山崎幹夫著、中公新書刊
本書は12の章からなる薬の物語です。初めは胃潰瘍で亡くなった夏目漱石が登場し、漱石の人となり、死に至る経緯を交えながら、抗潰瘍薬の開発の過程を分かり易く解説しています。その他に取り上げているのは「モルヒネ」、「ビタミンB1」、「インスリン」、「抗結核薬」、「血圧降下剤」、「麻酔薬、催眠薬」、「催淫剤」、「ペニシリン」、「狭心症治療薬」、「精神病治療薬」、「抗炎症ステロイドとピル」と、今日一般に普及している薬と思いも掛けない作家を登場させながら、学者の苦闘と運・不運の一端を紹介しつつ、薬の作用を専門的に(分かり易く)述べています。
本書を読むと、改めて薬の本来の姿、すなわち、精妙な生理物質の作用、あるいは病原に働き掛け、都合の悪い因果関係を望む方向に変えていることが分かります。そして、薬の候補となる類似の物質群の効果を試し、見込みのある物質を実験によって効果と副作用とを慎重に見極めて行く、単調で困難な作業の積み重ねによって、人々の手に薬が届くことが理解出来ます。その根底には、薬を通した人類への貢献という情熱があることにも気付きました。
本書は専門的で無味乾燥になり勝ちな話題を、著者の幅広い教養故に、文学者や著名な学者を引きながら、見事な短編集に仕上がっています。良書です。
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○山崎幹夫 => https://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000272_all.html
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評価は5です。
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