サービスを「顧客との価値共創」と捉え、従来の「製品ドミナントロジック(goods-dominant logic)」との対比を行っている。「顧客との価値共創」という定義自体は、IBMのサービスサイエンスにおける「サービス」の定義と同じであり、現時点では市民権を得た定義になっている。
オリジナルの文献は、VargoとLuschの2004年の論文「Evolving to a New Dominant Logic for Marketing」であり、Webからダウンロードできる。また、書籍「The Service-Dominant Logic of Marketing: Dialog, Debate, And Directions」(ペーパーバック、2006年)としても入手できる。最新(2008年)の文献「Sevice-dominant logic: continuing the evolution」も提案時(2004年)からの進化が見えて興味深い。
ところで、マーケティング分野での「サービス・ドミナント・ロジック」における「ドミナント・ロジック」という言葉の使い方と、経営戦略分野における「ドミナント・ロジック」(Prahalad & Bettis, 1986)の使い方にギャップを感じる。
経営戦略における「ドミナント・ロジック」とは、「トップマネジメントが事業を概念化する方法や、決定的に重要な資源配分の意思決定を行う際の指針のこと」(赤門マネジメントレビュー7巻7号「なぜ多角化は難しいのか?」)であり、業界全体ではなく企業に特有な意思決定の思考回路(戦略的慣性)を表現している(と筆者は理解している)。
すなわち、ドミナント・ロジックとは、企業のあるべき姿(To Be)ではなく、現状の姿(As Is)であり、所与のドミナント・ロジックの中でどのように戦略転換を行うかが経営戦略論における論点のように思う。
すなわち、製品ドミナントロジックに支配されている製造業が、サービス・ドミナント・ロジックの企業に戦略転換するためには、あるべき姿(To Be)を示すだけでは現実性がない。「製品ドミナントロジック」から「サービス・ドミナント・ロジック」にどのように戦略転換(transition)するかが重要である。
Vargoも「製品からサービスへ」(From Goods to Service(s): A Trail of Two Logics)という議論はしているものの、製造業のサービス事業化への戦略転換の本質的な難しさに関して考察したものではない。
「ドミナントロジック」の視点からの製造業のサービス事業化への戦略転換の機会と困難の分析に関して、今後の研究に期待したい。