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社会人大学院で学ぶ技術経営

社会人大学院で技術経営を学びながら日々の気づきを書きとめてみます.

知識と実行のギャップと知識移転・継承の進め方

2006年10月09日 | 知識移転・知識継承
中国に「知行合一」という言葉があるが,「実行の伴わない知識は真の知識ではない」という考え方は,「知識経営」や「ナレッジマネジメント」の文脈では共通認識といっても良いと思う.

TV,書籍,セミナー,インターネット等で,様々な情報が容易に入手可能な時代になり,「知っている」ことは確実に多くなっている.しかしながら,「知っていること」が実行に結びつかないケースが多い.逆に,情報の少ない時代のほうが「まずはやってみよう」ということで,実行と結びつくことが多かったかもしれない.これは一種のパラドクスである.

この知識と実行のギャップを取り上げた本が「実行力不全 なぜ知識を行動に活かせないのか」である.

本書では,知識と実行のギャップが生まれる組織的な問題を,(1)計画偏重,(2)前例主義,(3)事なかれ主義,(4)評価の問題,(5)内部競争,の各視点で分析し,これらを解消して知識を実行に結びつける8つのガイドラインを示している.

知識移転,知識継承を推進する場合も,単に知識を伝えるだけでは実行が伴わず失敗する可能性が大きい.上記の「組織的な問題」をステークホルダー間で共通認識した上で,知識移転,知識継承のやり方を考えることが重要であろう.

サービスサイエンスはサイエンスか?

2006年10月03日 | サービスサイエンス
IEEE Computerの2006年8月号に「Services science: a new field for today's economy」という記事が掲載されている.

サービスサイエンスに関する議論の中に,「サービスサイエンスのどこがサイエンスなの?」というものがある.この記事の中で面白い言及があるので紹介したい.

マンチェスター大学のZhao先生は,「真にサイエンスである学問はサイエンスという名前は必要としない」,「名前の中にサイエンスを含む学問はサイエンスではない」と言っているとのこと.

確かに,コンピューターサイエンス,マネジメントサイエンス,サービスサイエンス,組織科学,ソーシャルサイエンス等々は,真のサイエンスではないけれど,サイエンス的,システム的な方法やツールを取り入れたいと頑張っている学問と言えるのかもしれない.


製造業における「カスタマーからクライアントへ」

2006年09月16日 | サービスサイエンス
近藤隆雄 著「新版 サービスマネジメント入門―商品としてのサービスと価値づくり」の73ページに「カスタマーからクライアントへ」という一節がある.

本書によると,カスタマーとは「企業にとって無名の存在,マス(大衆)の一構成員,統計的存在で,その取引は総計されてコンピューターのプリントアウトで表現される.また,カスタマーにサービスするのは,たまたま手の空いている従業員である」.

これに対して,クライアントは,「名前をもち,マスではなく個人として認識される.彼の要求は個別に受けとめられ,バックグラウンドのデータ,これまでの取引状況などがデータベースに記録される.対応する従業員は彼の要求に応えられる能力を備えた者,または特別に任命された者である.」

関係性マーケティングの視点からは,カスタマーをクライアントにして収益性を高めたいということだが,「市場が求める高品質の商品を効率良く生産し,効率よく大量に販売する(同書53ページ)」ことによって利益を得ることが得意な製造業にとっては,「大量のクライアント」はスキーム上のギャップ/アンバランスが存在する.

サービスシステムでは,システム/プロセス全体でのバランスの良さが求められる(同77ページ).お得意のITを駆使してもアンバランスは完全には解消できない.かえって中途半端で失敗するケースも多い.製造業のサービスイノベーションのジレンマの1つである.

製品開発のジレンマとイノベーション

2006年09月09日 | 研究開発マネジメント
神戸大学教授の延岡健太郎著「製品開発の知識」(第8章)では,製品開発のジレンマ(矛盾,二律背反)についていくつかのパターンを整理している.

(1)コア技術戦略に見る自由と規律のジレンマ
(2)マスカスタマイゼーションに見るコストと付加価値のジレンマ
(3)部門横断プロジェクトに見る専門性と組織統合とのジレンマ
(4)開発パートナーとの関係に見るオープン化と信頼構築のジレンマ

延岡は,これらのジレンマ/矛盾/二律背反を高度な視点から解決できる組織能力の重要性を強調している.ジレンマ/矛盾/二律背反を新しい視点から解消することがイノベーション(=Aufheben(アウフヘーベン))の基本的構図と見ることもできる.

製造業のサービス事業化においても,同様の二律背反を解消しなければならず,その解消がサービスイノベーションであろう.

プロジェクト知識の移転・継承は暗黙的で難しい

2006年08月30日 | 知識移転・知識継承
研究開発や製品開発における知識移転・継承の実証研究は多い.

しかし,その多くは技術や製品に関する知識を扱っており,研究開発や製品開発プロジェクトを成功させるための知識は扱っていなかった.

青島・延岡は文献「プロジェクト知識のマネジメント」(組織科学,31(1), 20-36 (1997))で,「プロジェクト知識」を定義し,その移転・継承について考察を行っている.

プロジェクト知識とは,プロジェクトの推進の中で創造される知識である.青島・延岡は,プロジェクト知識を「システム知識」/「過程知識」×「製品・技術」/「組織」の4象限で分類・整理した.

プロジェクト知識は暗黙的であり,プロジェクト間の移転・継承が難しい.青島・延岡の自動車産業での実証研究では,プロジェクト知識の移転・継承のためには,
(1)プロジェクト間の人的移転
(2)複数のプロジェクトをオーバーラップさせる
の2つが有効であると述べている.

青島・延岡の研究は,どちらかと言えば,自動車の新機種開発のように「成功させなければならないプロジェクト(=成功確率が高い)」が対象であったが,研究開発の場合は,自動車開発のように成功確率は高くない.その場合,プロジェクト知識やその移転・継承に何か違いがあるだろうか?

今後の研究課題の1つであろう.



製造業のサービスイノベーションを阻むもの(2)

2006年08月27日 | サービスサイエンス
製造業のサービスイノベーションを阻むものの1つに,製造業の組織や顧客のカルチャーのギャップがある.

Competing in a Service Economy: How to Create a Competitive Advantage Through Service Development and Innovation」(2003)の著者であるGustafssonJohnsonらは,「New Service Development and Innovation in the New Economy」(2000)という本の中でも,サービス事業化における「カルチャーと戦略」について述べている(この本は読みやすくお薦めである).

本書では,サービス事業化を次の4つのステップに分解している.
(1)サービスアイディア創造
(2)サービス戦略&カルチャーゲート
(3)サービス設計
(4)サービスポリシー展開&実装

さらに,「(2)サービス戦略&カルチャーゲート」に関しては,3つの戦略を示している.
(戦略1)シームレスシステム(会社全体でサービスを考えないとダメ)
(戦略2)モノ共有サービス(売るのではなくレンタルやリースのサービス)
(戦略3)モノ-サービス変換(モノをより効果的・効率的に使うためのサービス)

戦略3は,ユビキタスネットワークでモノの使用状況が低コストで収集可能になってきた時代において,製造業のサービス化の最も有望な方向性だが,製造業のビジネスプロセスや組織の変革が必要となる.

この変革に対する様々な抵抗をいかに乗り越えるかがポイントであろう.


製造業のサービスイノベーションを阻むもの

2006年08月02日 | サービスサイエンス
サービスの研究開発においても,研究開発の定番であるステージゲート法が援用できる.ステージゲートの生みの親であるRobert G. Cooperは著書「Product Development for the Service Sector: Lessons from Market Leaders」において,サービス研究開発におけるステージゲート管理の手順を詳細に述べている.サービス研究開発の具体的手順を示した文献は少ないので,参考になる.

ところで,GustafssonとJohnsonによる「Competing in a Service Economy: How to Create a Competitive Advantage Through Service Development and Innovation」では,サービスイノベーションのゲートして,「戦略,文化,組織に関するゲート」の重要性を指摘している(132ページ).すなわち,サービスのイノベーションを実現するためには,自社の戦略との親和性,顧客の文化との相性,組織的変革への対応力をチェックポイントとして検討する必要があるとしている.

製造業のサービスイノベーションにおいては,サービス企画自体の良し悪し以上に,上記のチェックポイントが肝ではないだろうか?

ちなみに,製造業のサービス業化に関しては,最新号のダイヤモンド・ビジネス・レビュー8月号に「製造業はスマート・サービスで進化する」という記事がある.ネットワークに接続された製品のモニタリングをベースに,問題が発生してしまう前に解決する「スマートサービス」を実現する4つのパターンを提示しており興味深い.

ここでも,製造業の「スマートサービスを阻むもの」として「製品中心の思考パターンとそれを助長する損益計算書である」に言及している.

製造業のサービスイノベーションを成功させるためには,組織のメンタルモデルの変革が不可避ということであろう.

サービスイノベーションのためのデザインシナリオライティング

2006年07月03日 | サービスサイエンス
サービスを「顧客と企業が一緒に価値を創造すること」と定義しても,言葉や概念の遊びでは意味がない.一緒に価値を創造する具体的イメージを示すことができるかがキーとなる.「商品企画のシナリオ発想術―モノ・コトづくりをデザインする」では,コト造りのためのデザインシナリオライティング手法を提案している.これは,一緒に価値を創造する「コト」を,小説風のシナリオでみずみずしく表現することで,顧客やモノやコトの関係を明確にし,関係者のコンセンサス形成や発想支援を行おうとするものである.ちなみに,著者の田中央氏は,「写ルンです」のコンセプトデザイナーである.

サービスのシナリオライティングは,「サービスの見える化」の1つの道具と考えることもできる.

製造業のサービスイノベーションと組織のハードル

2006年07月02日 | サービスサイエンス
製造業が,「モノ」を核にしたサービスイノベーションと行おうとする場合,魅力的なサービスの設計も重要であるが,実はもの造りに適応して形成された既存組織のハードルをクリアすることが大きな課題となる場合が多い.

W. Chan Kimの「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する」では,組織の4つのハードルを示している.

(1)理解・認知のハードル(イノベーションを関係者に理解してもらう)
(2)経営資源のハードル(限りある経営資源でどうやるくりするか)
(3)従業員の士気のハードル(短期間でいかに士気を高めるか)
(4)社内政治のハードル(抵抗勢力への対応)

本の中では,ニューヨーク市警察を改革し短期間にニューヨーク市を安全な街に変えることに成功した市警本部長ビル・ブラットンの行動を例に説明している.製造業にとってサービス事業化は必然的にイノベーションであり,多かれ少なかれ組織のコンフリクトは発生する.事前にハードルを認識し,ビル・ブラットンのように戦略的に動くことが成功の条件であろう.


「コトづくり」はモノづくり企業のサービスイノベーション

2006年06月26日 | サービスサイエンス
元花王社長の常盤文克氏が執筆した「コトづくりのちから」では,「コトづくり」を「モノづくりに参加する人たち全員に夢やロマンのある旗印(目標や将来像)を明示し,その実現のためにみんなが奮い立ち,情熱を持って,力を合わせて働きたくなるような仕組みや仕掛け,システムを組み込むこと」と定義し,3つのタイプに分類している.

(1)大きな夢を描いて,これにみんなで果敢に挑戦するコトづくり
(2)仕事を川上から川下まで流れで捉え,社員と顧客とを結ぶコトづくり
(3)金銭より仲間と働く喜び,技術と人の温もりを大切にするコトづくり

スピードや効率を追求してきた従来の「モノづくり」から,モノを核にしつつ新しい価値を創造する「コトづくり」を目指そうというのが本書の主張であるが,企業と顧客が一緒になって新しい価値を生み出すための「コトづくり」は,モノづくり企業のサービスイノベーションと捉えることができる.特に,上記の(2)のパターンはその典型的な姿である.