すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

蜂矢英彦「心の病と社会復帰」

2005-05-14 09:16:35 | 書評
本は悪くない


以前勤めていた会社で名刺をもらった際、係りの人から「これって、障害者の人につくってもらってるのよ」と言われました。そのときは特別な感慨もなく、「ふ~ん」といったものでした。
が、それからしばらくして、また名刺が必要になった際に渡されたものは、そこらへんにあるパソコンとプリンターでつくったやつでした。正直に言って、出来上がりは、ちょっと貧乏臭いです。やはり業務用の印刷機でつくったものと比べると、印刷の質は甘くなっておりました。
しかし、多少の味気なさはあるものの、渡した相手に失礼にならない程度には仕上がっております。PCに詳しくない人なら、自作がばれることはないでしょう。

「名刺がつくれるのは知っていたけど、このレベルにまで達しているんだなぁ」と感心をしつつ、また一方で思ったことは、「障害者の人は、これで仕事が一つなくなったんだよなぁ」ということ。
家庭用プリンターの進歩もめざましく、前の会社がこのまま善意で名刺作りを委託していたところで、いつかは成り立たなくなるのは目に見えております。仕方ないことなんだろうなぁとは考えつつ、ちょっと罪悪感のような気分を感じずにはおれませんでした。


さて、「心の病と社会復帰」。

著者は、精神病患者の社会復帰に第一線でとりくんできたらしく、その経歴を活かして、日本での支援の歴史を述べております。
現在までの問題点やこれからの展望も、平易に記しておりまして、サクサク読めます。


が、どうも対象の患者が統合失調症(精神分裂病)に限定される記述が多いです。
少し古い本です。現在はどうかは分かりませんが、当時は統合失調症の患者が多かったのでしょう。ですから、仕方がないのでしょうけど。

しかし、欲しかった話題は、それじゃなかったんだよなぁ…………。

まぁ、しゃぁないです。

精神分裂病はいったんなったら治らないもの、と考えていた人からみれば、自立群が四一%(半自立群を加えれば五〇%)もいることは驚くべき数字と思うかもしれない。これから述べる外来分裂病の存在を考慮するなら、この群の患者は今ではもっと多いと考えてよい。一方、二〇年たっても精神病院から退院できず、一生を病院ですごす患者が二六%もいるのでは、やっぱりたいへんな病気ではないか、という人もあるだろう。ただし、この割合は一〇年前までの医療水準による結果である。第七章で述べるように、五年にわたって入院患者をとりまく治療環境の改善に努めた最近の私たちの経験からいうと、この群の患者は近い将来、半分くらいに減らすことができると考えている。それよりも、両者の中間にあって、二〇年ものあいだ良くなったり悪くなったり経過が変動している群が一七%あること、死亡が一六%(一九例)で、そのうちの一二例(なんと一一人に一人にもなる)が自殺していることなどが問題といえよう。
蜂矢英彦「心の病と社会復帰」46頁 岩波新書
「半自立群」というのは、働いているものの周囲からの支援が必要な人です。
この文章を読むと、明るい話題のような、暗い話題のような。


ちょっと対象が限定されてしまいますが、精神病患者の社会復帰の支援に興味がある人には、ちょうどよろしい本だと思います。


心の病と社会復帰

岩波書店

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