原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

人事訴訟手続について

2011-04-26 | 民訴法的内容
昨日,「書けたら書きます」としたところを早速。調停前置など離婚事件を素材にした話は3月27日付けの記事で書いていますので,ここでは(調停や審判は飛ばして)人事訴訟手続の話を。短答の出題傾向に即して,民事通常訴訟と比較しながらいきます。

…その前に,前提の確認ですが,人事訴訟法の対象は要は身分関係訴訟(婚姻関係事件,実親子関係事件,養親子関係事件など)で,人事訴訟法は民訴法の特別法です。人事訴訟法に規定のないところは民訴法の規定に従います。以下,短答に出題されそうな点(民事通常訴訟と相違する点)を中心にポイントだけざっと書いていきます。

1.管轄(調停係属裁判所の自庁処理と関連損害賠償請求訴訟)

調停係属裁判所の自庁処理とは,例えば,離婚調停をやった家庭裁判所は,人事訴訟の管轄がなくても,その後の訴訟においても管轄があるという規定です(6)。当事者の便宜を図る規定です。試験的な重要度はあまり高くないかな。

なお,確認ですが,人事訴訟は地裁ではなく,家裁が管轄を有します(2)。とすると,離婚の訴えと離婚の原因となった不貞行為に基づく慰謝料請求の訴えを提起しようとすると,前者は家裁の管轄,後者は地裁の管轄ということになります。そして,前者は通常民事の損害賠償請求事件で,後者は人事訴訟事件ですので,「同種の事件」ではないので,原則的には弁論の併合はできません。しかし,これは不便であるので,人事訴訟に関連する損害賠償事件は例外的に併合して,家裁で全部やることができます(17)。これは重要な規定ですので,チェックを。

2.参与員

国民の良識を人事訴訟に反映させるためです。ただ,「必要があると認めるとき」は,「意見を聴くことができる」というものです(9)。この制度,平成13年の司法制度改革審議会の意見書に基づいて制度化されたもので,要するに,裁判員制度やLS制度と同じ流れで制度化されたものです(ここは出ないでしょう)。

3.当事者適格

一定の場合に,検察官が公益を代表して(国の代理人ではない)当事者になるということをまず知っておき,利害関係人に対する参加命令制度(15)がることも押さえてください。人事訴訟は身分関係を扱うので,当事者が死亡すれば当然に終了するのが原則なのですが(27),嫡出否認の訴えのように相続など後続の財産的問題に影響がある場合もあり,こういった場合は検察官が訴訟を追行することになります。で,その時に,検察官は事情がわからないんですよね。赤の他人ですから。だから,親族などの利害関係人を強制参加させることができるのです。この理屈を押さえておけば対応できると思います。

4.訴訟能力

身分関係なので,制限能力者であっても,意思能力がある限り訴訟能力を有します(13)。だから,未成年者でも完全な訴訟能力があります。

5.弁論主義・処分権主義の排除

これが一番重要です。人事訴訟は弁論主義に基づく形式的真実主義を追求するのではなく,実体的真実主義を追求する性質です。弁論主義や(そこから派生する)自白法則の適用は排除されています(19)。時期に遅れた攻撃防御方法の却下の規定,擬制自白の規定は排除されています。これは,「弁論主義・処分権主義の排除」という抽象論ではなく,「時期に遅れた攻撃防御方法の却下はない」という具体論で出てくる可能性が高いです。要は,弁論主義などに根拠を持つ規定は排除されるのだ,という考え方を押さえてください。

弁論主義が排除される結果,職権探知主義となります(20)。裁判所は,職権で証拠調べが出来,当事者が主張しない事実も斟酌することができます。

また,人事訴訟の非処分性から,処分権主義を前提とする,請求の放棄・認諾,訴訟法上の和解はできません(19)。ただ,これには重要な例外があって,それは「離婚・離縁」です。なぜかといえば,そもそも協議離婚ができるので,離婚・離縁については当事者の自由な処分を認めていい,というわけです。なお,「認諾・放棄・和解」はできませんが,「取下げ」はもちろん自由です。訴訟追行を強制されるいわれはないのですね。

6.当事者尋問等の公開停止

これが「できる」ということを押さえておいてください(22)。プライベートなことが問題になる事件なんですよね。

7.既判力の主観的範囲(対世効)

有名なところでしょうかね。もちろん重要です(条文は24)。扶養義務や相続に影響するので,対世効を認める必要があるのですね。また,上述の実体的真実主義(≒職権探知主義)などから正当化されると言われます。

8.訴えの変更・反訴

実体的真実主義から,民訴143などの規制はなく自由にできる,ということは押えてください(18)。

試験対策上はこのあたりでしょうかね。人事訴訟は,「実体的真実主義」を思考の出発点としていけば,わからない問題(肢)にもある程度対応できるようになります。

<参考文献>

梶村太一「実務講座・家事事件法」(日本加除出版)65頁以下


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2 コメント

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Unknown (miki)
2011-04-27 01:26:21
スタ短特訓でお世話になりました。先生の大ファンです:笑
今年ロー3年になったのですが、最近の民訴関連の記事は来年に向けて良い指針になりました。ありがとうございます。
講義も素晴らしかったですが、ブログも素晴らしく、勉強になる内容で毎日楽しみにしています。

先生、早く帰ってきてください☆お待ちしてます☆☆
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Unknown (はら)
2011-04-27 23:37:17
スタ短答特訓のご受講,ありがとうございます!ここらあたりは,スタ短特訓ではあまり触れられなかったのですよね。これで補充してください。そして,来年,一発合格を!

自由の身になって,仕事をいただけたら,是非早く復帰したいと思っています。もう半年も講義をしていないので,私自身もうずうずしています(笑)
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