goo blog サービス終了のお知らせ 

社会人大学院で学ぶ技術経営

社会人大学院で技術経営を学びながら日々の気づきを書きとめてみます.

技術者倫理における確率の扱い

2006年10月15日 | 技術経営
実践のための技術倫理―責任あるコーポレート・ガバナンスのために」は,技術者倫理を「萎縮の技術倫理」ではなく,「元気の出る技術倫理」として捉えたすばらしい本である.

私の理解では,技術者倫理とは,下記の相反する価値の間で発生する正解のない問題(二律背反,利益相反,矛盾,ジレンマ)に対して,適切なバランスで対処することである.
・企業の経済的価値
・企業の非経済的価値(会社の存在価値,何のための会社か?)
・プロフェッションの価値観(専門家としての責任と誇り)
・個人の価値観
・社会の価値観

前述の本のケーススタディにもある「J&Jのタイレノール回収」は「美談」ではあるが,回収に伴う経済的損失が企業の許容範囲だから可能であったわけであり,もし回収により倒産するリスクが高い場合にはどのような判断になっただろうか?

世の中100%問題ないということはありえない.安全サイドで行動しようとすれば,何もしないのが最も良いことになり,経済活動は停止する.要は相反する価値間の適切なバランスが重要であり,リスク管理的にはVaR(バリュー・アット・リスク)のような確率に基づく議論が必要である.

しかし,倫理や価値観の世界に,確率の話を持ち込むのは難しい.例えば,自動車という商品は毎年数千人の死者が出ているにもかかわらず,社会的には容認されている.一方で,S社製のパソコン用リチウムイオン電池の不具合は,確率的には極めて低い(数百万分の1)にもかかわらず,すべて回収する騒ぎになっている(費用は数百億円).合理性を考えたら,回収する代わりに「万が一電池が原因で火事等になった場合は1億円プレゼントします,残りの数百億円はアフリカの難民の救済に使います」という提案もありうるだろう.人命は地球より思いという価値観もわかるが,その場合上記の自動車はどのように説明するのだろうか.

技術者倫理もどこかで確率的考え方を導入しないとリスクばかり大きくなって,経済活動にも支障が出ると危惧される.昨今の企業の不祥事を面白おかしくたたくマスコミの風潮にも問題がある.

一方,不確定要素が多く確率問題にも持ち込めないというケースも多いのも現実である.ロナルド・レーガンがスペースシャトルチャレンジャー号の事故の際に言った「未来は臆病者にではなく、勇敢なものに属する」という考え方に対するコンセンサスも重要であろう. 

知識と実行のギャップと知識移転・継承の進め方

2006年10月09日 | 知識移転・知識継承
中国に「知行合一」という言葉があるが,「実行の伴わない知識は真の知識ではない」という考え方は,「知識経営」や「ナレッジマネジメント」の文脈では共通認識といっても良いと思う.

TV,書籍,セミナー,インターネット等で,様々な情報が容易に入手可能な時代になり,「知っている」ことは確実に多くなっている.しかしながら,「知っていること」が実行に結びつかないケースが多い.逆に,情報の少ない時代のほうが「まずはやってみよう」ということで,実行と結びつくことが多かったかもしれない.これは一種のパラドクスである.

この知識と実行のギャップを取り上げた本が「実行力不全 なぜ知識を行動に活かせないのか」である.

本書では,知識と実行のギャップが生まれる組織的な問題を,(1)計画偏重,(2)前例主義,(3)事なかれ主義,(4)評価の問題,(5)内部競争,の各視点で分析し,これらを解消して知識を実行に結びつける8つのガイドラインを示している.

知識移転,知識継承を推進する場合も,単に知識を伝えるだけでは実行が伴わず失敗する可能性が大きい.上記の「組織的な問題」をステークホルダー間で共通認識した上で,知識移転,知識継承のやり方を考えることが重要であろう.

サービスサイエンスはサイエンスか?

2006年10月03日 | サービスサイエンス
IEEE Computerの2006年8月号に「Services science: a new field for today's economy」という記事が掲載されている.

サービスサイエンスに関する議論の中に,「サービスサイエンスのどこがサイエンスなの?」というものがある.この記事の中で面白い言及があるので紹介したい.

マンチェスター大学のZhao先生は,「真にサイエンスである学問はサイエンスという名前は必要としない」,「名前の中にサイエンスを含む学問はサイエンスではない」と言っているとのこと.

確かに,コンピューターサイエンス,マネジメントサイエンス,サービスサイエンス,組織科学,ソーシャルサイエンス等々は,真のサイエンスではないけれど,サイエンス的,システム的な方法やツールを取り入れたいと頑張っている学問と言えるのかもしれない.