「イノベーションの収益化―技術経営の課題と分析」(榊原清則 著)の第一部では,日本企業の研究開発の効率低下の要因に関して興味深い分析を行っている.
本書では,まず第一章でデータに基づく日欧米企業の比較を行い,日本企業の莫大な研究開発費が「収益化(イノベーションの収益化)」に結びついていないという事実確認を行っている.
それでは,なぜ効率が悪いのだろうか?本書では,以下の3つの視点で分析を行っている.
(1)イノベーションの課題が変化しているのに,それを正しく認識できていない.
(2)日本企業の研究開発の「閉鎖性」「内向き」「自前主義」の問題,および専有可能性の低さに関する戦略上の問題
(3)少産少死型の研究開発マネジメントの問題
本書では,イノベーションの収益化(研究開発投資の収益化)こそが日本企業におけるMOT(技術経営)の最重要な課題と位置付け,上記の3点を指摘を行った.たいへん鋭い分析である.ぜひ,一読をおすすめしたい.
以下,その内容を紹介する.
第2章,第3章では上記の(1)(2)(3)に関する詳細な検討を行っている.
まず,第2章では,(1)のイノベーションの課題に関して主要なイノベーションの理論を用いながら3つの課題の変化「プロセスイノベーションからプロダクトイノベーションへ」「連続的イノベーションから不連続なイノベーションへ」「アーキテクチャが所与のイノベーションからその変化を含むイノベーションへ」を示している.
第3章の前半では,シスコとP&Gのケースを用いて米国のオープンな研究開発の成功例を示し,日本企業の閉鎖性が効率低下の大きな要因になっていることを指摘している.また,ゼロックスとシンガー(ミシン)のケースを用いてイノベーションの成果の専有可能性の課題を指摘している.確かに,米国企業はマイクロソフトを筆頭にイノベーションの成果の専有するための戦略にたいへんな重きを置いているが,日本企業は比較的無頓着のようにも見える.本ブログでも注目している製造業のサービス事業化(サービスイノベーション)もイノベーションの収益化の1つのアプローチと言えるだろう.
第3章の後半では,研究開発マネジメントの問題点を検討している.すなわち,個別の研究開発が少産少死で粘り強く頑張ってしまう点(美徳と認識される)が,かえって事業全体としては戦略的効率の低下を招いているという指摘である.
(3)の研究開発マネジメントに関しては,多産多死型のステージゲート/フェーズレビューが欧米では効果をあげている.日本でも,製薬企業や化学系企業ではうまく機能しているように見えるが,自動車や電機メーカーでは必ずしも多産多死型にはなっていないようにも見える(ステージゲート法の日本企業における利用状況).トップダウン型のポートフォリオ管理による合理的なプロジェクト選択をそのまま日本に持ち込んでもうまく機能しない場合もあるだろう.
筆者自身(私)は,プロジェクトマネージャーを含む変革型ミドルが,企業全体の戦略にもコミットしながら,自らプロジェクトの方向性を設定・修正する自己変革型の研究開発マネジメントにより,結果として日本企業のイノベーションの収益化を達成できないかと考えているが,どうだろうか.
本書では,まず第一章でデータに基づく日欧米企業の比較を行い,日本企業の莫大な研究開発費が「収益化(イノベーションの収益化)」に結びついていないという事実確認を行っている.
それでは,なぜ効率が悪いのだろうか?本書では,以下の3つの視点で分析を行っている.
(1)イノベーションの課題が変化しているのに,それを正しく認識できていない.
(2)日本企業の研究開発の「閉鎖性」「内向き」「自前主義」の問題,および専有可能性の低さに関する戦略上の問題
(3)少産少死型の研究開発マネジメントの問題
本書では,イノベーションの収益化(研究開発投資の収益化)こそが日本企業におけるMOT(技術経営)の最重要な課題と位置付け,上記の3点を指摘を行った.たいへん鋭い分析である.ぜひ,一読をおすすめしたい.
以下,その内容を紹介する.
第2章,第3章では上記の(1)(2)(3)に関する詳細な検討を行っている.
まず,第2章では,(1)のイノベーションの課題に関して主要なイノベーションの理論を用いながら3つの課題の変化「プロセスイノベーションからプロダクトイノベーションへ」「連続的イノベーションから不連続なイノベーションへ」「アーキテクチャが所与のイノベーションからその変化を含むイノベーションへ」を示している.
第3章の前半では,シスコとP&Gのケースを用いて米国のオープンな研究開発の成功例を示し,日本企業の閉鎖性が効率低下の大きな要因になっていることを指摘している.また,ゼロックスとシンガー(ミシン)のケースを用いてイノベーションの成果の専有可能性の課題を指摘している.確かに,米国企業はマイクロソフトを筆頭にイノベーションの成果の専有するための戦略にたいへんな重きを置いているが,日本企業は比較的無頓着のようにも見える.本ブログでも注目している製造業のサービス事業化(サービスイノベーション)もイノベーションの収益化の1つのアプローチと言えるだろう.
第3章の後半では,研究開発マネジメントの問題点を検討している.すなわち,個別の研究開発が少産少死で粘り強く頑張ってしまう点(美徳と認識される)が,かえって事業全体としては戦略的効率の低下を招いているという指摘である.
(3)の研究開発マネジメントに関しては,多産多死型のステージゲート/フェーズレビューが欧米では効果をあげている.日本でも,製薬企業や化学系企業ではうまく機能しているように見えるが,自動車や電機メーカーでは必ずしも多産多死型にはなっていないようにも見える(ステージゲート法の日本企業における利用状況).トップダウン型のポートフォリオ管理による合理的なプロジェクト選択をそのまま日本に持ち込んでもうまく機能しない場合もあるだろう.
筆者自身(私)は,プロジェクトマネージャーを含む変革型ミドルが,企業全体の戦略にもコミットしながら,自らプロジェクトの方向性を設定・修正する自己変革型の研究開発マネジメントにより,結果として日本企業のイノベーションの収益化を達成できないかと考えているが,どうだろうか.