すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

大和和紀「あさきゆめみし (7)」

2005-05-04 09:00:01 | 書評
「宇治十帖」は、蛇足な気もするが


最終巻の「あさきゆめみし (7)」。

柏木と女三の宮の子供である薫と、光源氏と明石の御方の孫にあたる匂の宮が、亡き大君に生き写しの浮船に一緒に懸想するという話。

そもそも匂の宮は、前巻で中の君と結ばれたのですが、それはそれ。友人であり、ライバルの薫が手に入れた浮船が気になって仕方ありません。で、薫の振りをして家に侵入、まんまと浮船と関係を結ぶことに成功します。
夜が明けて、薫がいながら、不甲斐なく匂の宮に体を許してしまったことを嘆く浮船。そんな彼女を見て、匂の宮の一言。
……どうして泣くの……?
すばらしいことをわかちあったのに……
(中略)
おばかさんだね……
泣きたいのはわたしのほうなのに
こんなにあなたが愛おしくて……
夜が明けて京へもどるくらいなら
いっそ はじめからここに来ないほうがましだったと……
大和和紀「あさきゆめみし (7)」85頁 講談社漫画文庫
お見事! いつになるか分かりませんが、エッチした後に泣き出した女性に、僕もこんなセリフを言ってみます(引っ叩かれるか、訴えられるでしょうし、そもそもエッチの後に泣き出すなんてシチュエーションは回避したいものです)。

まぁ、そんなこんなで、身分が低かったこともあるのか、薫と匂の宮の二人に引け目を感じてしまい、どちらも断われない浮船。その、あまりの苦悩に、ついには入水自殺をはかります。通りかかった僧によってどうにか助かるのですが、これ以上俗世に煩わせられるのは勘弁ということで、そのまま出家してしまいます。


第一部では、光源氏が藤壺の宮にかなわぬ想いを抱き続け、その代償を求めて、「本当の愛が欲しい」だがなんだか、わけの分からないことをほざいて次々と女を漁ります。

それに比べて、この第二部「宇治十帖」の主人公である薫は、本当に愛せる女性を求めながらも、諸々の偶然もあって、結局、手に入れることなく終わってしまいます。こんなヘタレでいいのか? と思ってしまいますが、そのために、情熱でなんでも手に入れてしまう匂の宮がもう一人の主人公として存在しているようにも感じられます。

つまりは、光源氏の二つの側面を、薫と匂の宮がそれぞれ担っており、その愛を受ける浮船が「源氏物語」全体に登場する女性の苦悩を象徴している、…………ようにも読み解けないこともないです。が、モトネタが古典ですから、現代人の感覚で深読みしても仕方ないものがあります。


ともかく、当初の目論見通り「源氏物語」の全体像を知ることができる漫画だったと思います(原作は未読なので、確言はできないのですが)。
個人的には、この漫画に触れたことで、現代語訳で「源氏物語」を読んでみたくなりました。
それだけの魅力のある漫画でした。「源氏物語」に興味のある方の、入門書としては、うってつけなのでは?


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