若竹屋酒造場&巨峰ワイナリー 一献一会 (十四代目日記)

何が酒の味を決めるのか。それは、誰と飲むかだと私は思います。酌み交わす一献はたった一度の人間味との出逢いかもしれません。

つまらない酒の飲み方

2003年04月04日 | ものおもう十四代目
若竹屋スタッフの皆さん、こんにちは。蔵開きも終わって日々の業務に励んでいることと思います。ちょっと速いペースですが社長通信を送ります。

北九州は小倉に、白石君が担当している「力丸酒店」という酒販店があります。ここのお客さま達で「子狸の会」という酒の会を開いているのですが、毎年彼らが若竹屋に酒造りにやってきます。山田錦(酒米)の田植えから刈り取りもし、仕込みをして袋搾りまで、半年をかけて自分達で飲む酒を造ることは皆さんご存知でしょう。

その力丸さんから先日聴いた話です。今年初めて「子狸」になったお客様がいたという話です。そのお客さまはとてもマニアックに酒の味にこだわる方で、どこか一つは注文をつけないと気の済まない方でした。その方が春から山田錦の田植えに参加し、刈り取りから造り、搾りまで全てを体験されました。先日その方と力丸さんが話しをした時に、力丸さんはその方の変化に気付きました。それまで酒の味、舌で感じる味の話ばかりしていたのに、何かが違うのです。

「力丸さん、私はこれまでつまらない酒の飲み方をしてきたように思うのですよ。この酒は雑味があるとかキレがないとか味がくどいとか…。そんな表面的な味についてばかり論評してきました。しかし若竹屋で米作りから体験できて、本当の意味での『味わい』というものを知ったように思います。農家の皆さんの情熱、酒蔵の皆さんの思い、田主丸の四季の情景、そんなものを総てひっくるめて酒の味わいなんですね。本当にいい体験をさせて頂きました。ありがとうございます」

ここに一人の立派な子狸(酒好き)が生まれたのでした。そして力丸さんとお客さまと私達は、互いに尊敬と愛と喜びを分かち合う事ができたのです。わたしたち若竹屋は「消費者」を対象に商いをしているのではありません。わたしたちは互いに感動を分かち合える仲間である方々を「お客さま」と呼ぶのです。お客さまに愛される若竹屋である前に、お客さまを愛することが大切なのだと思うのです。

眼に見えるものは分ければ分けるほど減っていきます(土地やお金などはそうですね)。しかし、眼に見えないものは分ければ分けるほど増えてゆきます。それは分けるもののではなく、分かち合うものだからです。愛、尊敬、感謝、思いやり、信頼、大切なものはいつも見えないもの、「星の王子さま」でもそう書いてありましたね。

また5月が来れば大勢の子狸たちが田植えの為に田主丸を訪れます。彼らはいつも大切なものをわたし達に教えてくれるのです。

2003.04.04