さいたま市の荒川河川敷にある,田島ヶ原サクラソウ公園に行ってきた。片道70キロ,久しぶりの長距離ドライブだった,
この公園には全国で唯一の,特別天然記念物のサクラソウ自生地があり,約4ヘクタールの草原が保護されている。自生地草原全体が特別天然記念物として指定されているため,草原を維持するのに必要な最小限の1月に行われる火入れ(野焼き)以外は人為的な加工は行われない。外来種の除去はその例外である。
わたしは35年ほど前に約5年間,当時の浦和市の依頼でサクラソウ自生地の調査を行った。仕事としてはサクラソウのライフサイクルの記述と,受粉・種子生産の調査だった。仕事が終わった後も,ほぼ毎年この地を訪れていたが,しばらく中断していて,3年ぶりの訪問だった。
新聞などで報道されていたが,サクラソウ集団の衰退は著しく,ノウルシのようなニッチを同じにするほかの種に押されて,気息奄々の状態である。わたしが調査に行っていた当時からこのことは危惧され,ノウルシの除去などが提案されていたが,上に述べた事情で草原に人為的な改変を加えることがためらわれ,依然として手をこまねいている状態らしい。もうひとつ当時わたしが指摘したのは,訪花昆虫が極めて少なく種子生産が貧弱だということである。サクラソウは地下茎で繁殖するが,クローンの更新には種子からの発芽個体が必要である。この点もまだ解決はしていないようだ。
さいたま市ももちろん危機感を抱き,専門家を交えた対策委員会を発足させるようで,その成果に期待したい。競合種の抑制のような人為的な干渉を行うか,このまま放置してサクラソウの推移を見守るか,岐路に立っている。
田島ヶ原草原の保護区。
ほかの種に押されて気息奄々のサクラソウ。
10年くらい前から現れた白色花の株。残っていた。
この公園では,珍しくカントウタンポポが自生している。