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社会人大学院で学ぶ技術経営

社会人大学院で技術経営を学びながら日々の気づきを書きとめてみます.

サービスサイエンスはサイエンスか?

2006年10月03日 | サービスサイエンス
IEEE Computerの2006年8月号に「Services science: a new field for today's economy」という記事が掲載されている.

サービスサイエンスに関する議論の中に,「サービスサイエンスのどこがサイエンスなの?」というものがある.この記事の中で面白い言及があるので紹介したい.

マンチェスター大学のZhao先生は,「真にサイエンスである学問はサイエンスという名前は必要としない」,「名前の中にサイエンスを含む学問はサイエンスではない」と言っているとのこと.

確かに,コンピューターサイエンス,マネジメントサイエンス,サービスサイエンス,組織科学,ソーシャルサイエンス等々は,真のサイエンスではないけれど,サイエンス的,システム的な方法やツールを取り入れたいと頑張っている学問と言えるのかもしれない.


製造業における「カスタマーからクライアントへ」

2006年09月16日 | サービスサイエンス
近藤隆雄 著「新版 サービスマネジメント入門―商品としてのサービスと価値づくり」の73ページに「カスタマーからクライアントへ」という一節がある.

本書によると,カスタマーとは「企業にとって無名の存在,マス(大衆)の一構成員,統計的存在で,その取引は総計されてコンピューターのプリントアウトで表現される.また,カスタマーにサービスするのは,たまたま手の空いている従業員である」.

これに対して,クライアントは,「名前をもち,マスではなく個人として認識される.彼の要求は個別に受けとめられ,バックグラウンドのデータ,これまでの取引状況などがデータベースに記録される.対応する従業員は彼の要求に応えられる能力を備えた者,または特別に任命された者である.」

関係性マーケティングの視点からは,カスタマーをクライアントにして収益性を高めたいということだが,「市場が求める高品質の商品を効率良く生産し,効率よく大量に販売する(同書53ページ)」ことによって利益を得ることが得意な製造業にとっては,「大量のクライアント」はスキーム上のギャップ/アンバランスが存在する.

サービスシステムでは,システム/プロセス全体でのバランスの良さが求められる(同77ページ).お得意のITを駆使してもアンバランスは完全には解消できない.かえって中途半端で失敗するケースも多い.製造業のサービスイノベーションのジレンマの1つである.

製造業のサービスイノベーションを阻むもの(2)

2006年08月27日 | サービスサイエンス
製造業のサービスイノベーションを阻むものの1つに,製造業の組織や顧客のカルチャーのギャップがある.

Competing in a Service Economy: How to Create a Competitive Advantage Through Service Development and Innovation」(2003)の著者であるGustafssonJohnsonらは,「New Service Development and Innovation in the New Economy」(2000)という本の中でも,サービス事業化における「カルチャーと戦略」について述べている(この本は読みやすくお薦めである).

本書では,サービス事業化を次の4つのステップに分解している.
(1)サービスアイディア創造
(2)サービス戦略&カルチャーゲート
(3)サービス設計
(4)サービスポリシー展開&実装

さらに,「(2)サービス戦略&カルチャーゲート」に関しては,3つの戦略を示している.
(戦略1)シームレスシステム(会社全体でサービスを考えないとダメ)
(戦略2)モノ共有サービス(売るのではなくレンタルやリースのサービス)
(戦略3)モノ-サービス変換(モノをより効果的・効率的に使うためのサービス)

戦略3は,ユビキタスネットワークでモノの使用状況が低コストで収集可能になってきた時代において,製造業のサービス化の最も有望な方向性だが,製造業のビジネスプロセスや組織の変革が必要となる.

この変革に対する様々な抵抗をいかに乗り越えるかがポイントであろう.


製造業のサービスイノベーションを阻むもの

2006年08月02日 | サービスサイエンス
サービスの研究開発においても,研究開発の定番であるステージゲート法が援用できる.ステージゲートの生みの親であるRobert G. Cooperは著書「Product Development for the Service Sector: Lessons from Market Leaders」において,サービス研究開発におけるステージゲート管理の手順を詳細に述べている.サービス研究開発の具体的手順を示した文献は少ないので,参考になる.

ところで,GustafssonとJohnsonによる「Competing in a Service Economy: How to Create a Competitive Advantage Through Service Development and Innovation」では,サービスイノベーションのゲートして,「戦略,文化,組織に関するゲート」の重要性を指摘している(132ページ).すなわち,サービスのイノベーションを実現するためには,自社の戦略との親和性,顧客の文化との相性,組織的変革への対応力をチェックポイントとして検討する必要があるとしている.

製造業のサービスイノベーションにおいては,サービス企画自体の良し悪し以上に,上記のチェックポイントが肝ではないだろうか?

ちなみに,製造業のサービス業化に関しては,最新号のダイヤモンド・ビジネス・レビュー8月号に「製造業はスマート・サービスで進化する」という記事がある.ネットワークに接続された製品のモニタリングをベースに,問題が発生してしまう前に解決する「スマートサービス」を実現する4つのパターンを提示しており興味深い.

ここでも,製造業の「スマートサービスを阻むもの」として「製品中心の思考パターンとそれを助長する損益計算書である」に言及している.

製造業のサービスイノベーションを成功させるためには,組織のメンタルモデルの変革が不可避ということであろう.

サービスイノベーションのためのデザインシナリオライティング

2006年07月03日 | サービスサイエンス
サービスを「顧客と企業が一緒に価値を創造すること」と定義しても,言葉や概念の遊びでは意味がない.一緒に価値を創造する具体的イメージを示すことができるかがキーとなる.「商品企画のシナリオ発想術―モノ・コトづくりをデザインする」では,コト造りのためのデザインシナリオライティング手法を提案している.これは,一緒に価値を創造する「コト」を,小説風のシナリオでみずみずしく表現することで,顧客やモノやコトの関係を明確にし,関係者のコンセンサス形成や発想支援を行おうとするものである.ちなみに,著者の田中央氏は,「写ルンです」のコンセプトデザイナーである.

サービスのシナリオライティングは,「サービスの見える化」の1つの道具と考えることもできる.

製造業のサービスイノベーションと組織のハードル

2006年07月02日 | サービスサイエンス
製造業が,「モノ」を核にしたサービスイノベーションと行おうとする場合,魅力的なサービスの設計も重要であるが,実はもの造りに適応して形成された既存組織のハードルをクリアすることが大きな課題となる場合が多い.

W. Chan Kimの「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」では,組織の4つのハードルを示している.

(1)理解・認知のハードル(イノベーションを関係者に理解してもらう)
(2)経営資源のハードル(限りある経営資源でどうやるくりするか)
(3)従業員の士気のハードル(短期間でいかに士気を高めるか)
(4)社内政治のハードル(抵抗勢力への対応)

本の中では,ニューヨーク市警察を改革し短期間にニューヨーク市を安全な街に変えることに成功した市警本部長ビル・ブラットンの行動を例に説明している.製造業にとってサービス事業化は必然的にイノベーションであり,多かれ少なかれ組織のコンフリクトは発生する.事前にハードルを認識し,ビル・ブラットンのように戦略的に動くことが成功の条件であろう.


「コトづくり」はモノづくり企業のサービスイノベーション

2006年06月26日 | サービスサイエンス
元花王社長の常盤文克氏が執筆した「コトづくりのちから」では,「コトづくり」を「モノづくりに参加する人たち全員に夢やロマンのある旗印(目標や将来像)を明示し,その実現のためにみんなが奮い立ち,情熱を持って,力を合わせて働きたくなるような仕組みや仕掛け,システムを組み込むこと」と定義し,3つのタイプに分類している.

(1)大きな夢を描いて,これにみんなで果敢に挑戦するコトづくり
(2)仕事を川上から川下まで流れで捉え,社員と顧客とを結ぶコトづくり
(3)金銭より仲間と働く喜び,技術と人の温もりを大切にするコトづくり

スピードや効率を追求してきた従来の「モノづくり」から,モノを核にしつつ新しい価値を創造する「コトづくり」を目指そうというのが本書の主張であるが,企業と顧客が一緒になって新しい価値を生み出すための「コトづくり」は,モノづくり企業のサービスイノベーションと捉えることができる.特に,上記の(2)のパターンはその典型的な姿である.

検索ヒット数でみるサービスサイエンスの流行

2006年03月04日 | サービスサイエンス
検索エンジンgoogleにより,「サービスサイエンス」を検索した時のヒット数は,半年前から2百倍になっている.IBM基礎研究所シンポジウム情報処理学会シンポジウムなどで喧伝されたこともあり,日本においても一般的な知名度が高まってきた.ただ,まだまだ柔らかい概念であり,バズワード(buzzword)的に使われているケースも多い.

サービスサイエンス    
   157件(05/07/11) 
 30700件(06/03/04) 185倍
サービス工学       
   357件(05/07/11) 1.26倍
   449件(06/03/04)
サービスマーケティング 
  5100件(05/07/11) 
 34200件(06/03/04) 6.7倍

デジタルワークモデルとサービスイノベーション

2006年02月26日 | サービスサイエンス
「デジタルワークモデル」とは,2006年2月23日に開催された日経新聞主催のシンポジウム「世界情報通信サミット2006」のテーマである.情報通信技術,特にインターネットの普及により,ビジネスのコミュニケーションコストが大幅に小さくなったことで,企業における仕事の進め方が大きく変わるだろうという提言である.キーノートスピーチは,MITのトマス・マローン教授.講演内容は,次世代の分散型マネジメントを説いた彼の著書「フューチャー・オブ・ワーク」の内容から抜粋したものであった.

ところで,「デジタルワークモデル」とは抽象的な概念であるが,情報通信技術を活用した「テレワーク」「在宅勤務」「フリーアドレスの職場」が主催者/パネリストの共通のイメージのようであった(特に,通信事業者にとっては,テレワークによる通信マーケットの拡大を願っているというものである).この時,「デジタルワークモデル」の主な目的は社員の生産性/効率向上である.すなわち,デジタルワークモデル/分散型マネジメントにより,(1)社員のモチベーションと創造性を高め,(2)柔軟性と個性化を図るというものである.

確かに,社員の生産性/効率向上は重要である.しかし,そこには顧客の顔が直接的には見えてこない.マローン教授の講演では,顧客を巻き込んだ分散型マネジメントの事例として「イーベイ」が紹介されている.イノベーションの視点からは,「顧客を巻き込んだデジタルワークモデル」が重要であると思っている.サービスの定義を「顧客と提供者が一緒になって価値を創造すること」とするとき,顧客を巻き込んだデジタルワークモデルとは,まさに新しい時代(情報通信技術によりコミュニケーションコストが劇的に小さくなる時代)のサービスの形であり,サービスイノベーションである.

某パネリスト/コメンテーターのコメントにも似たような指摘があったが,デジタルワークモデルを,単なる「テレワーク」と捉えずに,サービスイノベーション/サービスサイエンスの視点で考えると面白いと思う.



サービスと情緒と形

2006年01月22日 | サービスサイエンス
サービスの課題(=サービスサイエンスの目的)は以下の3点である.
(1)サービスの定式化・計量化
(2)サービスの生産性・効率の向上
(3)サービスによる新しい価値の創造

グローバリゼーションは,全世界で共通する(と米国が主張している)価値尺度の導入である.それは,「お金」であり「論理」である.しかしながら,サービスによる価値は,国,地域,家族,個人によって異なる.特に,新しい価値の創造に関しては,世界中誰でも共通して欲しいものなど少なくなってきているのではないだろうか.数学者であり作家新田次郎の次男である藤原正彦の最新著作「国家の品格」では,「論理」や「お金」の限界と日本人が昔持っていた「情緒」と「形」の重要性を述べている.

「情緒」とは数学における「公理」のようなもので,論理的に価値が証明できるものではない.情緒は論理の出発点であり,国,地域,家族,個人によって異なるかもしれない.「情緒」のように,論理の出発点となる個別の公理系を「価値観」と総称するとすれば,「サービスによる新しい価値の創造」とは,今まで気がつかなかった個人ごとの「価値観の発見」が必要である.

しかしながら,「情緒」のようなフワフワしたものを取り扱うのは非常に難しい.そこで,「形」が必要となる.茶道,華道,拳法などでは,まずは形から入って,徐々に個人が価値観を発見していく.

サービスによる定式化・計量化においては,「論理」や「お金」の前に,「形」の考察が必要であり,長い歴史の中で洗練化されてきた茶道,華道,拳法の方法論が役に立つだろう.

サービスと特許力/技術力

2006年01月20日 | サービスサイエンス
2005年の米国特許取得数のランキングの発表があった.IBMは,ガースナー以降サービスに軸足を移しつつあることは周知のことだが,米国特許取得数の1位は,13年連続IBMとのこと.なぜ,IBMは特許を取得しつづけるのであろうか?サービスのような良し悪しのメトリクスが明確でない領域では,目に見えないところで技術力の差がジワジワと効いてくるということであろうか.

ディズニーランドの限界:サービスイノベーションの視点から

2005年11月06日 | サービスサイエンス
昨日,ディズニーランドに行ってきた.ディズニーランドは「サービス」の典型例であろう.しかし,たいへん混んでいたこともあり,5000円以上の入場料を取るディズニーランドに限界を感じた.

問題は,サービスがディズニーランドから入場者への一方的な価値の提供でしかない点である.特に,混んでいると一方的な価値の提供が必然的に薄くなり,5000円に見合う価値も薄れ不満が残る.

これからの時代のサービスは,亭主(ディズニーランド)と客人(入場者)によるインタラクティブな価値の協創がKFS(成功のカギ)になってくると筆者は思っている.

例えば,「遠州流茶道」では,一人の客人が遅れたとしても,到着を待つ間に他の客人が香を聞くというイベントを入れることで,「遅れてくれたことで香が聞けて本当によかった!」となるらしい.

いくら混んでいても,客人が「混んでて本当に良かった!」と思えるような,インタラクティブな仕掛けができるはずである.それを実現することが,サービスイノベーションであろう.

サービスサイエンスが成功するための3要件

2005年11月06日 | サービスサイエンス
米カリファルニア大学バークレー校のチェスブロー先生によると,サービスサイエンスがコンピュータサイエンス(計算機科学)のように1つの研究分野として確立するための3つの要件を挙げている(出典:DHBR6月号「サービスの科学」を拓く).

(1) 現象の規模(例:もはや計算機なしには社会が成り立たない)
(2) 共通基盤ツールの普及(例:PC,OS,ミドルウェア)
(3) 解決すべき壮大な難問の存在(例:ソフトウェア生産性の危機)

学際的学問分野として,過去にも「サイバネティクス」「システム科学」「安全工学」「複雑系」など数多く提唱されてきたが,計算機科学ほどステータスを確立できたものはない.よくあるパターンは,理系と文系の関係する先生を集めて学際的な大学院専攻を作ってはみたものの,実際はバラバラなことをやっていて,先生はともかく学生にとっては中途半端というケースである.

チェスブロー先生の指摘のように,これらの分野では上記の(1)(2)(3)が十分満たされていないように思える.

筆者は,学際的研究においては,(3)の「解決すべき課題」を起点とし,関係する学問が「協働」して解決するアプローチが不可欠だと思っている.

サービスサイエンスにおける重大な課題とは,
(1)製造業に比べて圧倒的に低い生産性の向上
   (プロセスイノベーション)
(2)脱工業化時代の経済成長のエンジンとしての責任
   (バリューイノベーション)
である.さて,サービスサイエンスは,計算機科学と同様のステータスを獲得できるだろうか?

参考文献:亀岡 秋男監修,「サービスサイエンス 新時代を拓くイノベーション経営を目指して」,エヌ・ティー・エス,2007.

サービスのハイプカーブとサービスサイエンス

2005年10月09日 | サービスサイエンス
製造業におけるサービスの重要性に関しては,1990年代後半にも「スマイルカーブ現象」の議論の中で叫ばれてきた.しかし,2000年にネットバブルが崩壊し,さらにトヨタやシャープのような勝ち組企業が「擦り合わせ型ものづくり」に機軸を置いていることもあり,昨今の「ものづくり回帰現象」の中でサービスの重要性に関する議論は少なくなったように思われる.しかしながら,ネットバブル崩壊後も地に足が着いた形で,製造業のサービスシフトは一歩一歩進んでいるのではないだろうか.その状況をハイプカーブで表すと添付の図のようになる.サービス・サイエンスはその着実な進化を学問分野としても認識し,地固めをしようという動きと見ることができる.

「サービスサイエンス」と「Multidisciplinary」

2005年09月04日 | サービスサイエンス
IBMの提唱している「サービスサイエンス」でも「Multidisciplinary」が必要という主張である.サービスサイエンスは,将来コンピューターサイエンスと同じような学問領域となるだろうという言い方もしている.ただ,「サイエンス」と言うと反発する自然科学者も多いようなので,最近はSSME(Servive Science, Management & Engineering)と呼んでいるようである.

「社会技術研究」における「Multidisciplinary」は,ある複雑な問題に対して,複数の分野が知恵を出し合って協働することで解決しようという立場であって,わかりやすかった.

一方,「SSME」は問題/課題ドリブンというより,問題解決のための汎用的なプラットフォームとしての学問領域を作ろうとしているように見え,問題設定があいまいな分,捕らえどころがない.

そこで,「SSME」が成功するためのポイントは以下の3点であると考える.

(1)まずは,サービスに関する重要課題に対して,問題/課題ドリブンで,複数の分野が知恵を出し合って協働(Multidisciplinary)し,具体的な成果を出すことを優先する.

(2)大規模な問題でも,それを「Single-Disciplinary」の問題に分解でき,独立に解決できるのであれば,わざわざ「Multi-Disciplinary」などと言う必要はない.もし協働のためにはシステマティックなインタラクションが不可欠で,そこで役立つ共通フレームワークが確立できれば,それはSSMEとなりうる.

(3)サービスの評価の最も重要な課題である.各部分に分割して評価し,それを積み上げて総合評価するという従来型のアプローチが通じない世界だとすれば,そこにSSMEの存在意義が出てくるだろう.