過労によって体力を使い果たし、命を断たれた医師たちの、民事訴訟等の実態をまとめたものです。

 29歳過労死、30歳過労による自殺、しかも、最初の例は、労働災害の認定に至るまで、実に13年間の歳月を要しています。

 なかでも、1999年8月16日早朝、44歳の男性小児科医は、「私には医師という職業を続けていく気力も体力もありません。」と、過労により、うつ病を発症し、遺書とともに、愛する妻と3人の幼子を残して、投身自殺をしております。

 当直勤務は1ヶ月12回、休日出勤は月6回、24時間連続勤務は月7回、休日は、月間たったの2回のみ。

 9年後にやっと労働災害は認定されたものの、労働基準法上の病院管理者責任も,安全管理者責任も問われることはありませんでした。


医療崩壊「かわら版」(2)

2009-05-14 09:38:23 | 医師不足の深層探究

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   医療崩壊「かわら版」(2)

  過酷な周産期医療の実態

  昨年度、医師の選んだランキング1位は、福島県立大野病院産婦人科事件でした。

 癒着胎盤剥離手術は、産婦人科医として、一生に一度遭遇するかしないかの希少例でした。福島県警は、産婦が亡くなって1年2か月後に、医師の業務上過失致死と、予見回避義務違反で逮捕、検察は起訴にもちこみました。

 結果は無罪の判決とはなりましたが、この事件をきっかけに、医療現場には大きな動揺と不安が走りました。

 日本産婦人科学会は、昨年9月29日、ただちに産婦人科常勤医師262名の勤務実態を調査し、第1回中間発表としました。

 冒頭の表は、その一部の抜粋です。

 上段は、1ヶ月間、病院に留まって診療する、最高の時間です。415時間を1日の勤務時間、8時間で割ると、1ヶ月52日間勤務したことになります。

 中段は、自宅から病院に呼び出されて、そのまま勤務を続行した時間であり、1ヶ月に536時間は、実に1ヶ月67日間勤務したことになります。

 下段の当直日数、1ヶ月間に12日は、ほとんど1日置きの当直勤務で、労働基準法をはるかに超えるもので、明らかな「夜勤労働」であり、定額当直料で誤魔化すことは、まさに「違法当直」そのもの。

 このような過酷な勤務の下に起こった不幸な事件をきっかけに、産婦人科医の凄まじくも過酷な勤務実態が、次々に明らかにされることになりました。