若竹屋酒造場&巨峰ワイナリー 一献一会 (十四代目日記)

何が酒の味を決めるのか。それは、誰と飲むかだと私は思います。酌み交わす一献はたった一度の人間味との出逢いかもしれません。

頭の悪い蔵が好き

1999年10月16日 | 業界人進入不可
味醂(みりん)という調味料はご存知の事と思う。この味醂はお酒でしょうか、それとも調味料、それとも・・・?

酒税法によれば味醂は他のアルコール飲料と違って「調味料」の使用用途を重んじた扱いをされている。まあ、簡単に言えば酔うための「お酒」ではないから酒税はあまりかけませんよ、ということだ。

「清酒」や他の多くの酒類はそのアルコール度数によって細かく酒税がかけられている。同じ造り方であれば、アルコール度数が高いほうが酒税は高いのが一般的だ。ところが味醂はそうじゃない。アルコール度数はあまり関係ない酒税のかけ方になっているのである。

そこに目をつけた頭の良い方がいらっしゃった。

味醂には「本直し」という製造技法がある。これは出来た味醂の味を整えるという意味で、醸造用アルコールや糖類などの調味料を加えたりすることなんだけど、その量などに規定がない。

さて、くだんの頭のよい方は何を考えたか。
味醂を造り、度数の高い醸造用アルコールと調味料を大量に混和し度数25%のアルコール飲料である「本直し」を造ったのである(見方を変えれば、醸造用アルコールに糖類と味醂を少しだけ混ぜたとも解釈できる)。味醂だから酒税が格段に低い。低コストで高アルコール度数の酒類を製造したというわけだ。

おまけに4リッターのポリ容器に詰めたそれを酒屋の甲類焼酎の棚のそばに置いてもらうようにお願いした。もちろん、ラベルには(よく見れば)ちゃんと「本直し」と書いてある。店頭販売価格は1200円から1400円といったところで売っている。消費者に安価に提供しようとする素晴らしい企業努力が生んだ「味醂」(味醂と知らず焼酎と思って買っている人もいるかも知れない)なのだ。

味醂とは日本が世界に誇るべき素晴らしいリキュールだなと思わせる、味わうために飲むものすごく美味いやつが僕の酒棚にはある。それは量産していないので頭の良いメーカー(僕は蔵元とは呼ばない)の経営者や技術者の口には入ったことがないに違いない。

僕の酒棚にあるこの凄い味醂を造っている蔵元(僕はメーカーとは呼ばない)の人たちは、きっとすごく、すご~く、頭が悪い人たちなんだろうな、と僕は微笑みつつロックグラスに注いだ琥珀の液体を口に運び味わうのだ。

1999.10.16