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社会人大学院で学ぶ技術経営

社会人大学院で技術経営を学びながら日々の気づきを書きとめてみます.

事業活動の表舞台(サービス)と裏舞台(モノづくり)

2007年03月25日 | サービスサイエンス
2007年3月13日発行のサービスサイエンスに関する新刊書「サービス・ストラテジー」(原題:Service is Front Stage)では,すべての事業活動は表舞台(サービス)と裏舞台(モノづくり)から構成されるとしている.本書の38ページでも引用されているように,「本来,サービス業などというものは存在せず,どの業界もサービスとかかわりがある.他の業界と比べて比重が大きいか小さいかだけが違いなのである(セオドア・レビット,1972)」,といった指摘は昔からあるものの「表舞台」と「裏舞台」という比喩はわかりやすい.

さて,製造業は従来は裏舞台の比重が高かったが,最近は表舞台の重要性が増しているといえる.製造業の研究開発も従来は裏舞台に関するものが多かったが,今後は表舞台の研究開発が重要となると思われる.ただ,表舞台の研究開発は従来と同様の工学的な手法やスタイルになるのかはわからない.

サービスサイエンスの研究者は,研究の内容だけではなく研究のスタイルも開拓していく必要があると思われる.

MOTの3つのアプローチ:分析的,統合的,解釈的

2007年03月22日 | 技術経営
MOTのコンテキストで,アナリシス(分析)とシンセシス(統合)の対比はいろいろ論じられてきた.例えば,MBAはアナリシスに主眼に置いているのに対して,MOTはシンセシスを重視しているという言い方もされてきた.ここでは,「分析的」と「統合的」とは別に提言されている3つ目のアプローチ「解釈的」について考察したい.

MITのLester教授は,著書「Innovation--The Missing Dimension」において,イノベーションのコンテキストで,アナリシス(分析)とインタープリテーション(解釈)という対比を行っている.ここで,分析的プロセス(analytical process)が,問題構造を明確にし,要素に分解し,個々の分析結果を還元して,問題を解決することであるのに対し,解釈的プロセス(interpretive process)は,インタラクティブなコミュニケーションを通じてお互いに価値を発見することであるとしている.

これは,IBMのサービスの定義である「顧客と企業が一緒に価値を創造するプロセス」と同じ意味であると思われる.Lester教授の主張は,イノベーションのためには分析的プロセスに加えて解釈的プロセスが重要であるが,解釈的プロセスに関しては十分学問的な蓄積がないので,ぜひ重要性を認識しようということであり,サービスサイエンスの提唱とも重なるとことが大きい.

ここで,統合的プロセスと解釈的プロセスは本質的に何が異なるのかという点は必ずしも明確ではない.実体は同じという見方もあるかもしれない.確かに,統合的を分析的との対比で持ちいる場合は解釈的の意味も含んでいたと思われる.しかし,建築家や芸術家のように1人の頭の中で作品をシンセシス(統合,形成)することと,関係者(顧客と企業)がお互いに気づきあいながら価値を生み出すインタープリテーション(解釈)とは分けて考えた方が良い場合もあるだろう.特に,サービスイノベーションの考察においては解釈的なプロセスが重要であるのは定義から明らかであろう.

経営戦略とMOT(三品和弘著「経営戦略を問いなおす」)

2007年03月17日 | 技術経営
三品和弘著「経営戦略を問いなおす」では,「経営戦略がアナリシスの発想と相容れないのは,その真髄がシンセシス(統合)にあるからです(61ページ)」と述べている.

ここでアナリシスとはSWOT分析やPPMマトリックスを使った分析を示している.一般的には,経営コンサルタントがこれらの道具を使って行っている(MBA的な)アナリシスこそが経営戦略の本質であるというイメージがあるが,本書では経営戦略は(シンセシスをできる1人の)人に宿ると言い切っている.

筆者は,MBAのアプローチを「現在あるものを分析(アナリシス)して悪いところを切り捨て価値のある部分だけを残す」,MOTのアプローチを「ゼロから価値を生み出すものを作り出す(シンセシス,イノベーションもその1つ)」と捉えているが,三品先生が定義するように「戦略とは,新たな市場取引を創造し,それによって人々の幸福を増進させるもの(18ページ)」とすれば,経営戦略を問い直すとそこにMOTのあるべき姿も見えてくるように思う.


ナレッジマネジメントツール:MIXIの前と後

2007年03月14日 | 知識移転・知識継承
最近,社内SNS(Social Networking Service)が話題になっており,NTTデータのNextiなどは成功事例として雑誌にも取り上げられている.実際,メーリングリストの自然な発展形として社内SNSは着実に浸透するだろう.

ただ,昔のナレッジマネジメント/グループウェアツールにも実は同様な機能はあり,それなりに使われていたようにも思える(参考文献:知的グループウェアによるナレッジマネジメント).実際,筆者は旧世代のナレッジマネジメント/グループウェアツールを活用している.

しかし,BLOGやMIXIの世界を知る前と後では一般ユーザの受容体(メンタルモデル)は大きく変化したのではないだろうか.機能/技術的には同じでもナレッジマネジメント/グループウェアツールの「間取り」はMIXI後で大きく変わっているのだと思う.

同じ様相が3Dバーチャルワールドに言えるのではないかと思う.すなわち,「セカンドライフ」の前と後である.セカンドライフの前には「キュリオシティ」のようなアプローチがあったが,キュリオシティの経験で3Dバーチャルワールドはイマイチだと判断すると大きく間違えるだろう.

キュリオシティ:1995年に三井物産のEC事業プロジェクトとして発足。国内のショッピングモールでは老舗であり、当初はCD-ROMとインターネットを連携したショッピングサービスやコンテンツを提供していた。その後、2000年3月に株式会社キュリオシティとして分社化.2005年にサービス終了.


サービスイノベーションのための先行研究レビュー

2007年03月04日 | サービスサイエンス
ロンドンのCity University Business SchoolのAxel JohneとChris Storeyによるサーベイ論文「New service development: a review of the literature and annotated bibliography」は67ページの労作であるが,1996年以前の新サービス開発(NSD:New Service Development,NPD:New Product Developmentに対応する言葉)に関する先行研究が丁寧にまとめられており参考になる.末尾には21ページを費やして58の文献に関する要約が掲載されている.

個人的には,NSDの開発プロセスモデル(202ページ)に関する記述が参考になった.NPDの開発プロセスのモデルの研究は多いが,NSDに関してはあまり研究がされていないのは驚きだ,としながら,例外的な仕事としてScheuingとJohnsonの15ステップモデルを紹介している.

NSDのための15ステップモデルが,従来のNPDと異なる点は,サービス自体の設計とサービスの提供手法(オペレーション)の設計を区別する点である.サービスコンセプトは面白くても,サービスオペレーションが拙くて失敗するというのはよくあるケースである.

本サーベイ論文の後には,Cooperによるサービス開発におけるステージゲート法に関する本「Product Development for the Service Sector: Lessons from Market Leaders」が出版されたが,具体的な事例に基づく更なる研究が必要であろう(特に,製造業のサービス事業化に関して).

ただ,昨今サービスサイエンスがブームになっている中でも,闇雲にブームに乗るのではなく,本サーベイ論文に見られるような膨大な先行研究があることはしっかり認識しておくべきであろう.