社会人大学院で学ぶ技術経営

社会人大学院で技術経営を学びながら日々の気づきを書きとめてみます.

デジタルワークモデルとフロネシス

2006年02月26日 | 技術経営
「デジタルワークモデル」において,MITトマス・マローン教授の分散型マネジメントを実行するとき,形式知化できない暗黙的なビジョンや文脈/場や経験的知識をいかに共有するかが大きな課題である.

世界情報通信サミット2006では,「暗黙的なものでも高精細なテレビ会議で伝わるでしょう」あるいは「暗黙知は情報通信技術(ICT)の範疇でない」という印象で,真正面から取り組もうという姿勢は見えなかった.

筆者は,デジタルワークモデルの「設計」という意味では,ICTシステム系の設計と同じ比重で仕組み系の設計をしっかりすべきだと考える.特に,小手先や表層的な暗黙知ではなく,「高質な暗黙知=フロネシス」を共有する仕組みが重要である.

トマス・マローン教授の視点では,「フロネシス」は「フューチャーオブワーク」の最終章「価値観を中心に据えたビジネス(Putting Human Values at the Center of Business)」に書かれている価値観とも符合する.

例えば,明治維新の志士はわずか1年間の松下村塾で「フロネシス」を共有し,その後の行動基準になった.想像だが,戦前の旧制高等学校も「フロネシス」を共有する場だったのかもしれない.

野中・遠山論文「フロネシスとしての戦略」では,企業経営を読み解く上でのフロネシスの重要性を説いているが,フロネシスの共有化の方法論/設計論に関しては言及していない.

「デジタルワークモデルにおけるフロネシス共有の設計論」は大きく困難なリサーチクエスチョンである.

デジタルワークモデルとサービスイノベーション

2006年02月26日 | サービスサイエンス
「デジタルワークモデル」とは,2006年2月23日に開催された日経新聞主催のシンポジウム「世界情報通信サミット2006」のテーマである.情報通信技術,特にインターネットの普及により,ビジネスのコミュニケーションコストが大幅に小さくなったことで,企業における仕事の進め方が大きく変わるだろうという提言である.キーノートスピーチは,MITのトマス・マローン教授.講演内容は,次世代の分散型マネジメントを説いた彼の著書「フューチャー・オブ・ワーク」の内容から抜粋したものであった.

ところで,「デジタルワークモデル」とは抽象的な概念であるが,情報通信技術を活用した「テレワーク」「在宅勤務」「フリーアドレスの職場」が主催者/パネリストの共通のイメージのようであった(特に,通信事業者にとっては,テレワークによる通信マーケットの拡大を願っているというものである).この時,「デジタルワークモデル」の主な目的は社員の生産性/効率向上である.すなわち,デジタルワークモデル/分散型マネジメントにより,(1)社員のモチベーションと創造性を高め,(2)柔軟性と個性化を図るというものである.

確かに,社員の生産性/効率向上は重要である.しかし,そこには顧客の顔が直接的には見えてこない.マローン教授の講演では,顧客を巻き込んだ分散型マネジメントの事例として「イーベイ」が紹介されている.イノベーションの視点からは,「顧客を巻き込んだデジタルワークモデル」が重要であると思っている.サービスの定義を「顧客と提供者が一緒になって価値を創造すること」とするとき,顧客を巻き込んだデジタルワークモデルとは,まさに新しい時代(情報通信技術によりコミュニケーションコストが劇的に小さくなる時代)のサービスの形であり,サービスイノベーションである.

某パネリスト/コメンテーターのコメントにも似たような指摘があったが,デジタルワークモデルを,単なる「テレワーク」と捉えずに,サービスイノベーション/サービスサイエンスの視点で考えると面白いと思う.



ビジネスエスノグラフィーとフィールドマイニング

2006年02月05日 | 技術経営
shiba blogで,サービスサイエンスと関係して議論が盛り上がってる「ビジネス・エスノグラフィー」は,「(ビジネス)データマイニング」との対比で興味深い.

データマイニングは,「BI(ビジネスインテリジェンス)」のツールとして注目されているが,仮説もないままデータをいくら機械的にホジクリ返しても,イマイチの結果しか得られないことが多い.有名なセブンイレブンの場合は,オペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC)が,日々の業務体験の中から自らの経験と直観で仮説を作り,それをデータで検証することで成功している.

一方,物理や化学のように仮説がデータで検証されることによって永遠の真理になるということでもない.仮説は,日々変わってもかまわない.ここでは,「役立つものが真実である」というプラグマティズムの立場を採っている.

ビジネス・エスノグラフィーに興味を覚えるのは,対象を「データ」に置き換えた段階で何か重要なものが失われているからだ.客観的なデータにより新しい気づきを得ることも多いが,データにならない(時には暗黙的な)知識をどのように伝えるかに関して,社会学のエスノグラフィーが有効な手法となるのではないだろうか?

大阪大学の松村研究室では「フィールドマイニング (FIELDMINING)」を提唱している.これは,フィールド(現場)で起こっていることを記憶/記録し,計算機と人,人と人との相互作用によって理解し,フィールドのデザインに生かすというアプローチで,手法として「デジタルエスノグラフィー」 という言葉も出てくる.

我々も,現場からの知識(形式知/暗黙知)の形成&検証において,データ/テキストマイニングだけでなくエスノグラフィーの手法も活用することで,より深いBI(ビジネスインテリジェンス)に繋げていきたいと思っている.