songbookの自己回顧録

「教えて!goo」で見つめてきた自分自身と、そこで伝えられなかったことを中心につづってきましたが、最近は自由なブログです

長谷川町子先生を偲んでいます

2013-11-30 06:23:25 | ライフ
 最近私の個人的な評価が激しく落ちつつある(ごめんなさい)フジテレビですが、長谷川町子さんの生涯をドラマで振り返る、というので、とりあえず見たくなりました。

 内容は、「サザエさん打ち明け話」をそのままなぞったような形で、入門編というべき、さわりだけをつなげたドラマでした。
ドラマが始まって5分ほどで、そう気づき、ややがっかりしました。

 何と言っても、「マー姉ちゃん」をリアルで見てきた世代です。
 あの名曲で始まるオープニング。もう記憶にも残っていないところが多くなったけど、とにかくあのドラマはキラキラしていて、いつも心を爽やかにしてくれたことを覚えています。前に記事にも書きましたが、「サザエさん打ち明け話」も紙に穴が開くほど読み、深く感銘を受けたことを覚えています。
 後に朝日新聞社編集の「サザエさん思い出記念館」という本を読む機会があり、若いころの町子さんが本当に田中裕子さんにそっくりで、お姉さんの毬子(まりこ)さんが、全く熊谷真美さんそのものの顔だったことがわかって驚きました。そしてあの名作「マー姉ちゃん」のビデオが、NHKに一切残っていないということを知ってさらにびっくり!!1979年ですから、同時期に放送されていたTBSの「ザ、ベストテン」「8時だョ!全員集合」あたりはしっかりと残っているというのに。
 聞けば当時はビデオテープが非常の高価で、テレビ局内でも、撮って、しばらくしたら、同じテープに上乗せして撮って、の使いまわしだったそうです。庶民にとっても家庭用ビデオテープの普及には、あと2年ほどを待たなくてはなりませんでした。

 家庭用ビデオがないわけではなかったのですが、お金持ちの娯楽製品だった時代で、私の記憶では一般家庭にベータ、VHSが普及するようになったのは1983年以降だったと思います。「マー姉ちゃん」が残っていないことが大変に残念です。

 話のそらしついでに、今から思えば、「マー姉ちゃん」というドラマの魅力は、それまでの朝ドラにはない、「軽快な明るさ」が根底に流れていたことでした。重い話、悲しい話もふんだんに織り込まれていたのに、すべては必要以上に深刻に、オーバーに語らず、淡々と、粛々と語られていました。「軽薄短小」という言葉が否定的に扱われていた70年代に別れを告げ、まさにその後のフジテレビ躍進の80年代のテーマを暗示していたかのようなドラマでした。(NHKでしたけどね)

 …話を戻します。
 今回のフジテレビの3時間ドラマは、それに比べると、新鮮さも少なく、フジにしては珍しく適度な重さがあってストーリーのテンポも悪い。
 決して満点の出来ではないのですが、でも、不思議と好感が持てました。

 それほど制作予算も多くなさそうなドラマでありながら、スタッフの、長谷川町子さんに対する尊敬、尊重の意志が強く伝わってきて、町子先生の作品を細かに読みつくしているという「わかる人にはわかる」こだわりが随所に見られたのです。愛情にあふれた、大変良心的なドラマだと感じました。
 むしろ、フジテレビが、この30年間のフジテレビのノリ、軽さ、悪ふざけに別れを告げ、これからの時代を暗示するかのような誠実さを感じたのです。

 尾野さんの演技の丁寧さに、まず惹かれました。
 さりげなくとっているポーズの多くが、「サザエさん思い出記念館」などに収録されている町子先生のポーズを意識しているもので、スタッフによる指示、指導が数多くあったであろうことが想像されます。

 「サザエさん打ち明け話」に出てくる言い回しを、ナレーションにそのまま使っていたことも好感が持てました。
 そうです、今の世代は、「マー姉ちゃん」を知らない世代がかなり多いのですから、そういう世代に向けて、あの本の言葉をそのまま伝えることは必要なのではないかと思えるのです。私たちにとっては物足りないけれど、やはり知っていてもらいたいから、今回はこのぐらいの、基本線を提示すればよかったのだろうと思います。

 また個人的には、海老蔵さんのご出演も素晴らしかったです。
 正直、「海老蔵さん、顔つきが変わったな」と感じました。それは単に演技によるものだけではなく、生身の「祖父」を演じることに対する思いでもあったのでしょう。
 長谷川町子さんの目から感じられた海老蔵(9代目)と、現在の11代目が思い描く祖父の海老蔵がクロスしていて、得も言われぬ魅力的な一幕でした。
 
 いろいろ取りざたされた現在の11代目海老蔵さんですが、本当に、人間が変わったみたいに素晴らしい一幕を見せてもらって、私、いい歳したおじさんですが、心からしびれました。


 こんな、心温まる、おそらく掛け値なしの良心的なドラマが作れるのですから、まだまだフジテレビには素晴らしい人材がいるのだと思われます。
 近年、80年代以降のマイナス面ばかりが膨らみ、質の低下、先見性のなさがとみに気になるフジテレビですが、次の時代を担う人材とヒントが、こんなところで小さく主張していることに、上層部は気づいてほしいですね。