若竹屋酒造場&巨峰ワイナリー 一献一会 (十四代目日記)

何が酒の味を決めるのか。それは、誰と飲むかだと私は思います。酌み交わす一献はたった一度の人間味との出逢いかもしれません。

金賞を獲るということ

2003年05月24日 | ものおもう十四代目
若竹屋職員の皆さん、毎日のお仕事ご苦労様です。さてこの度、若竹屋の酒が全国新酒鑑評会で金賞に輝きました。大変栄誉な事です。横尾部長をはじめとする製造部の皆さんの高い技術とチームワーク、そして若竹屋を支えてくれる職員の皆さんの日々の努力があってこそ、手にすることの出来た賞だと思います。みなさん、本当にありがとう。

私は常日頃、「あえて」こうお話をします。鑑評会に入賞する事はそんなに大事な事じゃない、自分達が目指す味、その高みに向かって行こうじゃないか。その目指すところは鑑評会で評価されるとは限らない。より大切なのは我々が理想とするものがお客様に「美味い!」と評価される事なんだよ、と。

自分が信念とするところがなければ、いつも他人の評価が気になります。他人と比較する事でしか自分を確かめる事が出来なくなります。それは真の意味での自己の確立にはつながらない。自律にもつながらないのです。

一時期、業界内で鑑評会に入賞する事が優秀な蔵であり、入賞するための酒造りばかりが行われていたことがありました。「YK35」という言葉(山田錦・熊本9号酵母・35%精米、という吟醸の仕込み方を示す言葉です)を銘柄に使う商品もあったくらいです。しかしその結果は蔵の個性が失われ、どれを飲んでも似たような、香りばかり高い痩せた味わいの酒が市場に出回ってしまったのです。

伝兵衛蔵元は吟醸が生まれたその昔からこう言ってきています。「単に米を磨くばかりで、香りを追求する酒はいずれ焼酎にとって代わられる。日本酒本来の良さは米の味を引き出し、蒸留ではなく醸造でしか生まれない味わいにあるのだ」その思いが元禄之酒や博多練酒を産み出したのです。

では、鑑評会に入賞しなくてもいいのかというと、そういうことではありません。本来の鑑評会は明治時代に、酒造技術が発展途上だった頃に蔵元の技術研鑚を目的として始まりました。その理念にそって、若竹屋は自分達の酒造技術を維持し、高める為に入賞する事を義務付けられているといっても良いのです。常に技術研鑚をしてきているものだからこそ、「入賞する事が目的ではない。蔵元としてもっと大切な事があるのだ」と言えるのです。実力のないものがそう言ったところで、表現は悪いですが「負け犬の遠吠え」といわれても仕方ありません。

伝兵衛蔵元は日本が誇る酒造理論の持ち主ですし、横尾部長率いる製造部が仕込んだ酒はこれまで鑑評会の入賞をしなかった年はありません。だから私達は大きな誇りを持って、謙虚に、誠実に、そして意欲的に自らの志す酒を醸さなければならないのです。

金賞をとった酒でも、詰め口や貯蔵管理が悪ければ不味くなります。ラベルが汚れていれば誰も買いません。嫌いな上司にすすめられたら美味しく感じられないものです。若竹屋は優れた技術を持っているからこそ、お客様の手元・口元に届くまでその味を追求したいのです。

H14BYの製造部のメンバーは本当に良くやってくれました。横尾部長、太田君、田籠さん、佐々木副杜氏、渡辺さん、行徳さん、森山さん、古賀君、足立君、山中君、岩渕君、本当にありがとう。来期もいい酒を造ろう。

2003.05.24