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社会人大学院で学ぶ技術経営

社会人大学院で技術経営を学びながら日々の気づきを書きとめてみます.

因果関係を2次元のグラフで表示するためのツール

2006年05月08日 | その他
マネジメントにおけるイベントの因果関係を2次元のグラフで表示するためのツールを探していたが,AT&Tで開発されたGraphviz(Graph Visualization Software)という汎用のグラフ表示ツールの存在を知った.

ここでのグラフは,ノードとエッジから構成されるいわゆるグラフ理論におけるグラフ/ネットワークのこと.単純にノードとノードを直線で結ぶとエッジやノードが重なって見難くなってしまうので,いかに見易くレイアウトするかがポイント.Graph Drawingアルゴリズムに関しては,昔から研究が為されているが,技術の進歩は素晴らしく,本ツールではパワーポイントで自分で苦労して絵を書く以上に美しいグラフが描画できる(図参照).

ちなみに,日本語も使える.詳しくは日本語によるGraphviz チュートリアル サイトが参考になる.


「ウィニー」による情報流出事件と2014年のグーグルゾン

2006年03月12日 | 技術経営
昨今,「ウィニー」による企業や官公庁の情報流出事件が大きな社会的問題になっている.「ウィニー」による問題は昔からあったわけだが,今回は私物パソコンで業務を行うことを禁止するという措置が広がっている.

問題はパソコンのハードディスクに重要な情報が格納されている点であり,根本的な解決は「ハードディスクのないパソコン(thin client)」であろう.ハードディスクの情報は,セキュリティ管理が厳重になされたサーバーに集中管理され,ブロードバンドネットワークを通じて都度アクセスする.具体例には,日立のセキュアクライアントソリューションやHPのディスクレスPCなどがある.

しかし,すべての企業がモバイルPCの情報に関して自社のサーバーで集中管理するのは現実には困難である.また,個人の情報もバックアップが面倒な自分のPCではなく,どこかで集中管理して欲しいというニーズが高まると思われる.

では,あらゆる企業や個人のPCの情報を集中管理するようなサービスを誰が提供するのであろうか?それは,「グーグルゾン」かもしれない.

「グーグルゾン」とは,米国メディアの将来を予測する短編映像「EPIC2014」に登場する架空の企業であるが,Web上でも様々な解説があるので興味のある方は検索エンジンでチェックしていただきたい.

「グーグルゾン物語」では,グーグルとアマゾンが合併したグーグルゾンが既存メディアを駆逐するという話だが,ブログの延長上で自分のすべての情報を信頼できるセンターで確実に保存して欲しいという今後ますます強まるニーズに,グーグルゾンが答えないことはないだろう.

さらに,グーグルゾンのみがいったんWeb上に流出した情報を抹殺することを可能とする.つまり,グーグルゾン検索エンジンでヒットしないようにコントロールできるのだ.

知識移転と知識継承の違い

2006年03月06日 | 知識移転・知識継承
「知識移転」と「知識継承」の定義を整理してみよう.

知識移転(Knowledge Transfer)とは,送り手の頭の中にある知識を受け手の頭の中に再構築することである.ここで,知識の再構築とは,単に情報として知っているだけではなく,知ったことが具体的な行動として実行できるレベルまで内面化されることを意味する.ここで,受け手と送り手は,共通の組織に属する場合もあるし,異なる組織の場合もあるだろう(会社間で知識を移転する場合など).「場」の共有の程度によって知識移転の方法論も変わってくる.

知識継承(Knowledge Retention)とは,同じ組織における組織的な知識の継続的な保持を意味する.知識継承は,同じ組織における知識移転を含んでいるが,知識移転に加えて,組織的な人材育成,定常的な知識管理インフラ,さらには知識の復旧も含まれる(出典:
Lost Knowledge: Confronting the Threat of an Aging Workforce
).

すなわち,知識移転と知識継承は包含関係にはない.両者のANDに位置するのが「(場を共有を前提にできる)同じ組織における知識移転」である.この場合は,すべてを形式知化するという労力は必ずしも必要ではなく,形式知化して移転する知識と暗黙知のまま移転する知識の最適なバランスが成功のカギとなる.




ステージゲート法の日本企業における利用状況

2006年03月05日 | 研究開発マネジメント
社会経済生産性本部の技術経営研究センターでは,「日本企業のR&D生産性向上のマネジメントに関する取組状況」という調査レポートを2003年に出している.

この中で,日本企業におけるステージゲート法あるいはPACE法の活用状況のアンケート結果が紹介されている.そこでは,製造業189社のうち26社が現在導入しているとの結果.しかしながら,多くは食品,パルプ・紙,衣料・繊維,化成分であり,電機メーカーは関心はあるものの導入しているところは少ないようである.

「多産多死による絞込み型ステージゲート法は電機メーカーにはフィットしないのではないか」というのが筆者の仮説である.すなわち,ユーザ志向の研究開発プロジェクトの場合,ムービングターゲットに追随して研究開発内容も変化する.プロジェクトが成功するかどうかのカギは変化追従性であり,各ゲートでプロジェクトを取捨選択するというより,ゲートで方向を修正するということが実態なのではないだろうか.

ところで,医薬品メーカーは,フィットしそうな気がするのだが,調査対象企業(12社)では導入されていない.これは,何故なのだろうか.機会があればヒアリングしてみたい.


検索ヒット数でみるサービスサイエンスの流行

2006年03月04日 | サービスサイエンス
検索エンジンgoogleにより,「サービスサイエンス」を検索した時のヒット数は,半年前から2百倍になっている.IBM基礎研究所シンポジウム情報処理学会シンポジウムなどで喧伝されたこともあり,日本においても一般的な知名度が高まってきた.ただ,まだまだ柔らかい概念であり,バズワード(buzzword)的に使われているケースも多い.

サービスサイエンス    
   157件(05/07/11) 
 30700件(06/03/04) 185倍
サービス工学       
   357件(05/07/11) 1.26倍
   449件(06/03/04)
サービスマーケティング 
  5100件(05/07/11) 
 34200件(06/03/04) 6.7倍

デジタルワークモデルとフロネシス

2006年02月26日 | 技術経営
「デジタルワークモデル」において,MITトマス・マローン教授の分散型マネジメントを実行するとき,形式知化できない暗黙的なビジョンや文脈/場や経験的知識をいかに共有するかが大きな課題である.

世界情報通信サミット2006では,「暗黙的なものでも高精細なテレビ会議で伝わるでしょう」あるいは「暗黙知は情報通信技術(ICT)の範疇でない」という印象で,真正面から取り組もうという姿勢は見えなかった.

筆者は,デジタルワークモデルの「設計」という意味では,ICTシステム系の設計と同じ比重で仕組み系の設計をしっかりすべきだと考える.特に,小手先や表層的な暗黙知ではなく,「高質な暗黙知=フロネシス」を共有する仕組みが重要である.

トマス・マローン教授の視点では,「フロネシス」は「フューチャーオブワーク」の最終章「価値観を中心に据えたビジネス(Putting Human Values at the Center of Business)」に書かれている価値観とも符合する.

例えば,明治維新の志士はわずか1年間の松下村塾で「フロネシス」を共有し,その後の行動基準になった.想像だが,戦前の旧制高等学校も「フロネシス」を共有する場だったのかもしれない.

野中・遠山論文「フロネシスとしての戦略」では,企業経営を読み解く上でのフロネシスの重要性を説いているが,フロネシスの共有化の方法論/設計論に関しては言及していない.

「デジタルワークモデルにおけるフロネシス共有の設計論」は大きく困難なリサーチクエスチョンである.

デジタルワークモデルとサービスイノベーション

2006年02月26日 | サービスサイエンス
「デジタルワークモデル」とは,2006年2月23日に開催された日経新聞主催のシンポジウム「世界情報通信サミット2006」のテーマである.情報通信技術,特にインターネットの普及により,ビジネスのコミュニケーションコストが大幅に小さくなったことで,企業における仕事の進め方が大きく変わるだろうという提言である.キーノートスピーチは,MITのトマス・マローン教授.講演内容は,次世代の分散型マネジメントを説いた彼の著書「フューチャー・オブ・ワーク」の内容から抜粋したものであった.

ところで,「デジタルワークモデル」とは抽象的な概念であるが,情報通信技術を活用した「テレワーク」「在宅勤務」「フリーアドレスの職場」が主催者/パネリストの共通のイメージのようであった(特に,通信事業者にとっては,テレワークによる通信マーケットの拡大を願っているというものである).この時,「デジタルワークモデル」の主な目的は社員の生産性/効率向上である.すなわち,デジタルワークモデル/分散型マネジメントにより,(1)社員のモチベーションと創造性を高め,(2)柔軟性と個性化を図るというものである.

確かに,社員の生産性/効率向上は重要である.しかし,そこには顧客の顔が直接的には見えてこない.マローン教授の講演では,顧客を巻き込んだ分散型マネジメントの事例として「イーベイ」が紹介されている.イノベーションの視点からは,「顧客を巻き込んだデジタルワークモデル」が重要であると思っている.サービスの定義を「顧客と提供者が一緒になって価値を創造すること」とするとき,顧客を巻き込んだデジタルワークモデルとは,まさに新しい時代(情報通信技術によりコミュニケーションコストが劇的に小さくなる時代)のサービスの形であり,サービスイノベーションである.

某パネリスト/コメンテーターのコメントにも似たような指摘があったが,デジタルワークモデルを,単なる「テレワーク」と捉えずに,サービスイノベーション/サービスサイエンスの視点で考えると面白いと思う.



ビジネスエスノグラフィーとフィールドマイニング

2006年02月05日 | 技術経営
shiba blogで,サービスサイエンスと関係して議論が盛り上がってる「ビジネス・エスノグラフィー」は,「(ビジネス)データマイニング」との対比で興味深い.

データマイニングは,「BI(ビジネスインテリジェンス)」のツールとして注目されているが,仮説もないままデータをいくら機械的にホジクリ返しても,イマイチの結果しか得られないことが多い.有名なセブンイレブンの場合は,オペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC)が,日々の業務体験の中から自らの経験と直観で仮説を作り,それをデータで検証することで成功している.

一方,物理や化学のように仮説がデータで検証されることによって永遠の真理になるということでもない.仮説は,日々変わってもかまわない.ここでは,「役立つものが真実である」というプラグマティズムの立場を採っている.

ビジネス・エスノグラフィーに興味を覚えるのは,対象を「データ」に置き換えた段階で何か重要なものが失われているからだ.客観的なデータにより新しい気づきを得ることも多いが,データにならない(時には暗黙的な)知識をどのように伝えるかに関して,社会学のエスノグラフィーが有効な手法となるのではないだろうか?

大阪大学の松村研究室では「フィールドマイニング (FIELDMINING)」を提唱している.これは,フィールド(現場)で起こっていることを記憶/記録し,計算機と人,人と人との相互作用によって理解し,フィールドのデザインに生かすというアプローチで,手法として「デジタルエスノグラフィー」 という言葉も出てくる.

我々も,現場からの知識(形式知/暗黙知)の形成&検証において,データ/テキストマイニングだけでなくエスノグラフィーの手法も活用することで,より深いBI(ビジネスインテリジェンス)に繋げていきたいと思っている.




フロネシスとマネジメントとコーラス

2006年01月31日 | 知識移転・知識継承
ケイ・ポラック監督の映画「歓びを歌にのせて」はスウェーデンの田舎町の聖歌隊の物語である.映画では,自分の主観/価値観をお互いにぶつけ合う中で,ハーモニーが生まれてくる.主人公であるコーラスの指揮者ダニエルは,ファシリテーターであるとともに主観/価値観をぶつけあうメンバーの1人でもある.最後の場面では,コンサートに指揮者が病気で倒れて参加できない中で,皆が「心の声」を聞いてコーラスが始まる.

この「心の声」は,アリストテレスの3つの「知識」の1つである「フロネシス(実践的知識=高質の暗黙知)」に通じる.「フロネシスとしての戦略」は,一橋ビジネスレビューの論文.各自が全体の状況を見通し,何か最善かを判断し実行する.さらに各自の判断が全体として調和している.それをファシリテートするのが指揮者である.

この「フロネシス」は,MITトマス・マローン教授の提唱するIT社会のワークスタイル「〈命令と管理〉から〈調整と育成へ〉」でも不可欠な「知識」であろう.


サービスと情緒と形

2006年01月22日 | サービスサイエンス
サービスの課題(=サービスサイエンスの目的)は以下の3点である.
(1)サービスの定式化・計量化
(2)サービスの生産性・効率の向上
(3)サービスによる新しい価値の創造

グローバリゼーションは,全世界で共通する(と米国が主張している)価値尺度の導入である.それは,「お金」であり「論理」である.しかしながら,サービスによる価値は,国,地域,家族,個人によって異なる.特に,新しい価値の創造に関しては,世界中誰でも共通して欲しいものなど少なくなってきているのではないだろうか.数学者であり作家新田次郎の次男である藤原正彦の最新著作「国家の品格」では,「論理」や「お金」の限界と日本人が昔持っていた「情緒」と「形」の重要性を述べている.

「情緒」とは数学における「公理」のようなもので,論理的に価値が証明できるものではない.情緒は論理の出発点であり,国,地域,家族,個人によって異なるかもしれない.「情緒」のように,論理の出発点となる個別の公理系を「価値観」と総称するとすれば,「サービスによる新しい価値の創造」とは,今まで気がつかなかった個人ごとの「価値観の発見」が必要である.

しかしながら,「情緒」のようなフワフワしたものを取り扱うのは非常に難しい.そこで,「形」が必要となる.茶道,華道,拳法などでは,まずは形から入って,徐々に個人が価値観を発見していく.

サービスによる定式化・計量化においては,「論理」や「お金」の前に,「形」の考察が必要であり,長い歴史の中で洗練化されてきた茶道,華道,拳法の方法論が役に立つだろう.