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ブログ版 シュプリッターエコー

ある女性日本画家の仕事

2006-11-11 20:10:53 | 美術
夏のある日、海に近い美術館にて遭遇する。

彼女の名は陳進(ちんしん)。まだ日本の統治下にあった台湾生まれの日本画家である。
彼女の作品には柔らかな頬をもつ美しい女性が多く描かれている。絵の中の女性が纏う中国服からは、しっとりとしてコシのある艶やかなシルクの滑らかさやその上に施された刺繍の繊細な厚みまでもが触れずして感じられる。ベッドの天蓋から下がるシフォンの布は空気を孕み、まるで重さを忘れたかのようにゆったりと描かれている。
見学者は、ただそれらの絵に視線を向けるだけで穏やかな昼間の温かい光を共有することができるのである。

そんな作品の中にあって
雄雄しく空に向かって茎を伸ばし、葉を広げ立ち上がる花の群があった。

その花は『菊』(1972年制作)

そこには他の絵のような淡い色合いも豊かな余白もない。画面の半分以上を占める茎や葉は黒々とした緑。黄色い花は空を掴むかのように開かれ、青空はその色を画面の上部に僅かに残しているだけなのである。

力強い生命力。命の叫び。花々はいつしか、踏ん張った足でしっかりと地に立ち上がり天に向かって手を突き上げる人々の姿にみえた。

この作家にとって、時代は決して穏やかではなかったはずである。もしかしたらこの絵は、優雅な画風の彼女が発した一つの決意だったのかもしれない。




2006年6月3日~7月23日@兵庫県立美術館「台湾の女性日本画家 生誕100年記念 陳進 展」より

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2 コメント

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Unknown (泣き虫さん)
2006-11-15 13:47:06
 とりわけ布の描写がきれいですね。私は布地がなかなかうまく書けませんので、うらやましいです。
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Unknown (クラクラ)
2006-11-19 23:16:50
決してきらびやかな訳ではなく
落ち着いた物腰。
台湾人かもしれないけれど
昔の日本女性を観る
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